認知症による症状の1つである徘徊は、さまざまなリスクやトラブルにつながる可能性があり、対応にお悩みの方も多いのではないでしょうか。
徘徊は、その原因や適切な対応策について知ることである程度の改善も期待できる症状です。 この記事では徘徊についての対処法や予防方法を解説しておりますので、参考にしてみてください。
徘徊とは
徘徊とは、国語辞典によれば、あてもなくうろうろと歩き回ることを指す言葉で、家から出て外を歩き回っている様子を示す言葉です。
徘徊は認知症の症状の1つでもあり、事故にあう可能性などさまざまなリスクがあるため、介護をしている家族にとって、たびたび大きなストレスの原因となる行為となります。
認知症による徘徊とは
徘徊は、認知症が原因で引き起こされる代表的な症状の1つで、認知症によって脳の働きが低下することによって引き起こされる認知機能障害(中核症状)と、身体的要因や環境的要因、心理的要因などの影響が組み合わさることによって生じます。
なお、徘徊という言葉は一般的にあてもなく彷徨うことという意味で使用されますが、認知症による徘徊の場合、本人にとっては何かしらの意味があったり、目的をもって行動している状態であるため、徘徊という言葉を使用しないようにしようという働きもあります。
大阪市などでは、徘徊という言葉を使わずに、ひとり歩きといった言葉を使用するなどの取り組みを行っていて、認知症による徘徊に対する適切な理解が広まるように働きかけを行っています。
徘徊によるリスクやトラブル
認知症による徘徊は、一般的な徘徊とは異なり、どのように行動すればよいのかがわからなくなってしまったり、どうすれば家に帰れるのかということがわからなくなるといった状態によって引き起こされるため、さまざまなリスクやトラブルの可能性があります。
特に大きなリスクの1つとしては行方不明になってしまうというものがあり、警察庁生活安全局人身安全・少年課の報告によれば、認知症関連が原因と見られる行方不明者の数は、平成30年には16,927人、令和元年では17,479人、そして令和4年では18,709と増加傾向にあり、行方不明者全体の20%以上となっています。
徘徊をしていたケースの人のなかには、保護をされても身元がわからず、行方不明者として病院や介護施設などで過ごしているということもあります。
また、徘徊をしている高齢者は身体能力も十分であるとはいえないケースも多く、何かしらの事故にあって大けがをしてしまったり、逆に車などを運転して事故を起こしてしまうようなトラブルを起こす可能性も考えられます。
徘徊の原因やきっかけ
認知症には、大きくわけて中核症状と周辺症状という二つの症状があります。
このうち中核症状というのは認知症のすべての人に見られる症状で、物事を忘れてしまうといった記憶障害と、時間や場所、人物などを理解する能力が低下する見当識障害がこれにあたり、徐々に症状が進行していく形となります。
一方の周辺症状は、中核症状と環境要因や心理的要因、本人の性格や体調といった要素が組み合わさることで現れる症状で、Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaという言葉の頭文字をとってBPSDとも呼ばれます。
徘徊は周辺症状の1つで、中核症状に加えて下記のような要素が組み合わさることで引き起こされると考えられています。
身体的な違和感による徘徊
身体的な違和感とは、お腹が空いた感覚がするので何か食べたり飲んだりするものが欲しいという感覚や、トイレに行きたいといった、通常であれば特に問題になることはないような感覚のことです。
認知症を患っている方の場合、こうした違和感から行動をはじめるものの、途中で自分が何をしようとしていたのかや、どこに行こうとしていたのかを忘れてしまい、違和感を持ち続けながら徘徊を始めてしまうことがあります。
このケースでは、何かものを食べたり、トイレにいくことで違和感が解消され、気持ちが落ち着くという場合もあります。
環境が原因になる徘徊
環境による原因は、なんとなく今いる場所が落ち着かない、居心地が悪いと感じることや、今自分のいる場所に見覚えがなくなってしまうといったものです。
介護が行われるようになると、家の中での介護がしやすいようにさまざまな介護設備を導入したり、部屋のレイアウトを変えたりといった対応が行われたりする場合がありますが、こうした環境の変化によっても混乱が生じ、自分の部屋が見知らぬ場所に感じてしまって外に出てしまうというケースもあります。
また、見当識障害によって今自分がいる場所が自宅と認識できなくなってしまうことで、帰宅しようとして外にでてしまったり、家族や知人を知らない人だと認識してしまい、不安になって衝動的に外にでてしまったりといった場合もあります。
心理的な原因による徘徊
本人の考え方や気持ちの変化などによる心理的な原因によっても、徘徊の症状が引き起こされるケースがあります。
心理的な要因としては主に下記のようなものがあげられます。
不安やストレスによる徘徊
以前はあたり前にできていたことができなくなってしまったり、身体が思うように動かなくなってしまったり、何かを思い出したくて思い出せなかったりといったような不安やストレスから、衝動的に外に出てしまい、そのまま徘徊へとつながってしまうケースがあります。
思考力・判断力の低下による徘徊
認知症の中核症状である記憶障害や見当識障害が進行すると、普段よく行くような慣れている場所でも道に迷ってしまうようになり、目的地への行きかたや帰りかたがわからなくなって徘徊へとつながってしまう場合があります。
迷ったらその場に留まるか、人に助けて貰うといった行動をとるといった選択肢も通常なら考えられますが、認知症の症状によって周囲の状況が判断できなくなっていると混乱を来たしてしまうため、適切な判断が難しくなってしまうのです。
過去の習慣や記憶による徘徊
記憶障害の1つとして、回帰型と呼ばれる、現状を忘れて昔の生活をしているつもりになってしまうというものがあります。
例えば、もう退職をしてかなり時間が経っているのに、本人の感覚では働いていた頃の自分に戻ってしまって、勤めていた会社に出社しようとしたり、習い事などに出かけたりしようとして外にでて、徘徊へとつながってしまうものです。
記憶が混同しているので、普段から接している家族のことが判断できなくなるケースもあります。
前頭側頭型認知症の症状による徘徊
一般的に認知症という場合は認知症全体の70%近くを占める、脳全体が萎縮していくことで生じるアルツハイマー型認知症を指すことが多いですが、認知症はこのほかにも前頭側頭型認知症や脳血管性認知症、レビー小体型認知症といったものがあり、それぞれ原因や特徴となる症状が異なります。
前頭側頭型認知症は脳の前頭葉や側頭葉が萎縮しておこる50~60代で発症しやすい認知症で、人目を気にしなくなったり、感情的になったり、同じ行動を繰り返したりするといった症状が特徴のものです。
前頭側頭型認知症の方は家の周囲を決まったコースで周るなどの行動を繰り返すことになりますが、その範囲が広がっていき徘徊につながるケースがあります。
そのほか、脳血管性認知症ではせん妄によって注意力低下や記憶が曖昧になっての徘徊となったり、レビー小体型認知症では幻視によって逃げるような形で歩き回って徘徊につながったりといった特徴的な行動もあるので、どのタイプの認知症なのかによっても適切な対応が異なる場合が考えられます。
徘徊の対処方法
徘徊は、第三者からみると当てもなくただ彷徨っているようにも見えますが、本人にとっては意味があって行動している結果であるため、対応によっては状態がより悪化していってしまう場合があります。
徘徊をしている、または徘徊してしまいそうな状態に気が付いたら、下記のような対処方法を行うことで、トラブルを防止しやすくなります。
無理に引き止めず気をそらす
外に出ようとしている本人を無理に引き留めようとしても、本人としては出かける理由を持っているため、行動を無理に抑制されたと感じてストレスとなり、症状の悪化や他害などの行動に出てしまう可能性があります。
外に出ることを無理に止めようとするのではなく、お茶でも飲んで一休みすることを提案したり、出かける前にトイレに行くことを提案したりで気をそらすようにすると、外にでようとしたことを忘れて徘徊を防止できる場合もあります。
責めたり怒ったりせず話を聞く
介護する側からすれば、徘徊をする人を責めたり怒ったりしてしまいたくなることも多いと思います。
しかし、脳が健康な状態であれば怒られたことに対して反省をして問題を繰り返さないようにという対応も期待できますが、認知症によって認知機能が衰えている状態では、なぜ怒られているのかが理解できなかったり、怒られたこと自体を忘れてしまい、怒られたときのストレスだけが残ってしまうという状態になる可能性もあります。
すると、そのストレスから介護者への不信感が強まって、家にいると落ち着かないという気持ちで余計に徘徊をするようになってしまうケースもあります。
逆に、徘徊した理由などを聞くようにすると、本人がどのような目的で動いたのかの理解が深まり、対策もしやすくなるほか、安心して過ごせるようになって徘徊のリスクを減らせる可能性もあります。
服や持ち物に名前と連絡先を書いておく
徘徊中に保護をされた方が、身元不明で家に帰れなくなるというケースもあります。
服や持ち物に名前と連絡先をしっかりと書いておくようにすると、保護されたときにすぐ連絡が貰えるようになるため、行方不明のリスクを軽減できます。
警察や地域の人に協力を求める
徘徊が見られるようになったら、問題が起こる前に周辺の方や警察に相談をしておくというのも有効な対策の1つです。
認知症により徘徊する可能性があることを知っておいてもらうだけでも、外で見かけたときに連絡などを受けやすくなり、トラブルを未然に防ぎやすくなります。
徘徊の予防方法
徘徊がなるべく発生しないようにするために、下記のような対応を行うとよいでしょう。
ストレスの原因を取り除く
人間関係や環境へのストレスがあると、不安な気持ちが募って衝動的に外に出てしまい、徘徊へとつながる可能性があります。
特に、環境の変化はストレスにつながりやすいため、できる限り健康なときと同じような部屋の配置にしたり、思ったとおりの行動がしやすいような環境を整えるといった対応を行い、環境への安心感を強めるようにしましょう。
徘徊の行動パターンを把握する
徘徊は本人としては何かしらの意味があって行うものですので、よく話を聞いてみるなどすると、どのようなタイミングで徘徊につながるのかや、徘徊した場合にどのような行動をとるのかといったパターンが見えてくる場合があります。
行動パターンを把握しておくことで、未然に徘徊を防いだり、徘徊してもすぐに見つけやすくなるため、トラブルのリスクを減らせます。
適度な運動で生活リズムを整える
特に夜間徘徊などが発生している場合、体内のエネルギーがあり余った状態でいることが1つの原因であるため、一緒に散歩するなど適度な運動を行って、生活リズムを整えることも有効な対策となります。
適度な運動は心身の健康状態にもよい影響となりますので、医師などと相談しながら、適度な強度での運動を取り入れるとよいでしょう。
趣味を持ったり、仕事や役割を与えたりする
何もすることが無かったり、話し相手がいないとストレスが募り、焦りから外に出ようとしてしまいやすくなります。
楽しめる趣味や、集中できる手仕事などがあると、自分の居場所がここだと認知しやすくなり徘徊を防止することにつながります。
介護サービスを利用して日中の活動量を増やす
適度な運動などを一緒に行うことが難しいようであれば、デイサービスなどの介護サービスを利用して、日中の活動量を確保することも有効です。
要介護者だけではなく、介護者のストレスを軽減することにもつながるため、可能であれば積極的に利用した方がよいといえるでしょう。
徘徊前に気付ける環境を作る
家の中の視認性を確保して要介護者がどこにいるのかを分かりやすくしたり、玄関を開けたときに音がなるようにセンサーやベルをつけるなど、徘徊になる前に気がつける環境を作ることも、トラブルを軽減するための1つの方法です。
徘徊で行方不明になってしまった場合の対処方法
もし徘徊で行方不明になってしまったら、まずは躊躇をせずできる限り早めに警察に届け出るようにしましょう。早く連絡をすればそれだけ狭い捜索範囲ですみ、無事に発見できる可能性も高くなります。
また、徘徊見守りSOSネットワークといって、介護保険事業者などが行方不明者の情報を共有し、協力して捜索してくれるシステムを利用するのも有効な手段です。
徘徊見守りSOSネットワークは地域ごとに提供が行われ、事前の登録などが必要となる場合もありますので、徘徊の可能性があるようであれば早めに相談しておくとよいでしょう。
編集部まとめ
認知症による徘徊は、さまざまな要因によって引き起こされますが、本人にとっては何かしらの目的をもった行動の結果であり、その理由をしっかりと理解してあげることが、有効な防止対策にもつながります。
適切な対応により徘徊のリスクは軽減できますので、この記事を参考に対策を行ってみてくださいね。