認知症の人への接し方|接し方の基本とシーン別の接し方、認知症の特徴も解説

認知症の人への接し方|接し方の基本とシーン別の接し方、認知症の特徴も解説

日本は高齢化の進行に伴い認知症の患者さんが増えており、2012年時点で約462万人いた認知症高齢者は2025年には約700万人に達する見込みです​。誰もが認知症の方と関わる可能性があるなか、認知症患者さんへの接し方を正しく理解することが重要です。認知症の中核症状や周辺症状に応じて対応を工夫し、本人の尊厳と安心感を守る接し方が求められます。本記事では、認知症の方への基本的な接し方やシーン別の具体的対応方法、困ったときの相談先を解説します。

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認知症の特徴

認知症では脳の障害によりさまざまな症状が現れます。主な中核症状として物忘れ、見当識障害、理解力や判断力の低下、人格や性格の変化があります。さらに、病気の進行に伴ってBPSD(行動心理症状)や日常生活動作(ADL)の障害も現れてきます。それぞれの特徴を理解し、症状に合った対応を心がけることが大切です。

物忘れ

物忘れは認知症の初期に現れやすい症状です。特に最近の出来事を忘れることが顕著で、数分前や直前にした会話や行動を思い出せなくなります。一方で、昔の記憶はある程度保たれ、昔のエピソードは鮮明に語れるのに今起きたことを忘れてしまうという特徴があります。物忘れがあっても本人に自覚がない場合も多く、何度も同じ質問を繰り返したり探し物が増えたりします。

見当識障害

見当識障害とは時間や場所、人物など自分の置かれた状況を正しく認識できなくなる症状です​。時間の見当識障害では季節感や昼夜の区別がつかなくなり、夏なのに厚着をしたり、朝食を食べたことを忘れて何度も食べようとすることがあります​。場所の見当識障害では、病院を受診しているのに「家にいる」と言うなど、自分がどこにいるのかわからなくなります。

理解力や判断力の低下

認知症になると認知機能全般が低下し、会話の内容を理解したり状況を判断したりする力も衰えてきます。複雑な話を理解したり即座に判断することが難しくなり、適切な意思決定に支障をきたします。判断力の低下により詐欺被害に遭いやすくなったり、本人も気付かないうちに借金を抱えてしまうこともあります​。このように日常生活上の判断ミスが増えるため、周囲の見守りとサポートが必要になります。

人格や性格の変化

認知症の進行に伴い、これまで穏やかだった方が怒りっぽくなる、几帳面だった方がだらしなくなるなどの性格の変化が見られることがあります​。特に、怒りっぽくなる例は代表的で、ほかにも頑固さが増す、失敗を人のせいにするなどの変化が報告されています​。こうした性格変化は前頭葉の萎縮による抑制の低下や、認知機能低下に伴う不安や混乱が原因と考えられています​。

BSPD

BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)とは、認知症の中核症状に付随して現れる周辺症状で、行動面や心理面のさまざまな変化を指します​。BPSDの現れ方には個人差がありますが、代表的なものに抑うつや不安、妄想、幻覚などがあります​。BPSDが出現すると家族にとっても対応が難しくなりますが、これらの症状は本人の不安やストレスが背景にある場合が多く、適切なケアや環境調整で和らぐこともあります​。

日常生活動作(ADL)の障害

認知症が進行すると記憶障害や判断力低下だけでなく日常生活動作にも支障が出てきます。食事や着替え、入浴、排泄など身の回りのことを自分一人で行うことが徐々に難しくなり、介助が必要になる場面が増えます。認知症の中期以降では徘徊や失禁、性格の著しい変化なども見られ、介護者の支えなしには日常生活を送るのが難しくなっていきます。

認知症の人への接し方【基本編】

認知症の方と接する際は、症状による困難さに配慮しつつも一人の尊厳ある人格として接することが基本です。以下に、認知症の方とコミュニケーションを取るうえで心がけたい基本的なポイントを解説します。

視線を合わせて話す

話しかけるときは目をしっかり見て、視線を合わせながら話しましょう。視線を合わせることで「自分に話しかけている」と認識してもらいやすくなり、安心感を与える効果があります​。

敬意を持って話す

相手を子どものように扱わず、大人として敬意を持った対応を心がけます。できないことが増えると介護者側もつい苛立ち「なんでこんなこともできないの?」と責めたくなるかもしれません。しかし、そのような言動は本人の尊厳を傷つけ、関係性を悪化させるだけでなく症状の不安定さを助長します​。怒鳴ったり命令口調で接するのではなく、あくまでも本人の意思を尊重し丁寧な言葉遣いで接しましょう​。

ゆっくり大きな声で話す

ゆっくりと聞き取りやすい声の大きさで話しかけます。高齢者は聴力が衰えている場合も多く、また認知症による理解力低下で長い文章は頭に入りにくくなります​。できるだけ短く簡潔な言葉で、一つひとつ区切るように話すと理解してもらいやすくなります​。大きな声といっても怒鳴る必要はなく、相手に届く適度な音量で、ゆったりとしたペースで話すことが大切です。

無視をしない

認知症の方の言動に対して決して無視したり放置したりしないようにしましょう​。同じ質問を繰り返されたり、会話がかみ合わない場面で、つい返事をせず流してしまいたくなるかもしれません。しかし、反応がないと本人は孤独感を深め、不安やストレスが高まります​。否定や叱責ではなく受容と共感を示すことで、安心感を持ってもらえるでしょう​。

家に閉じこめない

徘徊の心配があるからといって、部屋や家に鍵をかけて閉じ込めてしまうのは逆効果です。自由に外出できないストレスが認知症の方の不安と怒りを増幅させ、暴言や暴力など問題行動をかえって助長する恐れがあります​。安全を確保したうえで適度な外出機会を設けることが大切です。例えば、介護者が付き添って一緒に散歩に出かけたり、デイサービスや地域のサロンに参加するなど、閉じこめない代わりに安心して活動できる場を提供しましょう​。

認知症の人への接し方【シーン別】

ここからは、認知症の方によく見られる状況ごとに具体的な接し方のポイントを解説します。症状ごとの適切な対応策を知っておくことで、慌てず落ち着いて対処できるようになります。

物忘れへの接し方

忘れてしまったことを責めないのが大切です。本人に悪気はなく忘れてしまっているだけなので、「この前も話したでしょ!」などと叱責すると自尊心を傷つけ、不安や混乱を招きます。何度も確認するのは本人なりに不安を打ち消そうとする行為ともいわれています​。カレンダーやメモを活用して安心できる環境を整え、穏やかに繰り返し説明しましょう。

食事中の接し方

認知症の方が食事をうまくとれないときは、食事を楽しめる環境づくりとちょっとした工夫が重要です。食卓には食事と関係ない物を置かず、テレビなどの音も消して集中できる静かな環境を整えましょう​。嚥下や咀嚼が難しくなっている場合は刻み食やとろみをつけるなど食形態を調整します。本人の好きな献立を取り入れる、彩りを工夫して食欲を刺激するなどの配慮も大切です。

被害妄想への接し方

「周囲の方が自分を陥れようとしている」「大事な物を盗まれた」などの被害妄想が現れたときは、内容を否定せず本人の不安な気持ちに寄り添うことを心がけます。まずは「それは心配だね」「嫌な思いをしたね」と共感的に話を聞き、落ち着かせてあげましょう​。話を十分に聞いたうえでさりげなく注意をそらしたり、安心できる話題に切り替えるのも有効です。被害妄想の対象が特定の方に向いている場合は、介護者は可能な範囲で少し距離を置きつつ、ほかの支援者の手も借りて対応するとよいでしょう​。

幻覚への接し方

幻覚が現れているときは、決して「それは存在しない」と否定しないことが重要です​。たとえ周囲からはありえない光景に思えても、本人には実際に見えている、聞こえている現実です​。危険を伴う幻覚の場合はさりげなく注意を逸らしつつ、安全の確保に努めます​。環境面では部屋を明るく保ち、幻視の原因になりやすい影や映り込みを減らす工夫も有効です​。

徘徊への接し方

認知症の方がふらりと徘徊に出てしまう場合も、頭ごなしに叱ったり力ずくで止めたりしないようにしましょう​。徘徊には本人なりの理由や目的があるといわれています。できれば介護者も一緒に外出し、付き添って見守りながら散歩するのが理想です​。一方、常に付き添えない場合は事前の安全対策が重要です。例えばGPS機能付きの徘徊感知機器や居場所探索サービスを活用し、万一一人で外出してしまっても早期に発見できるようにします​。

物盗られ妄想への接し方

「財布を盗まれた」などと物盗られ妄想を訴える場合、本人にとってそれは真実同然なので強く否定しないことです。「誰も盗ってないよ」と説明しても疑いは晴れず、かえって怒りが増すことが多いため​、まずは「それは大変!それは困ったね」と共感して一緒に探す姿勢を示します​。本人と一緒に探しながら、盗まれたと思っている物が本人の手で見つけ出せるよう上手に誘導するのがポイントです​。

暴力や暴言への接し方

認知症の方が興奮して暴言や暴力を振るってしまう場合、周囲は安全を確保しつつ落ち着かせる必要があります。まず大切なのは介護者が感情的にならないことです​。怒鳴り返したり力で押さえつけようとすると、本人にとって大きなストレスとなり興奮をエスカレートさせてしまいます​。興奮が強いときは下手に説得しようとせず、刺激を最小限にして静かに見守るのも一つの方法です​。周囲の方はいったん距離を置き、危険な物をそっと片付け、必要なら別室で様子を見るなどしてクールダウンの時間を与えます。

認知症の人への接し方で悩んだときの相談先

認知症の方の介護や接し方に悩んだら、抱え込まずに専門機関へ相談しましょう。日本全国には認知症の方や家族を支えるさまざまな相談窓口があります。

認知症専門医への相談

もの忘れ外来や認知症外来などを設けている病院で専門医に相談できます。各都道府県には認知症疾患医療センターが指定されており、認知症の診断や行動症状への対応について専門的な医療相談が受けられます。必要に応じて適切な治療や薬の処方、ケア方法のアドバイスをもらえるでしょう。

地域包括支援センター

身近な総合相談窓口として役所などに設置されている地域包括支援センターでは、医療や介護、福祉に関するあらゆる相談を受け付けています​。担当職員が認知症の方や家族の状況を伺い、必要に応じて適切なサービスや制度につないでくれます​。地域包括支援センターはすべての市町村に設置されているため、困ったときはまずお住まいの地域のセンターに問い合わせてみましょう​。

認知症の人と家族の会

認知症の本人や介護家族で構成される公益社団法人 認知症の方と家族の会は、各都道府県に支部があり電話相談や交流会を行っています​。経験者だからこその共感的なアドバイスが得られ、介護の悩みや不安を打ち明けることで心理的な支えになるでしょう。定期的に開催される家族交流会に参加すれば、同じ立場の家族同士で情報交換や気持ちの共有ができます。

認知症カフェ

全国各地で開設が進む認知症カフェ(オレンジカフェ)は、認知症の方や家族、地域の方が気軽に集い相談できる場です​。お茶を飲みながらリラックスした雰囲気のなかで専門職やボランティアに相談したり、ほかの家族と交流したりできます​。

公的な支援制度

介護保険制度をはじめ、公的なサービスも積極的に活用しましょう。要介護認定を受ければデイサービスやホームヘルプ、ショートステイなどさまざまサービスが利用可能です。介護者の負担軽減策として、市区町村によっては家族支援相談窓口やレスパイト入院制度を設けているところもあります。また、認知症初期の段階から支援する認知症初期集中支援チームが各地に配置されており​、専門職が自宅を訪問して介護方法の指導や必要なサービス調整を行ってくれます​。こうした公的支援を遠慮なく利用することで、介護者の心身の負担を和らげ長期的に在宅生活を続けやすくなります。

まとめ

認知症の方への適切な接し方は、本人の尊厳と安全を守りつつ症状による困難を和らげるうえで欠かせません。基本的な接し方のポイントを意識しながら、状況に応じた柔軟な対応を心がけましょう。また、決して感情的に否定せず共感と安心感を与える姿勢で寄り添うことが大切です。そして、介護者だけで抱え込まずに地域の支援サービスや専門家を上手に頼ることもポイントです。​認知症の方ができる限り穏やかに、そして周囲も安心して過ごせるよう、本記事で紹介した接し方の工夫や支援制度をぜひ活用してみてください。


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