認知症の症状にはさまざまなものがありますが、認知症が進行すると誰でも現れる中核症状の1つに実行機能障害があります。
この記事では実行機能障害の原因や症状、そして対処法などについて詳しく解説していますので、認知症についてよく知りたいという方は参考にしてみてください。
実行機能障害について
- 実行機能障害とはどのような症状ですか?
- 実行機能障害は、遂行機能障害とも言われることがあるもので、何かをしようと考えたときに、論理的にどのようにそれを実行するかという計画を立てて、効率的に実施するということが困難になる障害です。 例えば食事の準備しようとしたとき、通常であれば家にある食材を確認して、お店で必要な食事を買い揃え、ご飯を炊いたりおかずを作ったりといったことを並列して進め、それぞれをお皿に盛り付けて食べるという流れになりますが、実行機能障害があると、お店で家にある食材のことを忘れてしまい何回も同じものを買ってしまったり、並列してご飯とおかずを作ることができなくなったり、食事を盛り付けることを忘れてしまったりといった状態になります。
また、例えばお店で買う予定であった食材がなかった場合、通常であれば変わりのものを購入したり、ほかのお店に行くといった切り替えができますが、予定外のことによって混乱を起こしてしまい、何もできなくなってしまうといった状態になる場合もあります。
このように、一つひとつの物事を進めることはできても、一連の流れとして効率的に実施したり、イレギュラーに対応したりといったことがで難しくなる状態が実行機能障害です。
一連の流れとして対応ができないため、1つのことに執着してしまい、それが完了できないとほかのことが進められなくなるといったような状態になることもあります。
- 実行機能障害の原因を教えてください
- 実行機能障害は、認知症において誰にでも発生する中核症状の1つです。
認知症にもいくつかのタイプがありますが、大半はアルツハイマー型認知症と呼ばれるもので、これは何かしらの原因で脳にアミロイドβという特殊なタンパク質が蓄積され、それが脳の神経細胞を破壊して、脳が委縮していくことによって発症、進行していくものです。 アルツハイマー型のほかにも、脳梗塞や脳出血といった脳血管障害によって血流が阻害されることで脳の一部が壊死しておこる血管性認知症や、レビー小体という神経細胞にできる特殊なたんぱく質が脳に蓄積されることで脳が萎縮するレビー小体型認知症、脳の前頭葉や側頭葉が萎縮しておこる前頭型頭型認知症などがありますが、いずれも脳の一部が破壊されて萎縮していくという原因で症状が引き起こされます。
脳にはさまざまな機能がありますが、大脳皮質内の前頭連合野という部分が実行機能を司っていると考えられていて、認知症の進行によってこの部分が損傷をうけると、実行機能障害が起こりやすくなるとされています。
- 実行機能障害の検査方法やチェック方法を教えてください
- 実行機能障害が生じているかどうかについて、専用のチェック方法などはありませんが、下記のような症状が当てはまる場合は可能性があると考えてよいでしょう。 ・段取りが悪い
・何を優先して行うかが決められない
・予想外のことが起こると混乱する、パニックになる
・要点がわからない
・ミスをすると修正ができない
・1つのことにこだわって物事が進められなくなる
実行機能障害の治療法と対処法
- 実行機能障害は治すことができますか?
- 実行機能障害は認知症の中核症状であり、脳が萎縮して引き起こされる症状ですので、現在のところ完全な治療法は確立されておらず、元の状態に治すということができません。
実行機能障害に限らず、認知症の中核症状は治療によって回復させることが難しく、そのため適切なケアによって進行を遅らせることが重要となっています。 ただし、脳細胞としての回復は難しくても、対応の方法を変えることでできない部分を補ったり、脳を活性化させてできることを増やしたりして、日常生活上で問題が出にくいようにしていくことは可能ですので、適切な対応やリハビリを行うことが大切です。
- 実行機能障害のリハビリ方法を教えてください
- 実行機能障害の症状を改善させるためのリハビリでは、ものごとの解決方法や計画の立て方を一緒に考えていくという訓練や、マニュアルにしたがって手順どおりに実施していくという訓練、スケジュールを組んでパターン化された行動に取り組む訓練などが行われます。
家庭で行える内容としては、物事を順序だてて行っていくという能力を回復させることが必要になるため、何かを実行する場合の一つひとつの手順をかき出したマニュアルを作成し、それにしたがって進めるといったことを繰り返すようにするなどの方法が考えられます。
- 実行機能障害を持つ方への接し方のポイントを教えてください
- 実行機能障害を持つ方は、曖昧な事柄の把握が難しかったり、一連の流れとして指示を受けると、理解ができなくなってしまう可能性があります。
そのためにはまず、接し方としてはまず抽象的な表現は極力避けて、具体的に指示するようにすることや、できる限り手順を細かく分解して、1つずつ伝えながら進めるといった形を心がけることや、リストとして目に見える形に書き出すといった対応をするとよいでしょう。 また、周囲にいろいろなものがあると混乱する原因となるため、家具や物の数を減らしてシンプルかつ整理された環境を用意することや、小さなことでも1人で計画から実行までできた場合には肯定的な言葉によるフィードバックを行うこと、そして起床時間や食事時間などのルーティンを作って、安定した生活の流れを整えることなども、効果的な支援の方法として有効です。
認知症と実行機能障害
- 実行機能障害は認知症特有のものですか?
- 実行機能障害は認知症によって生じるものですが、知的発達障害や多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラムといった症状がある方は、実行機能の弱さが1つの課題となっている面があります。 とはいえ、認知症による実行機能障害は元々できていたことが脳の萎縮という変化によってできなくなるもので、発達障害などの場合と状況としては異なっているため、病状の進行によって発生するものとしては認知症特有のものということができます。
- 認知症の中核症状とはなんですか?
- 認知症によって生じる症状は、脳の萎縮という変化によって誰にでも引き起こされる中核症状と、本人の性格や環境といった外部要因が影響して引き起こされる周辺症状にわかれます。
中核症状としては実行機能障害のほか、物事を忘れてしまう記憶障害や、自分が今どこにいるかがわからなくなったり、他人を正しく認識できなくなる見当識障害、物事への理解や判断ができなくなる状態、言葉が出てこなくなる失語、お箸やハサミといった道具の使い方や、服を着るといった行動ができなくなる失行、見えているはずのものが認識できなくなる失認といった症状があります。
- 実行機能障害によって起こる可能性があるリスクを教えてください
- 実行機能障害があると、やろうと考えたことが思うようにできなくなってしまうため、生活そのものがままならなくなるというリスクがあります。
食事や排泄といったそれぞれの行為が適切に行えなくなってしまうことで、自立して生活することが難しく、介護者なしで生きていくことが困難になります。
また、やろうと思ったことができないことで心理的なストレスとなり、そのストレスが認知症の進行を早めてしまう可能性もあります。
編集部まとめ
実行機能障害は、認知症の中核症状の1つで、物事を効率的に進められなくなるといった障害です。
認知症は完全な治療方法は今のところありませんが、症状の進行を遅らせたり、リハビリによって生活力を改善させるといった対応は可能となりますので、医師に相談しながら、根気強くケアを続けていくことが大切です。