認知症の方の要介護度を決定する際の指標の1つに、認知症高齢者の日常生活自立度というものがあります。この記事では、具体的にどのように判定が行われるのかや、どういった場面で活用されるのか、そして判定を受ける際のポイントなどについて解説いたします。
認知症高齢者の日常生活自立度について
まずは認知症高齢者の日常生活自立度が具体的にどのようなものなのか、なぜこの評価が必要になるのかなどについてご紹介します。
認知症高齢者の日常生活自立度とは
認知症高齢者の日常生活自立度は、認知症の方が、その症状の程度からみてどの程度日常生活で自立して活動できるかというものを客観的に評価したもののことです。
どの程度適切に意思疎通が図れるのかや、認知症特有の症状や行動がどの程度の頻度で見られるのか、またその症状や行動がどのようなタイミングで生じるのかといった部分で評価が行われ、ランクⅠからランクⅣ、そしてランクMという5つの段階にわかれています。
認知症高齢者の日常生活自立度は介護保険制度における要介護認定に利用されていて、コンピューターで行われる一次判定や、介護認定審査会における審査判定の参考として活用されています
障害高齢者の日常生活自立度との違い
認知症高齢者の日常生活自立度と似ているものに、障害高齢者の日常生活自立度があります。
障害高齢者の日常生活自立度は寝たきり度とも呼ばれ、高齢者がどの程度自立して日常生活を送れるかを評価するものです。
これらの違いは、認知症高齢者の日常生活自立度が主に認知症によって日常生活に支障を来たすような行動の度合いといった判断力や思考力などの低下に伴う影響を評価したものであるのに対し、障害高齢者の日常生活自立度は身体機能の低下による影響を評価したものとなっていて、脳の状態からみた自立度と、身体の状態からみた自立度という違いになります。
障害高齢者の日常生活自立度では歩行が可能であるかどうかや、歩行が難しい場合には車いすに自分で移乗できるかどうかといった状態で評価が行われ、完全に寝たきりの場合には自力で寝返りが可能かどうかによって分類がされるようになります。
障害高齢者の日常生活自立度も認知症高齢者の日常生活自立度と同じく要介護認定の判定に使用され、それぞれの評価と基本調査によって要介護の判定が行われます。
認知症高齢者の日常生活自立度が活用される場面
認知症高齢者の日常生活自立度による判定は、医療現場や介護現場などで活用されています。
医療現場においては主治医意見書への活用や、認知症の方のリハビリテーション計画や看護計画を立てる際の参考に活用され、介護現場ではケアプランや介護計画、個別機能訓練計画などを作る際に活用することで、適切な計画を立案しやすくなります。
また、活用される場面として特に介護へ大きく影響するのが、介護保険の申請や介護保険によるサービスを利用する際に必要となる要介護認定への影響です。
要介護認定とは、介護サービスがどの程度必要であるかを判断するもので、要支援1から2、要介護1から5という7つの段階で認定がされます。
要介護認定を受けると、介護サービスを利用する際の費用に対する補助を受けることが可能となるほか、福祉用具のレンタルや介護施設への入居が可能となり、介護のための負担を軽減することができます。
要介護認定によって介護サービスの必要度がどの程度と認定を受けるかによって給付金の限度額や入居が可能な施設などに違いがでるため、判定はコンピューターによる一次判定と、保健医療福祉の学識経験者5名で構成された介護認定審査会による二次判定という2段階で厳密に審査が行われ、市区町村の窓口で申請を行ってから30日程で結果が通知されます。
コンピューターによる一次判定において判断の材料となるものが訪問調査の内容と主治医意見書で、認知症高齢者の日常生活自立度はこの両方ともに影響します。
障害高齢者の日常生活自立度などほかの指標による影響もあるため、必ずしも認知症高齢者の日常生活自立度での判定が高いランクであれば要介護認定も高いランクで得られるわけではありませんが、大きな影響を与えるものであることは間違いないといえます。
認知症高齢者の日常生活自立度の判定基準
認知症高齢者の日常生活自立度での評価は、大きく5段階のランクにわかれていて、一部のランクではそのなかでさらに細かい分類がされています。 それぞれのランクについて、解説します。
ランクⅠ
ランクⅠは、認知症にかかっていることは確かであるものの、日常生活についてはほぼ自立しているため、一人暮らしをすることも可能な状態の場合に受ける評価です。
ランクⅠと判定された方の場合は特に介助や見守りといった対応が必要とはなりませんが、認知症による症状は確認されているため、相談や指導の実施によって症状の改善や、認知症の進行を阻止するための対応が必要となります。
ランクⅡ
日常生活に支障を来たすような症状が多少みられるという場合は、ランクⅡ以上に分類されます。
ランクⅡの状態では認知症による行動や意思疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意をしていれば自立が可能であるという評価で、完全な一人暮らしは困難であるため、同居家族のサポートや日中の在宅サービスなどを利用し、生活の支援と症状改善、そして更なる進行の阻止を図ることとなります。
ランクⅡの評価は、日常生活に支障を来たすような症状が家庭外だけで生じているのか、または家庭内でも生じているのかによって、ランクⅡaとランクⅡbに評価がわかれます。
ランクⅡa
ランクⅡの評価の内、道によく迷ってしまったり、買い物の際のお金の管理などで、それまではできていたことに対してミスが目立つようになるなど、家庭外で日常生活に支障を来たすような症状が見られる場合の評価です。
ランクⅡb
家庭外だけではなく、薬の管理ができないという、電話応対が困難、訪問者の対応が一人では難しく留守番が行えないなど、家庭内でも日常生活に支障を来たすような症状が出ている場合にはランクⅡbとして評価されます。
ランクⅢ
ランクⅡよりも認知症の症状が進行し、日常生活に支障を来たすような症状や行動、そして意思疎通の難しさが見られる回数が増え、自立した生活が困難となり、生活をするためには誰かしらの介護が必要とされる状態はランクⅢに分類されます。
ただし、一時も目が離せない程の状態ではなく、夜間の住宅サービス利用などを組み合わせることで対応を図る形となります。
日常生活に支障を来たすような症状や行動について、具体的には、着替えや食事、トイレといった日常生活が困難であったり、長い時間を要する状態や、徘徊や大声、奇声をあげるといった行為、失禁や不潔行為、性的異常行為、物を拾い集めたり、やたらに物をお口に入れたりといったような行動、火の不始末などがあげられます。
こういった状態や行動が主に日中と夜間のどちらで見られるかによって、ランクⅢaとランクⅢbに分類されます。
ランクⅢa
上述のような日常生活に支障を来たす症状や行動が、主に日中を中心として見られる場合はランクⅢaと分類されます。
夜間にはまだ症状や行動が落ち着いているため、まだ介護の対応がしやすいと考えられます。
ランクⅢb
症状や行動が、夜間を中心として見られるような状態は、ランクⅢbとして評価されます。 地域での連携などが難しくなることなどから、適切な対応がより難しくなることが考えられます。
ランクⅣ
ランクⅣは、上述のような日常生活に支障を来たす症状や行動が頻繁に見られるようになり、常に介護を必要とするような状態です。
ランクⅢとの違いは症状や行動の頻度で、明確に回数などの基準が定まっているものではありませんが、一時も目を離せないような状態と判断されるとランクⅣの評価となります。
家族の介護力が高く、しっかりとしたケアを行える在宅基盤がある場合は在宅サービスなどを利用しながら生活を続けることが可能ですが、そうでない場合は特別養護老人ホームや老人保健施設などの施設サービスを利用するという選択が行われることとなります。
ランクM
ランクⅣまでは介護がどの程度必要かという点での分類であるのに対し、ランクMは専門的な医療による治療が必要という状態です。
具体的には、せん妄(脱水や貧血などの際に生じるような、朦朧として意識が混乱する状態)や妄想、異常な興奮、自傷や他害といった問題行動が継続するなどの著しい精子症状や問題行動、あるいは重度くな身体疾患が見られるような状態で、精神病院であったり、認知症専門棟のある老人保健施設、あるいは老人病院などの医療機関を受診することが推奨されます。
認知症高齢者の日常生活自立度の判定方法
認知症高齢者の日常生活自立度は認定調査員による、調査対象者への聞き取り調査によって判定が行われます。
認定調査員は市町村の職員や委託された法人、または自治体から委託されたケアマネージャーなどで、調査対象者とは認知症となっている本人のほか、家族などの介護を担っている方も含まれます。
認知症高齢者の日常生活自立度の判定の流れ
認知症高齢者の日常生活自立度の判定は、主に介護保険の申請に伴う、要介護認定の審査を行う一環として行われます。
そのため、最初に判定が行われるのは介護保険を申請するタイミングです。 自治体の窓口で介護保険の申請手続きを行うと、スケジュールの調整を行ったうえで調査員が自宅または病院などの調査対象者がいる場所を訪問し、聞き取り調査によって判定が行われます。
日常生活自立度判定の問題点
日常生活自立度の判定は、上述のとおり調査員による聞き取りでの調査となるため、認知症に対する調査員の理解度や経験の程度によっても、その結果にバラつきが出てしまうという問題があります。
客観的な判定が行えるように認定調査用のチェックシートは用意されているものの、最終的には調査員の主観による判断が含まれてしまうため、必ずしも公平な判定が行えるとは限らないこととなってしまうのです。
また、調査を受ける本人としては見知らぬ人物にいろいろと聞き出されることになるため、事実と異なる回答がされたり、緊張によってうまく話せなかったりというケースがあったり、逆に普段は認知症の症状がでているような方でも、緊張感からしっかりとした受け答えをしてしまい、適切でない面談結果になってしまう可能性があります。
日常生活自立度の判定を受ける際のポイント
適切な判定を受けるために、調査を受ける際には下記のような点に注意をしておくとよいでしょう。
面談には家族や介護者も同席する
面談を行う際は、普段介護を行っている家族や介護者も可能な限り同席しておくようにしましょう。
面談の時の様子がいつもと違った場合などに補足ができるので、適切な調査結果が得やすくなります。
なお、面談では必要に応じて調査員が個別に聞き取りを行うこともあります。
関わりがある第三者の話を聞いておく
ホームヘルパーやデイサービスといったサービスを利用している場合、家族と一緒にいるときと、家族がいないときでは症状や行動の程度に違いがある可能性があるため、事前に普段の様子を聞き取りしておくようにしましょう。
第三者による話を聞いておくことで、客観的な視点で調査に対応することができます。
特記事項として伝える症状をまとめておく
認知症高齢者の日常生活自立度の認定調査項目では、幻聴や幻視などの症状があるかについてや、暴言や暴行といった行いがあるかどうか、また排泄物を触ったりするといった不潔行為や、食べ物ではないものをお口に入れる異食行為といったような症状があるかといったような内容が調査項目に含まれていません。
しかし、こうした認知症の症状は調査結果に大きく影響する内容ですので、あらかじめまとめておき、なるべく正確な情報として共有が行えるようにしておくとよいでしょう。
直近1ヵ月の様子を記録しておく
認定調査を行うときは、直近1ヵ月程度の様子について聞き取りが行われます。
なんとなくこういう出来事があったと伝えるよりも、いつどのような症状があったかといった部分をなるべく正確に伝えるようにすることで、認定調査員も状況が把握しやすくなり適切な判定を得やすくなりますので、日々の様子や出来事をできる限り記録しておくようにしましょう。
編集部まとめ
認知症高齢者の日常生活自立度は介護認定を受ける際などに重要な指標となるもので、認定調査員による聞き取りで評価が行われます。 適切な評価を受けるためにはなるべく客観的に状態が伝わるようにしておくことが必要となりますので、事前にしっかりと準備を行って、正しく調査結果が得られるようにしておきましょう。