認知症はさまざまな原因によって脳細胞の死滅や活動の低下が起こり、記憶力や判断力などの脳の認知機能が低下する症状のことです。認知症を発症すると、記憶障害や見当識障害などの症状が現れ、日常生活に支障をきたします。同じく、もの忘れなどの症状が現れるのがアルツハイマー病です。認知症とアルツハイマーは同じ病気だと思われがちですが、実際には異なります。本記事では、認知症とアルツハイマーの違いについて、症状や治療法などを含めて解説します。
認知症とアルツハイマーの違い
認知症とアルツハイマーの違いはどこにあるのでしょうか。認知症とアルツハイマーについて、わかりやすく解説します。
認知症は病気ではなく症状を指す言葉
認知症とは、脳の病気や障害などによって認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす状態のことです。認知症という病名の病気があるわけではありません。認知症には複数の種類があり、認知症を発症した人の67.6%を占めるのがアルツハイマー型認知症です。このほかにも、レビー小体型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症などの種類があります。
アルツハイマー病は認知症の一種
アルツハイマー病は、認知症を引き起こす原因となる病気のひとつです。アルツハイマー病によって起こる認知症を、アルツハイマー型認知症と呼びます。
脳の神経細胞にアミロイドβというタンパク質が溜まることで、健全な脳神経細胞に影響して、脳の働きが低下したり脳の萎縮を進行させたりすることで発症します。アミロイドβが蓄積する原因としては、加齢や遺伝が影響していると考えられていますが、完全には明らかになっていません。アルツハイマー病では、脳の神経細胞が減少する、海馬を中心に脳が委縮する、脳に老人斑が広がる、神経細胞に神経原線維変化が見つかるなどの変化が現れます。
よくある症状はもの忘れ
アルツハイマー型認知症の場合、よくある症状として、もの忘れがあげられます。認知症一歩手前の段階であれば、日常生活に支障が出ない程度のもの忘れですが、認知症を発症してしまうと、体験したことをまるごと忘れるようになり、日常生活にも支障が出ます。
新しい情報を記憶するのが難しくなる、何度も同じ話をする、片づけたことを忘れて探し物をすることが増えるといった行動が見られたら、初期症状が現れている可能性があります。
個人差はありますが、症状が進行すると、時間や場所を認識できなくなる、もの盗られ妄想、夜間せん妄、徘徊、失禁、性格の変化などが起きて、日常生活にもサポートが必要になります。身体的機能が低下することもあるでしょう。
アルツハイマー病以外の代表的な認知症3つ
認知症には代表的な4つの種類があり、そのなかでも一般的なのがアルツハイマー型認知症です。本項では、アルツハイマー型認知症以外の代表的な認知症の種類をご紹介します。
レビー小体型認知症
レビー小体という異常なタンパク質が脳に蓄積し、脳の神経細胞が傷つくことで発症する認知症を、レビー小体型認知症といいます。レビー小体型認知症の場合は脳の萎縮は見られません。65歳以上の男性に発症する傾向があり、頭部の外傷や慢性的ストレスが発症に影響すると考えられています。
レビー小体とは、パーキンソン病を引き起こすタンパク質であり、レビー小体型認知症を発症すると、パーキンソン病のような症状が現れるのが特徴です。具体的には、手足の震え、身体のこわばり、歩行障害、幻視、うつ症状、睡眠時の異常行動などが見られます。症状の出方には波があり、一日のなかでも認知機能や体調が大きく変化します。気分や態度がコロコロ変わるのも、レビー小体型認知症の特徴といえるでしょう。
血管性認知症
血管性認知症は、認知症全体の約20%を占めており、アルツハイマー型に次いで発症者数がいる認知症です。脳出血や脳梗塞など、脳の血管障害が原因で起こるもので、脳の神経細胞が損傷して認知機能が低下します。損傷した脳の部位の機能が失われることで症状が出るため、損傷した部位によって症状が異なります。
主な症状としては、もの忘れ、手足のしびれ、麻痺、排尿障害、意欲低下、不眠、言葉が出にくくなる、感情のコントロールがきかなくなることがあります。血管障害の発作が起こると、次第に症状は重くなっていきます。生活習慣病が原因となることがあるため、生活習慣を整えることで予防が期待できます。
前頭側頭型認知症
前頭葉や側頭葉が委縮することで発症するのが前頭側頭型認知症です。社会性や理性を司る部位が前頭葉、感情や記憶を司る部位が側頭葉にあり、これらが損傷することで、行動や人格が大きく変わります。50〜60代に発症しやすく、10年以上をかけてゆっくりと進行していく傾向があります。
性格が極端に変わる、反社会的な行動が増える、物事を柔軟に考えることができなくなる、衛生面の管理ができなくなるなど、社会性や他者への配慮に欠けた言動が現れるのが特徴です。進行すると意欲が低下するため、これらの異常行動は少なくなっていきます。
アルツハイマー型認知症の症状について
アルツハイマー型認知症は、もの忘れから始まり、さまざまな症状が見られます。発症前の段階から、初期、中期、後期に至るまでの代表的な症状をご紹介します。
発症前の症状
アルツハイマー型認知症は、軽度認知障害(MCI)を経て、認知症を発症します。認知症の一歩手前である軽度認知障害では、もの忘れの症状が中心です。記憶力や注意力など認知機能の低下は見られますが、日常生活に支障がでる程ではありません。
軽度認知障害は、認知症を発症する10年前から兆候が現れることもあります。軽度認知障害では、1年で約5〜15%の人が認知症へ移行しますが、16〜41%の人はもとの健常な状態に戻るともいわれてます。この段階であれば、早期発見と早期治療によって認知症発症リスクを減らすことができますので、気になる点がある場合は、早めに病院を受診しましょう。
初期症状
アルツハイマー型認知症の初期段階では、最近の出来事を忘れる、同じことを何度も聞くなど、単なるもの忘れのレベルを超えた症状が見られます。
また、現在の日時や季節がわからなくなる見当識障害、計画的に物事を進められなくなる実行機能障害、その他には判断力の低下が見られます。もの盗られ妄想が現れることもあり、日常生活に支障が出てくるため、ケアやサポートが必要になります。しかし、料理や家事など、身の回りのことはできるため、本人も周囲も認知症の発症に気付かないパターンも少なくありません。
中期症状
中期症状では、記憶障害が進行し、数年から数十年前の出来事を忘れてしまう遠隔記憶障害が見られます。また、見知った人や場所がわからなくなる、物や人が認識できなくなる、入浴や着替えといった簡単な動作ができなくなる、物の名前が思い出せなくなる、言語障害、徘徊といった症状が現れます。
基本的な行為や日常会話が困難になるため、中期症状が見られる段階では、日常生活のサポートが必要な状態です。
後期症状
症状が進むと、自発性や意欲の低下によって記憶障害が目立たなくなります。中期以前から現れていた症状が重くなり、同居している家族、関係の深い人でもわからなくなる、歩行困難など身体機能が低下する、失禁、弄便、異食、嚥下障害といった症状が見られるようになります。
個人差はありますが、一日のほとんどをベッドの上で過ごしたり、少しずつ寝たきりになったりすることもあるでしょう。後期症状が出現する段階になると、生活のすべてに介助が必要です。家族だけで介護を行うのは大変なケースも少なくありませんので、介護サービスの利用や施設入居を検討して、介護者側の負担を減らすことも大切です。
アルツハイマー型認知症の原因
アルツハイマー型認知症は何が原因で発症するのでしょうか。アルツハイマー型認知症を引き起こしやすいといわれている人や日頃からできる予防策について解説します。
アルツハイマー型認知症になりやすい人
アルツハイマー病の有病率では、女性の方が男性の1.4倍高いという統計が出ています。
平成23年の厚生労働省の資料によると、認知症全体では男性の方が認知症になりやすいとされています。しかし、アルツハイマー型認知症において女性の有病率が高いのは、女性の方が長生きであること、女性ホルモンの減少が影響していることなどが理由であると考えられています。
また、平成24年の高齢者認知症者数は462人で有症率は15%とされており、これは65歳以上の約7人に1人が認知症であるということを示しています。加齢はアルツハイマー型認知症の発症の大きな原因であるといえます。
遺伝との関係
アルツハイマー型認知症の約5%は家族間遺伝が関係して発症します。約90%は遺伝とは関係のない孤発性のアルツハイマー型認知症です。遺伝子自体がアルツハイマー症状の出現を高める性質を持っていることもあります。
日頃からできる予防策
生活習慣の乱れは、高血圧、肥満、脂質異常症、糖尿病などにつながり、認知症の発症リスクが高まるとされています。
食生活は、バランスよく適切なエネルギー量を意識して、野菜や果物、豆類を積極的にとるようにしましょう。、サバやイワシ、サンマなど青魚を中心とした魚、緑茶や赤ワインに含まれるポリフェノールもおすすめです。
また、運動習慣を身につけることも大切です。週3回以上、1回30分以上を目安に、適度な運動を継続しましょう。ウォーキングや歩く量を増やすなど、意識的に運動量を増やすように心がけてください。
喫煙による酸化ストレスは、神経変性の進行に影響を及ぼす可能性があるといわれています。喫煙は認知症以外にも、あらゆる病気に悪影響を与えます。できるだけ早めに禁煙に取り組みましょう。
病院での検査
アルツハイマー型認知症が疑われる場合は、問診といくつかの詳細な検査によって総合的に診断が行われます。詳細な検査の内容について、代表的なものをご紹介します。
神経心理学検査
神経心理学検査では、医師による簡単な質問や図形描写などのテストが行われます。神経心理学検査の種類はさまざまですが、広く実施されているものとしては、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-S)、時計描画テスト、ミニメンタルステート(MMSE)、ABC認知症スケールなどがあります。
画像検査
画像検査とは、頭部をCTやMRIで撮影して画像から脳の形を調べる検査です。画像検査によって、脳の萎縮の仕方や程度、血流の低下などがわかります。画像検査では、別の病気と鑑別しながら、認知症についての診断が行われます。
病院での治療
認知症の治療方法としては、薬物療法と非薬物療法に大別されます。アルツハイマー型認知症の場合に行われる、それぞれの治療法を解説します。
薬物療法はおもに4種の薬を使用
アルツハイマー型認知症には、神経伝達物質のアセチルコリンの減少を防ぐ作用がある、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンの3種と、グルタミン酸の働きを抑える作用があるメマンチンの計4種類の薬が用いられます。ガランタミン、リバスチグミンはやる気を高めるタイプ、メマンチンは気持ちを落ち着かせるタイプの薬であり、中核症状の改善が期待できます。
リハビリなどの非薬物療法
薬を用いずに治療を行う方法を非薬物療法といい、主にリハビリなどが行われます。非薬物療法は、自発性を引き出して脳を活性化させ、認知機能を高めるための治療法です。音読や計算問題など、個々の患者さんに合った認知機能リハビリをはじめ、運動療法、音楽療法、回想法など、さまざまな取り組みが行われています。
家族がアルツハイマー型認知症になったときの注意点
認知症は、患者さん本人はもちろん、介護する家族にとっても大きな負担やストレスがかかるものです。家族がアルツハイマー病になってしまった場合に気を付けておきたい点を解説します。
失敗や問題を責めず相手の尊厳を守る
アルツハイマー型認知症になると、意思疎通がはかれなくなったり、思いどおりにならなくなったりすることが多く、介護する家族としても大きなストレスを抱えることになります。
認知症が原因の行動だとわかっていても、失敗や問題が起きたときには、本人を責めたり怒ったりしてしまいがちです。本人は失敗を責められたり叱られたりすると、自尊心が傷つけられたと感じてしまいます。叱られたことで委縮したり不満を感じたりすると、症状が悪化する可能性もあるため、信頼関係を崩さないように、接し方への注意が必要です。失敗や問題が起きた場合でも、穏やかな態度で寄り添うように接してください。
一人で抱え込まずに介護サービスを活用
介護のポイントは、ひとりで抱え込まないようにすることです。家族や周囲の人、専門家に相談して、適切なサポートを受けましょう。各自治体でさまざまな介護サービスが利用できますので、うまく活用していくことが大切です。
認知症の症状はさまざまであり、何度も同じことを繰り返し聞く、被害妄想によって家族を責める、介護自体を拒否するといった行動が起きるケースもあります。ときには暴言や暴力が現れることもあり、ひどい言葉を浴びせられる場合もあるでしょう。身体的にも精神的にも疲弊してしまう前に、介護サービスの活用を検討しましょう。
まとめ
認知症にはいくつかの種類があり、そのうちアルツハイマー病によって起こる認知症をアルツハイマー型認知症といいます。アルツハイマー型認知症は、もの忘れをはじめ、記憶障害、見当識障害、実行機能障害などが現れ、症状が進行すると生活すべてに介助が必要になります。認知症予防のためには、日頃から生活習慣を整えることが大切です。早期発見、早期治療によって症状の進行を遅らせることもできるので、気になることがあれば早めに病院を受診しましょう。