文章認知症の症状は、最初は物忘れなどがよく生じるようになったという軽度な状態からはじまり、徐々に進行していくものです。
この記事では、認知症の症状がどのような段階を経て進行していくのかについてや、段階に応じた適切なケア方法などについて解説します。
認知症症状の段階
- 認知症の前兆(軽度認知障害)とはどのような状態ですか?
- 認知症には、その前段階とされる軽度認知障害と呼ばれる状態があります。
軽度認知障害はMild Cognitive Impairmentの頭文字をとってMCIとも呼ばれ、認知症と診断されるような状態ではないものの、健常ともいえないような状態を指します。
そもそも、認知症は一人で自立して生活することが困難な程に認知機能が低下した状態を指しています。MCIは日常生活は正常に送ることができるけれど、認知機能の低下を感じていたり、同年代の人と比べて認知機能が低くなっているという状態で、認知症になる前の状態といえます。
軽度認知障害の状態を特に実感しやすいのが物忘れで、記憶力の低下がみられるというケースが多くなっています。
以前と比べて明確に物忘れが多くなってきたり、周囲から指摘されることが増えてきたという場合には、物忘れ外来などを受診してみるとよいでしょう。
なお、軽度認知障害は必ずしもその後認知症に以降していくというものではなく、1年で16~41%の人は、健康な状態に戻ることもわかっています。
残りのうち、5~15%の人が認知症へと移行し、後はその状態を維持するという状況になっているため、軽度認知障害の時点で適切なケアや対策を行うことで、認知症の予防をしたり、健康な状態への回復が期待できます。
- 認知症の初期症状について教えてください
- 認知症の初期症状(出現期)とされる状態には、主に4つの症状があります。
そのうちの1つが物忘れで、認知症による物忘れは加齢によるものとは異なり、忘れていること自体が思い出せないというケースが多くなっています。
例えば、加齢による物忘れでは昼に何を食べたかが思い出せないといった状態ですが、認知症の場合は昼食をとったこと自体が思い出せないといったような形です。
次に、集中力や注意力の低下があげられます。
認知症の症状が出てくると、テレビ番組などの話を追うことができなくなったり、お金の管理などができなくなるなど、物事に対する集中力がなくなって家事などが困難になるといった変化が生じる場合があります。
また、理解力や判断力の低下も認知症の初期症状の1つです。
外部からの情報をしっかりと認識して対応することができなくなるため、道を歩いていて車が近づいてきているのに避けることができなかったり、家族の会話についていけなくなったりといった状態が発生するようになります。
その他の変化として、性格の変化や趣味嗜好の変化も認知症で現れる症状です。
それまで温厚だった人が、急に怒りっぽくなったり、せっかちになったりと、性格が変わってしまったと感じるケースがあります。
認知症の初期段階では、こうした変化が徐々に強くなっていき、以前はできていたことができなくなるなどして、自立して生活することが困難になるなどの変化が生じます。
- 認知症の中期の症状について教えてください
- 認知症が進行していくと、中期または混乱期と呼ばれる状態となります。
中期の状態では物忘れや対応力の低下といった状態が激しくなって自立しての生活が困難になっていくほか、自宅への道順がわからなくなって家に帰れなくなってしまったり、ちょっとしたことで大げさに騒ぐといった状態が現れやすくなります。
認知症の周辺症状もよく見られるようになり、夕方になると自宅にいるにも関わらず、家に帰ろうとして外に出て徘徊をしてしまったり、突然大声をあげたりといった状態が生じる場合もあります。
ただし、一方ではまだいつもどおりに生活を送ることができる部分も残っていて、自力で行える部分も残っているため、特に介護が行いにくい時期ともいわれています。
また、急に暴言をはいたり、妄想や作り話をすることも増えてくるため、介護者が特に大変さを感じやすい時期ともいえます。
- 認知症末期とはどのような状態ですか?
- 認知症末期になると、失語や運動障害などの症状がでてくるようになるほか、失禁や嚥下障害といった症状なども生じるため、生活するための介護が必須となります。
意欲の低下などもおこりやすく、寝たきりになりやすいのも末期の特徴です。
場合によっては家族の顔も認識できなくなったり、意識の混濁が生じて意思疎通がしにくいといった状態になります。
認知症の種類
- アルツハイマー型認知症とは何ですか?
- アルツハイマー型認知症は、認知症の半数程度を占めるといわれていて、脳にアミロイド蛋白やタウ蛋白が蓄積することで、神経細胞の障害や細胞死を引き起こしていくものです。
脳の神経細胞が破壊されていくことで正常な脳の働きが失われ、物忘れが激しくなったり、時間や場所、人といったものを認識できなくなる見当識障害が生じたりといった症状につながっていきます。
現時点でアルツハイマー型認知症を根本的に治療する方法はありませんが、原因物質であるアミロイドを減らすなど、進行を遅らせたり予防する薬などは開発が進んでいて、健康保険診療で利用可能な薬剤などもあるので、早めに検査をして治療をすれば、症状を抑える効果も期待できます。
- 脳血管性認知症
- 脳血管性認知症は、脳梗塞などによって脳の一部が破壊され、それが原因で認知症の症状がでるものです。
認知症全体の20%を占め、高血圧や糖尿病、心疾患などといった、脳血管障害の危険因子を持っている方はリスクが高くなります。
- レビー小体型認知症について教えてください
- レビー小体型認知症はアルツハイマー型と脳血管性認知症と合わせて3大認知症の1つとされるもので、レビー小体という蛋白が大脳皮質に増えることで神経細胞が徐々に減少していくことで生じます。
特に記憶に関連する側頭葉や、情報処理を行う後頭葉に萎縮が見られやすく、これにより幻視などの症状が出やすいというのが特徴となっています。
身体が固まって動きにくくなったり、手の震えが生じるといったパーキンソン症状が現れることも特徴の1つで、寝たきりなどになりやすい認知症とされています。
- 前頭側頭型認知症とはどのような状態ですか?
- 前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉前方に萎縮が見られる認知症です。
前頭葉は人格や言語、側頭葉は記憶や言語を司るため、身だしなみに無頓着になったり、軽犯罪をするようになるといった社会性の欠如や、同じ行動を繰り返すようになるといった変化、相手に暴力をふるうなど抑制がきかなくなるといった変化が起こるなど、特徴的な症状があらわれます。
- 若年性認知症について教えてください
- 若年性認知症は、65歳以下という若い年齢で認知症が生じることで、認知症の原因そのものはアルツハイマー型や脳血管性など、高齢者の認知症と同様です。
認知症は高齢者がかかるものという認識から、物忘れなどの変化があっても認知症であることを疑わずに医療機関の受診が遅れて症状が進行してしまったり、経済的なトラブルが大きくなってしまいやすいといった問題点があります。
認知症が早く進行してしまう原因
- 認知症の進行が早まることはありますか?
- 認知症は、生活環境などによって進行を遅らせたり、早くなってしまったりすることがある症状です。
特に、強いストレスを感じることや、脳への刺激が不足することによって進行が早まりやすくなるため、何かに失敗して強く責められたり、誰とも会話しないような状態が続くと、認知症が進みやすくなります。
- ストレスは認知症の進行に影響しますか?
- 人は大きなストレスを受けると、脳内にストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールが多く分泌され、これが海馬という記憶を司る場所に影響を与えます。
そのため、ストレスは記憶力や認知機能の低下を招く影響となり、認知症の進行を早める原因となります。
また、ストレスを受けるような行動はなるべく繰り返さないようにしようとすることから、自分で何かをするという意欲が徐々に失われていってしまい、これが脳への刺激を低下させることで、認知症の進行が早まるといった影響もあります。
- 認知症が進行しやすい環境要因を教えてください
- 認知症は、規則正しい生活習慣や、適度な運動、人との交流による脳への刺激などによって、進行を予防することができます。
逆にいえば、不規則な生活になりやすい環境や、人との交流が制限されるような環境、運動ができないような状況では認知症が進行しやすくなるため、不自由を感じにくく、自分の思ったように行動ができるような環境を整えることが大切です。
- 認知症の進行を緩和させる方法はありますか?
- 上述の通り、適度な運動や規則正しい生活などは、認知症の進行を緩和させるために有効な対策です。
脳への適度な刺激を与えるという点で、認知機能向上のためのトレーニングなども有効なので、リハビリなどを利用して適切なトレーニングを受けることも、認知症の進行予防に役立ちます。
また、アルツハイマー型認知症に対しては4種類、レビー小体型認知症に対しては1種類の薬が認可されていて、薬を服用することで認知症の進行を予防することもできますので、認知症を疑う症状がある場合は、早めに医療機関で相談して適切なケアをうけるようにしましょう。
まとめ
認知症の症状には段階があり、適切な対応をしないと症状が進みやすくなる場合もあります。
逆に、適切なケアや治療をうければ症状の進行を予防することも可能ですので、気になる症状がある場合は早めに医療機関を受診して、適切な診断や治療を受けるようにするとよいでしょう。