親や家族が認知症になったときのお金の管理方法や注意点を解説

親や家族が認知症になったときのお金の管理方法や注意点を解説

認知症の患者さんは、認知機能の低下にしたがって日常生活を送ることにさまざまな支障をきたすようになります。その1つがお金の管理です。本記事では、認知症患者さんのご家族に向けて、発生しやすいお金のトラブルや管理方法、注意点を解説します。

認知症患者さんとお金のトラブル

認知症になったら発生しやすいお金のトラブルにはどのようなものがありますか?
認知症患者さんに起こりやすいお金のトラブルには、大きく3つのトラブルがあります。

1つ目は詐欺や悪質商法の被害です。認知症の初期段階では判断力が低下するため、悪質な訪問販売や電話勧誘による詐欺被害に遭いやすくなります。具体的には、不要で高額な健康食品の購入、リフォーム詐欺、架空請求詐欺、投資詐欺などが挙げられます。消費者庁の統計(2023年)によると、高齢者の消費者被害のうち、認知症患者さんが関与する場合は被害額が高額になりやすく、特に電話勧誘や訪問販売による被害が多いと報告されています。

2つ目は、銀行口座の管理ができなくなることによる支払いの滞納や未払いです。認知症が進行すると、光熱費やクレジットカードの支払いを忘れることが増え、料金未納によるサービス停止や延滞料金の発生につながることがあります。また、定期預金の解約や年金の引き出し手続きを正しく行えず、必要な資金を確保できなくなるケースもあります。

3つ目は、もの盗られ妄想による金銭トラブルです。認知症の進行に伴い、本人が財布や預金通帳の置き場所を忘れてしまい、「家族や介護者に盗まれた」と思い込むことがあります。これを「もの盗られ妄想」と呼び、アルツハイマー型認知症の患者さんに特に多く見られます。家族や介護者への不信感が募り、場合によっては警察に通報したり、家族との関係が悪化したりすることもあります。

これらのトラブルを防ぐためには、早期に財産管理を信頼できる家族や専門家に任せることが重要です。成年後見制度や任意後見契約を利用することで、適切な財産管理が可能になります。また、もの盗られ妄想に対しては、本人の気持ちを否定せず、安心感を与える対応が求められます。
認知症が原因で口座が凍結されたときの対処法を教えてください。
銀行は口座の管理が適切に行われていないと判断すると、取引を制限することもあります。また、成年後見制度が開始された場合や、本人が亡くなった場合も口座が凍結されることがあります。口座が凍結されると、家族が生活費を引き出せなくなるため、早めの対応が必要です。

まず、銀行に凍結の理由を確認することが重要です。認知症が原因で凍結された場合、家族であっても勝手に口座を操作することはできません。対処法としては、任意後見契約を活用する方法があり、認知症が進行する前に、信頼できる家族や弁護士に財産管理を任せる契約を結ぶことで、口座凍結のリスクを回避できます。

また、成年後見制度を利用することで、家庭裁判所の決定により後見人が財産管理を行うことができます。銀行によっては、家族向けの代理人制度を設けている場合もあるため、事前に相談しておくとスムーズに対応できる可能性があります。
口座の凍結によって生活費が確保できない状況を避けるためにも、認知症の兆候が見られたら、早めに財産管理について専門家と相談し、適切な対策を取ることが重要です。

親や家族が認知症になったときのお金の管理方法

親や家族が認知症になったときのお金の管理方法にはどのようなものがありますか?
認知症の進行に伴い、親や家族が自分で金銭管理を行うことが難しくなるため、早めに対策を取ることが大切です。主な管理方法として、家族による支援、成年後見制度、日常生活自立支援制度、家族信託(民事信託)などがあります。

家族が直接サポートする場合は、親の了承を得たうえで銀行の代理人カードを作成したり、インターネットバンキングを利用して支払い管理を行うことができます。ただし、親の判断能力が低下すると、銀行での手続きが難しくなるため、早めに準備を進めることが重要です。

成年後見制度を活用すると、法的に認められた後見人が財産管理を行うことができます。また、日常生活自立支援制度を利用すれば、福祉サービスを通じて金銭管理の支援を受けることができます。さらに、家族信託を活用することで、認知症発症後もスムーズに財産管理を継続することが可能です。
任意後見制度と法定後見制度について教えてください。
成年後見制度には、本人が判断能力を失う前に準備できる任意後見制度と、すでに判断能力が低下している場合に適用される法定後見制度の二種類があります。

任意後見制度は、本人が元気なうちに信頼できる家族や専門家と契約を結び、認知症が進行した際に財産管理や生活支援を任せる制度です。契約は公証役場で公正証書として作成し、本人の判断能力が低下したときに家庭裁判所の監督のもとで後見人が活動を開始します。この制度を利用すると、本人の意向に沿った財産管理を行いやすくなります。

法定後見制度は、すでに認知症が進行しており、判断能力が低下した場合に利用する制度です。家庭裁判所が後見人を選任し、本人の財産管理や契約の代理を行います。法定後見制度には、「後見(判断能力がほぼない)」「保佐(判断能力が著しく低下)」「補助(判断能力が一部不十分)」の3種類があり、本人の判断能力に応じて適用されます。
法定後見制度を利用すると、本人に代わって財産管理ができる一方で、裁判所の監督が必要になるため、手続きが煩雑になることがあります。そのため、できるだけ早い段階で任意後見制度を検討することが望ましいとされています。
日常生活自立支援制度ではどのようなサービスが受けられますか?
日常生活自立支援制度は、認知症や精神疾患、障害がある方が、日常生活の金銭管理や契約手続きを支援してもらうための制度です。各都道府県の社会福祉協議会が運営しており、本人の生活をサポートするために、以下のようなサービスが提供されます。

・年金や福祉手当の受け取り、生活費の管理
・公共料金や介護サービス利用料の支払い代行
・福祉サービスの利用契約の手続き支援
・重要書類(通帳や契約書など)の保管サービス

日常生活自立支援制度は、成年後見制度ほど強力な財産管理権限はありませんが、本人の判断能力が部分的に低下している場合に適した支援方法です。簡単な手続きで利用できるため、軽度の認知症の段階で活用すると、日常生活の金銭管理をスムーズに行うことができます。
家族信託や民事信託についてわかりやすく教えてください。
家族信託(民事信託)は、認知症になる前に財産の管理・運用を家族に委託する契約のことを指します。信託契約を結ぶことで、財産の所有権は本人のままですが、管理や処分の権限を信頼できる家族に託すことができます。

また、家族信託を利用すると、親の意思に基づいた資産承継の計画を立てることができます。例えば、「親が亡くなった後は、財産を配偶者に、配偶者が亡くなった後は子どもに相続させる」といった設定も可能です。
ただし、家族信託には税務や法律の知識が必要になるため、契約を結ぶ際には司法書士や弁護士、税理士などの専門家に相談すると安心です。

親や家族が認知症になったときにお金の管理で注意すべきこと

親が認知症になりましたが、お金をとりあげたほうがよいですか?
認知症になったからといって、すぐにお金を取り上げるのは避けるべきです。金銭管理を続けることは本人の自立を維持するうえで重要ですが、支払い忘れや詐欺被害を防ぐため、家族のサポートが必要になります。銀行の代理取引や成年後見制度を活用することで、適切な管理が可能です。また、「もの盗られ妄想」を防ぐために、本人の意思を尊重しつつ、透明性のある管理方法を検討しましょう。
親が認知症になったら遺言書を作成することはできませんか?
認知症でも判断能力があるうちは遺言書を作成できます。公正証書遺言を利用すれば、遺言能力が確認されるため、無効になるリスクを減らせます。ただし、認知症が進行し判断能力が低下すると、遺言書の作成が難しくなるため、早めの対応が重要です。成年後見制度を利用すると財産管理はできますが、成年後見人が代理で遺言を書くことはできません。
親や家族が認知症になったとき、お金の管理について困ったら誰に相談すればよいですか?
認知症のお金の管理で困った場合は、地域包括支援センターや社会福祉協議会で支援制度について相談できます。成年後見制度や家族信託を検討する場合は、司法書士や弁護士に相談するのがよいでしょう。また、銀行では代理取引の手続きが可能な場合があるため、口座管理について問い合わせるとよいでしょう。相続や税務については税理士やファイナンシャルプランナーに相談するのもよい選択肢です。

まとめ

認知症になると、判断力の低下により詐欺被害や支払い忘れ、口座凍結などの金銭トラブルが発生しやすくなります。特に「もの盗られ妄想」による家族とのトラブルも少なくありません。対策として、成年後見制度や家族信託、銀行の代理取引などを活用することが重要です。また、遺言書は認知症の進行度によって作成可能な場合があるため、早めの準備が推奨されます。困った際は地域包括支援センターや司法書士、弁護士に相談し、適切な管理を行いましょう。

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