認知症の症状が進行し自宅での生活が難しくなると、介護施設への入居を検討することがあります。しかし、経済的な理由から自宅での介護を続けざるをえないケースも少なくありません。特に年金収入が少ない場合、施設の入居一時金や月々の利用料を支払えず、結果的に施設入所を諦める方もいらっしゃいます。
本記事では、認知症でもお金がない場合に入居できる施設の種類や条件、費用相場や安価な施設、そして公的な支援制度を解説します。
お金がない認知症の患者さんが入居できる施設とは

- 認知症の患者さんは介護施設に入れますか?
- はい、認知症の方でも介護が必要な状態であれば介護施設に入居できます。 介護保険制度のもと、要介護認定を受けた65歳以上あるいは40~64歳でも特定疾病に起因する場合は、認知症の有無に関わらず介護サービスを利用できます。多くの介護施設では認知症の高齢者を受け入れており、特別養護老人ホーム(特養)などの公的施設や、認知症対応型のグループホーム、民間運営の有料老人ホームなどで認知症の方の入居が可能です。認知症だからといって介護施設に入れないわけではなく、適切な施設と条件さえ整えば入居できます。
- 認知症の患者さんを受け入れている介護施設の種類を教えてください
- 認知症高齢者を受け入れている主な介護施設には、以下のような種類があります。
・特別養護老人ホーム(特養)
・認知症高齢者グループホーム
・介護付き有料老人ホーム
・サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
・介護老人保健施設(老健)
それぞれ特徴や入居条件、費用体系が異なるため、ご本人の介護度や状況に合わせて選択することが大切です。
- 認知症の患者さんが介護施設に入居できる条件はありますか?
- 各施設ごとに入居対象となる条件が定められています。 大前提として、介護保険施設を利用するには市区町村の要介護認定を受けていることが必要です。認知症であっても、要介護度が基準を満たしていれば入居申込ができます。
【特別養護老人ホーム(特養)】
原則として要介護3以上かつ65歳以上が入居条件です。要介護1~2でも特例的に入居が認められるケースがあります。
【グループホーム】
要支援2以上で認知症の診断がある方が対象です。
【介護付き有料老人ホーム】
施設ごとに条件が異なりますが、おおむね60歳以上で自立~要介護の高齢者が対象です。
【サービス付き高齢者住宅(サ高住)】
主な入居条件は、60歳以上または、要支援・要介護認定を受けている40歳以上の方です。
【介護老人保健施設(老健)】
要介護1以上で原則65歳以上(特定疾病なら40歳以上)となっています。
以上のように、認知症だから特別な入居資格が必要というわけではなく、介護度や年齢など一般的な基準を満たせば施設入居は可能です。ただし各施設で細かなルールがあるため、事前に確認することが重要です。
- お金がない認知症の患者さんに向いている施設の種類を教えてください
- 費用面で不安が大きい場合は、公的な施設や費用の安い施設を選ぶのがおすすめです。 特に特別養護老人ホーム(特養)は月額利用料が低く抑えられており、所得の低い方にも利用しやすい代表的な施設です。
特養は入居一時金も不要であるため、まとまった貯金がなくても入りやすいメリットがあります。
次にグループホームも選択肢の1つになります。グループホームは認知症ケアに特化しており家庭的な環境で生活できます。費用は特養よりやや高めですが、有料老人ホームなどと比べると抑えられています。また入居定員が少ないため、一人ひとりに目が行き届きやすい環境です。
お金に余裕がない認知症患者さん向け施設の費用相場

- 認知症の患者さん向け施設の月額費用相場を教えてください
- 介護施設の月額利用料は施設の種類や提供されるサービス内容によって大きく異なります。 以下に主な施設の月額費用相場を示します。
・特別養護老人ホーム(特養): 約5万~15万円/月
・グループホーム: 約10万~20万円/月
・介護付き有料老人ホーム: 約15万~30万円/月
・サービス付き高齢者向け住宅(サ高住): 約10万~30万円/月
・介護老人保健施設(老健): 約8万~15万円/月
・そのほか公的施設: 養護老人ホーム・軽費老人ホームは収入に応じて費用負担が決まります。生活保護受給レベルの低所得者であれば自己負担はわずかとなり、年金収入のみの場合でも5万~10万円程度で生活できる場合があります。
上記はあくまで目安であり、地域や個別の施設によって費用は異なります。介護度や利用サービス(おむつ代・医療費などの実費負担)によっても月額費用は増減しますので、具体的な金額は各施設に問い合わせて確認してください。
- 特に費用が安い認知症患者さん向けの月額費用相場はいくらですか?
- 特に費用が安いのは特別養護老人ホーム(特養)で、月額利用料はおよそ5万~10万円前後から利用できます。 次に安い部類としてグループホームが挙げられ、平均的な月額は10万~15万円程度です。民間の有料老人ホームと比べれば安価ですが、特養よりはやや高めになります。また、自治体によっては低所得者向けに減免措置を適用できる場合もあり、自己負担がさらに軽減されることもあります。
- 認知症の患者さんが施設に入居する際に必要な初期費用を教えてください
- 施設によって入居時の初期費用(入居一時金)の有無や金額は異なります。 公的な特養やグループホームの場合、基本的に入居一時金は不要で、初期費用0円で入居できます。グループホームでは施設によって数十万円程度の保証金や一時金を求められる場合もあります。
一方、介護付き有料老人ホームなど民間施設では、入居一時金として数十万円から数百万円以上を前払い金として徴収する場合があります。高級な施設では数千万円規模の一時金を設定している例もあります。ただし、近年では一時金0円で月額費用に上乗せするプランを用意する施設も増えており、前払い方式(一時金あり)と月払い方式(一時金なし)を選択できることもあります。
認知症でお金がない場合に使用できる公的サービス

費用を安くできても、それでもお金に余裕がない場合もあると思います。本章では、施設入所の際に使える公的サービスを解説します。
- 認知症で収入がない状態でも介護サービスを受けられる方法はありますか?
- 日本の介護保険制度では、原則としてサービス利用料の1割~3割を利用者が負担し、残りは保険から給付されます。それでも自己負担の1割が支払えないほど収入がない場合、いくつかの公的支援策があります。
代表的なものは生活保護と各種の利用料軽減制度です。生活保護を受給できれば、介護サービスの自己負担分は介護扶助として公費でまかなわれるため、実質自己負担0円で介護サービスを継続できます。また、生活保護でなくても、市区町村に申請して減免制度を利用すれば、後述するように食費・居住費の補助や高額サービス費の払い戻しなどを受けられます。
- 自治体の介護サービス助成制度を教えてください
- 自治体では、低所得の高齢者が介護サービスを利用しやすくするための各種助成・減免制度を実施しています。 主な制度は以下のとおりです。
【特定入所者介護サービス費(補足給付)】
低所得者向けに施設の食費・居住費を減額する制度です。
【高額介護サービス費】
介護サービスの1割負担額が月額で一定の上限(限度額)を超えた場合に、超えた分を後から払い戻してくれる制度です。
【社会福祉法人等利用者負担軽減制度】
社会福祉法人が運営する施設や在宅サービスにおいて、低所得者の場合は利用者負担(自己負担額)の一部を減免する制度です。
これらの制度を利用することで、自己負担額をできるだけ少なく抑えることが可能です。特に収入が低い方は遠慮なく行政の仕組みを活用し、介護サービスを継続できる環境を整えてください。
- 認知症の患者さんでも生活保護は受けられますか?
- 認知症の方であっても、経済的に困窮していれば生活保護を受給することが可能です。 生活保護は病気や障害の有無に関係なく、収入や資産が一定以下で生活に困難がある場合に受けられる公的扶助です。認知症だから受けられないということはありません。
編集部まとめ

認知症の高齢者が介護施設への入居を検討する際、費用面の不安は大きな課題です。しかし、特別養護老人ホーム(特養)をはじめとする公的施設や、認知症グループホームなど費用負担の少ない施設を選ぶことで、経済的な負担を大幅に軽減できます。また、介護保険制度の減免措置や、生活保護制度の活用によって、自己負担を最小限に抑えることも可能です。大切なのは、一人で悩まずに専門機関へ相談することです。お住まいの自治体の地域包括支援センターやケアマネジャーに相談すれば、収入状況に応じた施設選びや利用できる公的支援制度について具体的なアドバイスをもらえます。費用の問題で介護を諦めず、ぜひ公的サービスや地域の支援を上手に利用しましょう。