認知症とせん妄の違いは?見分け方や対処法を解説

認知症とせん妄の違いは?見分け方や対処法を解説

認知症と、幻覚が見えたり突然興奮したりするせん妄は異なる病気ですが、見分けがつきにくいこともあります。ご家族が突然普段と異なる状態になり、驚いてしまう方も少なくありません。そこで本記事では認知症とせん妄の特徴や見分け方、対象法について解説します。

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認知症について

認知症の特徴を教えてください。
認知症とは、さまざまな脳や身体の病気が原因で、いったん正常に発達した認知機能(記憶、注意、判断力、言語能力など)が障害されることで、日常生活に支障をきたした状態を指します。

日本では、社会の高齢化にともない認知症と診断される方が増えており、2022年度の調査では、65歳以上の高齢者のうち約12%が認知症とされています。さらに、その数は現在も増加しており、2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人に達することが見込まれています。このように認知症と加齢は無関係ではありませんが、加齢によるもの忘れとは異なり、認知症は、もの忘れの自覚がない、症状が進行するといった特徴があります。また、もの忘れ以外のさまざまな症状が加わることも特徴で、妄想や幻覚、徘徊、抑うつ、睡眠障害、性格変化などがみられることがあり、日常生活に大きく影響します。
認知症にはどのような種類がありますか?
認知症は一つの病気を指すものではなく、さまざまな原因によって起こります。種類によって症状が異なり、なかには原因を治療することで症状が改善する認知症もあるため、適切な早期診断、治療が大切です。
代表的な認知症の種類を、以下にまとめます。

・アルツハイマー型認知症:認知症の原因として最も多い病気です。記憶、注意、遂行機能障害が徐々に進行するという経過が特徴です
・血管性認知症:2番目に多い認知症の原因です。脳梗塞や脳出血などの脳血管障害を原因として生じます。できることとできないことの差が大きいまだら様の認知症状や、階段状の進行がみられます
・レビー小体型認知症:認知機能障害に加えて、具体的な幻視や、動作緩慢、歩行障害などのパーキンソン症状が出現します。しばしば日内変動がみられます
・前頭側頭型認知症:怒りやすくなるなどの人格変化や、同じことを繰り返す常同行為が出現します
・パーキンソン病:手のふるえ、動作緩慢、歩行障害などがみられます。約30%で認知症の合併がみられ、病気の期間が長いとその頻度は増加します
・内分泌・代謝性中毒性疾患:甲状腺機能低下症、肝性脳症、ビタミン欠乏症、アルコール脳症などで認知症が出現することがあります
・感染症:ウイルス性脳炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、梅毒などでみられることがあります
・外傷その他の外科的疾患:慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、頭部外傷などが含まれます
認知症の症状を教えてください。
認知症の症状は、認知機能障害を意味する中核症状と、精神機能や行動の障害を指す周辺症状に大別されます。
ただし認知症の症状は、原因となる病気の種類によって異なり、すべての方に同じ症状がみられるわけではありません。以下に代表的な症状を示しますが、どの症状がどの程度現れるかは、個人や認知症のタイプによって異なります。

【認知症の中核症状】
記憶障害を含む認知機能の障害による症状です。

・記憶障害(もの忘れ):ものを覚える、記憶しておく、思い出すという過程のいずれかが障害されることで、新しいことを記憶できない、最近の出来事を思い出せないといったことが起こります。
・見当識障害:時間・場所・人物の認識が難しくなり、「今日は何日なのか」「自分は今どこにいるのか」「自分の回りにいる人物が誰なのか」などが分からなくなることがあります。
・遂行機能障害:物事の計画を立てたり、順序立てて行動することが難しくなり、約束の時間に間に合わない、段取りを考えられないといった影響が出ます。
・問題解決能力の障害:予想外の出来事に対応することが困難になります。
・判断力の障害:物事を論理的に考えることが難しくなります。
・失語・失行・失認:聞く、話す、書く、計算するといった言語操作が難しくなり、言葉がうまく出てこない、会話が理解できないといった症状がみられることがあります。また、麻痺がないのに日常の動作ができなくなる、視力に問題がないのに、よく知っている場所や物が認識できなくなることがあります。

【認知症の周辺症状】
認知機能障害以外の、性格や周辺の環境に影響を受けて精神機能や行動が障害された状態です。

・妄想:貴重品を盗まれた、隠されたといった「もの盗られ妄想」がよくみられます。また、身近な方に嫌がらせをされているといった被害妄想がみられることもあります。
・抑うつ:意欲低下や、趣味や日常生活への興味喪失、食欲低下などがみられます。
・睡眠障害:入眠が困難となったり、途中で覚醒してしまい、眠れなくなることがあります。また昼夜逆転となり、昼間の活動性が低下する場合があります。
・幻覚:亡くなった家族が枕元にいる、綺麗な魚が泳いでいる、といった幻視がみられることや、誰かの話し声がするというような幻聴が聴こえることがあります。

せん妄について

せん妄とはどのような状態ですか?
急な経過で「意識」と「認知機能」が低下する状態を指します。
意識障害とは、「自分が自分であることがはっきり分かっている状態」が障害されることを意味します。その結果、時間や場所が急に分からなくなる見当識障害や、注意力・思考力の低下がみられます。この状態が1日のうちでも変動することが特徴です。
せん妄の種類には、落ち着きがない、大声で怒りやすい、暴言や暴力があるといった過活動型せん妄と、逆に、傾眠、反応に乏しい、無気力などがみられる低活動型せん妄、両者の混在する混合型せん妄があります。特に、低活動型せん妄は症状が目立ちにくいため、診断が遅くなる場合があり、注意が必要です。
せん妄の原因を教えてください。
せん妄の原因となる病気は多岐にわたります。原因を特定し、適切な治療介入を行うことは、症状を速やかに軽減するために重要です。主なものとして、以下が挙げられます。

・脳の病気:アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、パーキンソン病、その他の神経変性疾患、脳梗塞、頭部外傷
・全身の病気:感染症、臓器不全、内分泌・代謝性疾患
・その他:手術(全身麻酔)、脱水症状、薬剤の影響、環境変化、疼痛

また、高齢者、認知症、せん妄になったことがある、アルコールを多飲している方はせん妄になるリスクが高いことが知られており注意が必要です。
せん妄は治りますか?
病気の治療や原因物質・環境への対処が原則となりますが、症状を落ち着けるために、抗精神病薬や抗うつ薬が一時的に使用される場合も少なくありません。
多くの場合、せん妄の原因を適切に治療・対処することで、1週間程度での症状の改善が期待できます。ただし、原因となる病気によって回復の程度には差があります。

せん妄の治療には、薬物療法のほか、環境の調整も重要です。例えば、以下のような対応が効果的です。

・安心できる環境を整える(医療者や家族が話しかける)
・日中に光を浴びる(昼夜のリズムを整える)
時間や日付を認識しやすくする(時計やカレンダーを設置する)

認知症とせん妄の違いと見分け方

認知症とせん妄は似ているように感じますが、異なる部分を教えてください。
せん妄は認知症の方に合併することも多く、発症初期のせん妄は認知症の症状とよく似ているため、専門の医師でも区別が難しいことがあります。ただし、せん妄は急激に発症し、数日単位で症状が変化しやすいこと、また、症状の変動が激しいことが認知症との大きな違いです。
認知症とせん妄の見分け方はありますか?
認知症とせん妄の主な違いを以下にまとめます。しかし実際には、両者の区別が難しい場合もあります。
せん妄認知症
発症の経過急激(数時間〜数日、まれに数ヶ月)ゆっくり(数ヶ月〜数年)
日内の変動あり(特に夕方や夜間に悪化)あまりない
よくある最初の症状錯覚、幻覚、妄想、興奮記憶力の低下
持続期間数時間〜1週間程度永続的(進行性)
身体の病気あることが多いときにあり
環境の関与大きく受けやすいほとんど関与しない

認知症とせん妄の区別がつかないときは

認知症なのかせん妄なのかわかりません。どうすればよいですか?
せん妄は急激に発症し、症状の変動が激しいことが特徴ですが、実際には認知症との区別が難しい場合も多くあります。
もし「これまでと様子が違う」と感じたら、ためらわずに早めに医療機関を受診しましょう。受診先としては、脳神経内科や精神科での診察が可能です。
また、普段からかかりつけ医がいる場合は、まずそちらに相談するのもよいでしょう。
認知症やせん妄で受診するときの注意点を教えてください。
せん妄状態にあると、本人がうまく会話できないことも多いため、付き添いの方からの情報が重要です。受診の際には、以下の情報を整理しておくと診察がスムーズになります。

・症状の発症時期(いつから始まったか)
・症状の変化(時間帯による変動や悪化の有無)
・既往歴(これまでにかかった病気、現在の持病)
・服薬状況(服用している薬や最近変更した薬)
・生活環境の変化(引っ越し、入院、家族構成の変化など)

まとめ

せん妄は、認知症やさまざまな身体の病気、環境変化をきっかけにおこり、誰でも経験しうる症状といえます。急に発症するため、周囲の方が戸惑うことも少なくありません。

しかし、原因に応じて早期に適切な対応をすることで、症状の改善が期待できます。また、せん妄について理解し、環境を整えておくことは、発症の予防や本人へのサポートにつながります。「せん妄かもしれない」と感じたら、一人で悩まず、早めに医療機関に相談しましょう。

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