認知症は、記憶力や判断力の低下によって、日常生活にさまざまな影響を及ぼす病気です。ただし、その進行の度合いや生活への支障の程度は人それぞれです。
少し物忘れがあるだけの方と、一人での生活が難しい方では、必要な支援も大きく変わります。こうした支援の必要度を示すものとして、認知症高齢者の日常生活自立度判定基準が用いられています。
この記事では、この自立度についてわかりやすく解説し、段階ごとの介護サービスや家庭でのケア方法をご紹介します。
認知症の自立度とは

まずは、認知症の自立度とはどのような意味なのか、そして、どのように判断されるのかについて説明します。介護保険の申請や支援の検討に関わる大切な指標です。
認知症の自立度の概要
認知症の自立度とは、認知症によって日常生活にどれだけ支援が必要かを示す指標です。厚生労働省の基準により、ランク1〜4と、行動・心理症状が強い場合のランクMの5段階で評価されます。
評価の基準は、記憶障害や判断力の低下により見守りや介助がどの程度必要かという点にあり、身体の状態とは別に判断されます。自立度を把握することで、必要な介護の内容や開始時期を検討しやすくなります。
認知症で要介護認定を受ける方法
介護保険を利用するには、市区町村に申請して要介護認定を受ける必要があります。訪問調査や主治医の意見書をもとに、介護の必要度が総合的に判断されます。
この際、認知症の自立度も評価に加わり、支援の必要性を具体的に示す材料となります。認定されると、訪問介護や通所サービスなどを必要に応じて利用できるようになります。
ランク別|認知症の自立度の判断基準と症状

認知症の自立度は、実際の暮らしのなかで、どれだけ自分のことができているかを見る指標です。単に症状の重さを見るのではなく、ご本人の生活にどのような支援がどれくらい必要かという観点から判断します。
厚生労働省では、この自立度をランク1~4とMの5段階に分類しています。ここでは、それぞれのランクについて、具体的な症状や行動の特徴、家族が気をつけるべきポイントを簡単に紹介します。細かく覚える必要はありませんが、あてはまるかもしれないと感じたら、医療や介護の専門職に相談するタイミングと考えていただければ十分です。
ランク1
軽い物忘れが目立ち始める段階です。食事や排泄などの基本的な生活は自立しており、日常的な見守りは必要ないか、あっても軽度です。ただし、外出先で迷う、約束を忘れるなど、小さな失敗がみられるようになります。
ランク2
生活に支障が出始め、見守りが必要になります。調理や買い物、お金の管理などが難しくなることがあります。一見、普段どおりに過ごしているようにみえても、外出先で迷う、訪問者への対応が不適切になるなど、トラブルにつながることがあるため注意が必要です。
ランク3
日常生活の多くの場面で介助が必要な状態です。本人が自信を持って行動していても判断力が落ちており、危険を回避できません。例えば、火の始末ができないまま調理を続けたり、夜中に外出しようとしたりといった行動がみられることもあります。
ランク4
身の回りのことが自分ではほとんどできず、常に介助が必要です。会話の理解が難しくなったり、意思疎通がとれなくなったりすることもあります。食事、排泄、着替えなども含めて、手助けなしでは生活が成り立たなくなる段階です。
ランクM(精神症状や行動異常が著しい)
精神症状や周辺症状により、いわゆる問題行動が強くみられる場合に用いられる分類です。例えば、暴言・暴力、極端な拒否、徘徊、幻覚・妄想などがあり、通常の見守りや介助では対応しきれない状態です。ご家族だけでの対応が難しいため、医療機関や認知症専門施設の支援が必要になります。
このように、認知症の自立度は本人の生活力と支援の必要度をもとに、実際の暮らしぶりを具体的にイメージできるように整理されています。診断名だけではみえにくいご本人の困りごとや、ご家族の負担の大きさを理解する手がかりにもなります。
ランク別|認知症の患者さんが受けられる介護保険サービス

前の章では、認知症の自立度がランク1~4とMに分けられていることをご紹介しました。では、こうしたランクに応じて、実際にどのような介護サービスが受けられるのでしょうか?ここでは、認知症のある方が利用できる主な介護保険サービスについて、それぞれのランクに合わせて解説します。
介護保険サービスは、原則として要介護認定を受けたうえで利用することができます。申請し、審査を通ると要支援1~2、要介護1~5のいずれかに区分されます。認知症の自立度そのものが直接サービスの可否を決めるわけではありませんが、自立度のランクが高いほど、要介護度が高くなる傾向があります。
ランク1
まだ日常生活の大部分を自力でこなせる段階ではありますが、小さなつまずきや不安定さを補うために、軽度の介護サービスが選ばれることが多くなります。例えば、掃除や買い物の一部を手伝ってもらえる訪問介護、日中を安心して過ごすための通所介護(デイサービス)などが代表的です。日々の暮らしを整えるための福祉用具の貸与も、この時期に取り入れられることがあります。サービスはまだそこまで困っていないうちから始めておくと、いざというときにもスムーズに対応できる体制が整います。
ランク2
見守りや声かけが必要になる場面が増えてくるこの段階では、日中を安心して過ごせる居場所の確保が大きな支えになります。認知症のある方を対象としたデイサービスでは、症状への理解があるスタッフによる対応が受けられ、家庭では難しい心の安定や生活のリズムづくりが支援されます。ご家族の不在時にも安心して任せられる環境があることで、介護負担の偏りを防ぎ、本人にも穏やかな日常を提供できます。
ランク3
身体的な支援だけでなく、生活の全般にわたるサポートが必要になるため、複数のサービスを組み合わせた対応が中心になります。柔軟に訪問・通所・宿泊を提供できる小規模多機能型居宅介護は、特に自宅での生活を維持したいと考えるご家族にとって心強い存在です。また、体調の急変が心配されるようなケースでは、訪問看護を併用することで医療的な支えも確保できます。介護者が一時的に休める環境として、ショートステイの利用もこの段階から検討されることが多くなります。
ランク4
日常生活のほぼすべてに介助が必要となるこの時期には、家庭内だけで支えることが難しくなってきます。介護サービスの中心も、在宅支援から施設介護への移行を視野に入れるケースが増えてきます。特別養護老人ホームのような長期入所施設では、24時間体制での見守りや身体介護を受けることができ、安心して日々を過ごすための環境が整えられています。本人の負担だけでなく、介護者の限界を考慮した選択が求められる段階です。
ランクM
行動や心理面の症状が強く、家庭だけでの対応が難しいケースでは、より専門的な支援が必要になります。認知症対応型グループホームでは、落ち着いた環境のなかで、少人数の生活を送りながら個別に配慮されたケアを受けることができます。また、地域によっては、認知症に詳しい医療職や介護職がチームとなって家庭を訪問し、助言や支援を行う仕組み(認知症初期集中支援チーム)を設けている場合もあります。こうした制度も含め、早めの相談と連携が安心につながります。
介護保険サービスは困ってから使うものではなく、困らないように備えるために使うものとしてとらえることが大切です。必要な支援をうまく取り入れることで、本人らしい生活をできるだけ長く保つことができ、ご家族にとっても心と身体の余裕が生まれます。
次の章では、そうした公的なサービスと並行して、ご家庭でできる具体的なケアの工夫について紹介します。ほんの少しの気配りや環境の整え方が、大きな安心感につながることも少なくありません。
ランク別|自宅でのケア方法

介護保険サービスを上手に活用することはとても大切ですが、それだけでは補いきれない部分も多くあります。特に認知症のある方と自宅で生活をともにしているご家族にとっては、日々のちょっとした接し方や環境の整え方が、本人の安心や症状の安定につながります。ここでは、認知症の自立度に応じて、ご家庭で取り組めるケアの工夫について紹介します。
ランク1
ご本人の自立性が保たれているこの段階では、できることをなるべく続けられるように支えることが大切です。例えば、予定をカレンダーに書いて一緒に確認する、物の置き場所を決めてラベルを貼るといった簡単な工夫が、記憶を補いながら生活の安定につながります。また、頭を使うゲームや会話、散歩などを日課にすることで、脳の活性化にもつながります。本人がまだ自分でできると感じられる環境を保ちつつ、失敗を責めずに自然にフォローする姿勢が、ご家族の大切な役割となります。
ランク2
物忘れや判断ミスが増えてくると、家庭内でのちょっとした失敗がトラブルにつながることもあります。この段階では、安全確保が大きなテーマになります。コンロの火の消し忘れを防ぐために自動消火機能付きの機器に替えたり、玄関やベランダにチャイムやセンサーをつけて徘徊を予防したりと、物理的な工夫も役立ちます。また、繰り返しの声かけや、一緒にやろうかという誘導の仕方も、本人の不安を減らし、スムーズな日常につながります。
ランク3
生活のほとんどの場面で手助けが必要になってくるため、ご家族の負担は大きくなります。無理に一人で介護を抱え込まず、できるだけ家族全体で役割分担をしたり、訪問介護やデイサービスの力を借りたりすることが大切です。また、ご本人の混乱を減らすためには、生活環境を大きく変えないことが有効です。家具の配置を変えず、慣れた物をそばに置くなど、落ち着ける空間づくりを心がけましょう。何かできたときは、「ありがとう」「助かったよ」と声をかけることで、本人の自尊心を保つ支えにもなります。
ランク4
身体的な介護が必要になるだけでなく、意思疎通が難しくなってくるこの段階では、本人の表情やしぐさから気持ちをくみ取る力が求められます。声かけはゆっくり、短く、わかりやすく。焦らず、本人のペースに合わせることが何より大切です。食事や排泄も介助が中心になるため、転倒や誤嚥を防ぐための環境づくりや、介護技術の習得も必要になってきます。この時期には、ご家族の体力的・精神的な負担も大きくなるため、定期的にショートステイを利用したり、相談機関に頼ったりしながら、無理のない介護体制を考えていくことが重要です。
ランクM
行動面の問題や精神的な混乱が強く見られる状態では、ご家庭での対応にも限界があります。暴言や拒否があると、ご家族が傷ついたり疲弊してしまうことも珍しくありません。このような状況では、介護者自身が一人で抱え込まないことが何より大切です。精神的な負担を軽くするために、医療機関や地域包括支援センター、ケアマネジャーなどと密に連携をとりながら、訪問看護や認知症専門の支援チームを利用するなど、外部の力を積極的に借りる姿勢が求められます。家庭内では、本人の行動を否定せず、あくまでも落ち着いた対応を心がけることが安心感につながります。
このように、それぞれの段階に応じて適したケアの方法がありますが、どの段階でも共通して大切なのは、本人の尊厳を保ち、安心できる環境を整えることです。そして、ご家族が疲れすぎず、長く関われるようにすることも同じくらい重要です。
まとめ

認知症における日常生活の自立度は、ご本人の生活能力や支援の必要性を把握するうえで、重要な指標です。本記事では、その自立度の指標や判断基準を解説し、ランクごとに利用しやすい介護保険サービスと、自宅でのケアの工夫を紹介しました。
介護が必要かどうかだけでなく、どのくらいの支援が、いつから必要かを見極めることが、安心できる生活につながります。早めに支援を取り入れ、ご本人のできる力を大切にしながら、無理のない形での介護体制を整えていくことが大切です。
困ったときには一人で抱え込まず、医療機関や地域の支援機関に相談することも、介護を続けるうえで大きな力になります。