認知症の方にみられるトイレに関する困りごとは、家族にとって日常生活のなかで負担を感じやすいものの一つです。排泄に関わる問題は衛生面だけでなく、本人の自尊心や生活の質に直結します。そのため、対応の仕方次第で本人の安心感や介護する方の負担感が大きく変わることがあります。
この記事では、認知症とトイレトラブルの関係、その背景にある原因、具体的な対処法、介助で意識したい点、さらに困ったときに頼れる相談先を解説します。
認知症とトイレトラブルの関係

- 認知症の方に多いトイレに関するトラブルを教えてください
- 認知症の方にみられるトイレのトラブルにはいくつかの特徴があります。代表的なのは失禁で、尿や便が間に合わずに衣服を汚してしまうケースです。また、トイレの場所がわからないという問題も多く、長年暮らしてきた自宅であっても記憶や認識の障害から、居間や寝室で排泄してしまうことがあります。
そのほか、トイレに行ったばかりなのに何度も行こうとする、夜中に繰り返し起きてトイレを探すといった行動もみられます。おむつを使用している場合には、自分で外したり、中身を触ってしまったりすることもあります。これは本人が違和感や不快感を強く感じているサインであり、単なる困った行動と片づけてしまうと、より大きなトラブルに発展してしまいます。
- なぜ認知症になるとトイレのトラブルが増えるのですか?
- 理由は一つではなく、複数の要因が重なり合って生じます。第一に記憶障害によって、トイレの場所や排泄の手順を忘れてしまうことがあります。また、時間の見当識が低下すると夜間であることの認識が難しくなり、眠っているべき時間に繰り返しトイレへ行こうとすることがあります。
また、運動機能の低下や歩行の不安定さによって、トイレにたどり着く前に失敗してしまうケースも少なくありません。さらに、尿路感染症や便秘、前立腺肥大症といった身体の病気が排泄機能に影響を及ぼしていることもあります。薬の副作用で尿が出にくくなったり、下痢をしたりする場合もあるため、気になるときは医師に薬の影響について相談しましょう。
このように、認知症の進行による認知機能低下と、加齢や身体疾患による排泄機能の変化が重なることで、トイレトラブルが目立ちやすくなります。
参照:『認知症患者さんの排泄障害』(榊原 隆次、日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌, 2016, 20 巻, 1 号, p. 8-15)
認知症の方のトイレトラブルへの対処法

- 何度もトイレに行こうとするのですがどうすればよいですか?
- 頻回にトイレに行こうとする場合、まずは本当に尿意があるのか、それとも不安から行こうとしているのかを見極めることが大切です。実際に尿が出ていないのに何度も行きたがる場合は、不安や習慣が関係していることがあります。このときに「さっき行ったばかりでしょ」と否定的に伝えると、不安や混乱を強めてしまいます。「念のため一緒に行きましょう」と受け入れる姿勢を示すとよいでしょう。
また、頻尿の背景に尿路感染症や前立腺肥大症、膀胱機能の低下が隠れていることもあるため、泌尿器科での診察を受けて原因を確認するとよいでしょう。場合によっては薬で改善することもあります。
参照:『尿が近い、尿の回数が多い ~頻尿~』(日本泌尿器学会)
- トイレを失敗したときに推奨される声かけと対処法を教えてください
- 失敗したときには、叱責せずに「大丈夫ですよ」「また一緒に頑張りましょう」と優しく声をかけることが基本です。本人は失敗を自覚して恥ずかしさを感じていることが多く、その気持ちを理解して受け止めるようにしましょう。
衣服の交換や部屋の清掃は落ち着いて行い、周囲に不快な雰囲気を出さないよう配慮すると本人も安心できます。また、同じ時間帯に失敗が起きやすい場合は、その前に声をかけてトイレに誘導することで予防できることもあります。介護記録をつけ、失敗のパターンを把握することも有効です。
- トイレに行けず失敗をしたときはどうすればよいですか?
- 夜間や移動が難しい場合には、ポータブルトイレをベッドの近くに設置したり、尿器を活用したりする方法があります。暗い廊下を歩く必要がなくなり、転倒防止にもつながります。衣服はできるだけ着脱しやすいズボンや下着を選ぶと、間に合いやすいです。
さらに、おむつの使用も一つの選択肢です。おむつは失敗時の清潔保持に役立ちますが、本人が違和感を覚えやすいため、サイズや素材、吸収力の合ったものを選びましょう。こまめに交換して蒸れや不快感を減らすことで、皮膚トラブルの予防にもつながります。
また、生活のリズムを整えることも大切です。食事や水分摂取の時間を一定にし、排便習慣を整えることで失敗が減る場合もあります。
- おむつを外したり、触ったりしてしまう場合の対処法を教えてください
- おむつを自分で外してしまう行動は、不快感や蒸れ、締め付けによる違和感が原因となることがあります。その場合には、サイズや素材を見直したり、吸収力のあるタイプに変更したりすることで改善することがあります。
触ってしまう場合は、清潔さを保ちながら注意をそらす工夫が有効です。例えば、タオルやハンカチを手に持たせて触覚を満たす方法や、手遊びになるものを渡すことが有効です。また、こまめに交換して清潔感を保ちましょう。
認知症の方のトイレをサポートする際の注意点と相談先

- 認知症の方の排泄介助でしてはいけないことを教えてください
- 排泄の失敗を大声で叱責することや、「どうしてできないの」と責めることは避けるべきです。本人は混乱や不安を抱えやすく、否定的な対応は自信をさらに失わせます。また、急がせて無理に立ち上がらせたり、強引にトイレに連れて行ったりすることも転倒の危険があるため避ける必要があります。
さらに、排泄の記録や介助の工夫を共有せずに介護者が一人で抱え込むことも望ましくありません。家族や介護スタッフが連携し、本人に合ったサポート方法を共有することが、安心できるケアにつながります。
- 認知症のトイレトラブルは誰に相談すればよいですか?
- まずはかかりつけ医に相談し、必要に応じて泌尿器科や消化器科の診察を受けるとよいでしょう。介護面についてはケアマネジャーに相談すると、デイサービスや訪問介護での排泄サポートが受けられる場合もあります。地域包括支援センターでも介護サービスの利用や福祉用具の導入について相談できます。
また、認知症専門の相談窓口や家族会などでは、同じ悩みを経験している方の声を聞くこともでき、孤独感が和らぎます。
- 医療機関での治療によりトイレのトラブルは改善されますか?
- 尿路感染症や便秘、前立腺肥大症など、身体の病気が関与している場合には治療によって改善することがあります。薬の副作用が原因であれば、薬の変更や調整で排泄の状態が改善することもあります。
一方で、認知症に伴う記憶障害や判断力の低下が主な原因である場合には、完全に症状をなくすことは難しいこともあります。その場合でも、生活環境の工夫や介護サービスの導入で、本人と介護者の負担を減らすことができます。
編集部まとめ

認知症のトイレトラブルは、記憶障害や見当識障害、身体疾患や薬の副作用など、複数の要因が重なって生じるものです。叱責や強制は避け、本人の尊厳を守りながら支援しましょう。
また、介護の工夫としては、ポータブルトイレや着脱しやすい衣服の導入、清潔さを保つ工夫などがあります。家族だけで抱え込まず、医師やケアマネジャー、地域包括支援センターなど複数の相談窓口を活用することが、よりよいケアにつながります。
排泄の問題は本人にとっても家族にとっても大きな負担ですが、正しい理解と支援によって日常生活は大きく変わります。医師や介護サービスの支援を取り入れながら、少しでも落ち着いて過ごせる日常を目指していきましょう。
