せん妄とは、体に何らかの負担がかかったときに起こる脳の機能の乱れのことです。認知症と混同されがちですが、認知症が緩やかかつ慢性的な症状であることに比べ、せん妄は急激に発症して一過性であることが特徴です。適切な対応や治療によって症状が改善することもあります。家族にせん妄の症状が見られた場合にはどうしたらよいのでしょうか。せん妄とは何か、その対処方法や介護のポイント、注意点を解説します。
せん妄の概要について
せん妄についての理解を深めることが、家族にできることの第一歩といえます。せん妄とはどのような症状なのでしょうか。せん妄によって起きる変化や特徴、認知症との違い、せん妄になりやすい人について解説します。
- せん妄とはなんですか?
- せん妄とは、脱水、感染症、貧血、薬剤、手術、痛みなど、体に何かしらの負担がかかったことで起きる脳の機能の乱れのことで、主に意識の混乱が起こるものです。一般の総合病院に入院している患者さんの20%から30%に起きるといわれています。
せん妄の主な原因は、高齢、認知症や脳血管疾患の既往といった元々その患者さんが持っている因子のほか、痛み、かゆみ、不眠などの不快な状態、環境の変化、薬剤や病気の憎悪など。これらの原因を取り除いたり、適切な治療を行ったりすることで、せん妄の症状が改善する可能性もあり、治療によって半数以上の症状が改善するともいわれています。
- せん妄のときはどのような変化や特徴がありますか?
- せん妄のときには、寝る時間と起きる時間が不規則になる、昼夜逆転するといった睡眠リズムの乱れが見られます。幻覚や妄想の症状が出るのも特徴です。虫や蛇、人など、見えないものが見える、現実とは違うことやありえないことをいう、過去のことを今起きているように話すなど、つじつまの合わない話をするケースもあるでしょう。今日が何月何日なのか、自分がどこにいるのかわからなくなるなど、今の時間や場所の感覚がにぶくなったり、今いわれたことや直近のことが思い出せなくなったりする、見当識障害や記憶障害が起きることもあります。また、情動や気分障害が起きるため、怒りっぽくなる、荒っぽくなる、攻撃的になるなど、感情や人格が変わってしまうケースもあるでしょう。
せん妄は、1日のなかで症状が変化するのも特徴です。特に夕方から夜間にかけて症状が激しくなることが多く、夜間せん妄もしばしば見られます。
- せん妄と認知症の違いについて教えてください
- 認知症は脳血管障害などを発症することで起きる認知障害の総称です。緩やかに進行していくもので、1日のなかで症状の程度が変化することはありません。
一方でせん妄は、体に大きな変化が起きたときに起こる症状であり、病気や薬など原因がはっきりしていることがあるのも特徴です。短期間のうちに発症し、1日のうちに症状が軽くなったり重くなったりと変化する、日内変動も多くあります。せん妄は急性の一時的な症状であるため、適切な治療を行えば数日から数週間で改善することがほとんどでしょう。
なお、せん妄と認知症は違うものではありますが、同時に発症する可能性もあります。
- せん妄になりやすいのはどのような人ですか?
- せん妄は、準備因子、促進因子、直接因子の3つの因子が原因となります。準備因子とは、本人が元々持っている因子のこと。高齢、認知症や脳血管疾患の既往、普段から多くアルコールを摂取していることなどが挙げられます。促進因子とは、環境変化、不眠、かゆみなど、体が不快な状態にあること。直接因子とは、薬剤や病気の憎悪などをいいます。
具体的には、高齢者、過去にせん妄になったことがある人、視力低下や難聴がある人、認知長や物忘れが目立ってきた人、多量の飲酒をする人は、特にせん妄になりやすいといえるでしょう。このほかにも、手術後の人、脳梗塞や脳出血になったことがある人、睡眠障害がある人、睡眠剤を飲んでいる人などもせん妄リスクが高くなります。
せん妄の症状があるときに家族ができること
家族にせん妄の症状が出ると、つい慌ててしまったり、思いどおりにならずに怒ってしまったりしがちです。せん妄の症状があるときに、家族はどのように対応したらよいのでしょうか。自宅で介護をするときのポイントややってはいけないこともご紹介します。
- 家族にせん妄の症状があるときの対処方法を教えてください
- せん妄を発症しているときは、患者さん自身も不安になっていることがほとんどです。家族としては、いつもどおりの落ち着いた声かけをして、できるだけ患者さんに付き添うようにしてあげてください。ご家族がそばにいるだけで安心されるでしょう。
つじつまの合わない話やありえない話をしたとしても、無理に正さないこともポイントです。自分の話を否定されると、本人は気持ちや誇りを傷つけられたと苦痛に感じ、かえって興奮してしまうこともあります。本人の話に合わせて、不安を取り除くような声かけを行いましょう。
- せん妄の家族を自宅で介護するポイントを教えてください
- せん妄の家族を自宅で介護する際には、生活リズムを整えることが大切です。睡眠時間と覚醒時間のバランスを整えるために、日中は趣味や作業活動をさせてベッドから離れた生活を送ることをおすすめします。日中は日光をできるだけ部屋のなかに取り入れ、夜は照明を落として静かに過ごすように心がけましょう。また、目の付くところにカレンダーや時計を置く、会話のなかに日時情報を盛り込むなど、場所や時間の感覚を取り戻すための工夫も有効です。また、刃物、ライター、ポットなどの危険物は患者さんの側に置かないようにしましょう。ベッドから転落する危険もありますので、ベッドの高さを低くしておくこともおすすめです。
- せん妄の症状があるときにやってはいけないことはありますか?
- せん妄患者さんの言葉を否定することは、かえって症状を悪化させることにもつながります。患者さんの話に合わせて、不安を取り除いてあげるような返答や、気を紛らわさせる声かけを行うのもひとつの手段です。
また、怒ることや命令もやってはいけません。つじつまの合わない話や暴言などが見られた場合でも、怒ったり命令したりすると本人にはストレスとなり、症状が悪化する恐れがあります。せん妄の患者さんには、本人に寄り添った対応を心がけましょう。
せん妄の予防においての注意点
ポイントをおさえた適切なケアを行うことで、せん妄は予防することができます。せん妄の予防をするうえでの注意点を解説します。
- せん妄を予防するときの注意点を教えてください
- せん妄は気の持ちようでどうにかなると思われがちですが、実際にはそうではありません。せん妄について正しく理解し、患者さんに寄り添ってあげましょう。せん妄予防は患者さん本人、家族、担当医が協力して行うことが大切です。日頃の生活のなかで見つけた気になることや気付いたことは、担当医と共有するようにしましょう。
また、せん妄は痛みやかゆみなどの体の不快感が影響します。痛みやかゆみなどがある場合は我慢しないで病院を受診するようにしてください。同様に、薬にも注意が必要です。長期間服用していた薬でも、体調によってはせん妄を引き起こすことがあります。医師と相談しながら服用するようにしましょう。
- せん妄のチェックリストはありますか?
- せん妄の症状として見られる代表的なものを以下のチェックリストにまとめました。普段の様子に当てはまるものがあれば、せん妄の可能性があります。予防や治療につなげるためにも、せん妄が疑われる場合には早めに病院を受診しましょう。
・ ぼんやりしている、うとうとしている
・ つじつまが合わない話をする
・ 自分がいる場所や今の時間がわからない
・今日が何月何日かわからない
・ 点滴などのチューブ類を抜いてしまう
・ 怒りっぽくなる、興奮する、涙もろくなる
・ 見えないものを見えるという
・実際にはありえないことをいう
・ 夜に眠らない、昼夜が逆転している
・夕方から夜間になると症状が激しくなる
・ 以前と性格が変わったように感じる
編集部まとめ
せん妄は、体に何らかの負担がかかったときに起きる意識の混乱のことです。主な症状としては、睡眠リズムの乱れ、幻覚や妄想、見当識や記憶の障害、情動や気分の障害などがあります。症状は一過性で、適切な治療を行えば数日から数週間で改善が見られるでしょう。せん妄患者さんの家族ができることは、本人に寄り添ってあげることです。話を否定したり怒ったりせず、そばでいつもどおり声かけしてあげるとよいでしょう。