アルツハイマー型認知症は、早期の発見が重要です。近頃もの忘れが激しく落ち込んだり、加齢に伴うもの忘れだと安易に考えたり諦めたりしていませんか。
アルツハイマー型認知症を早期に発見すれば、進行を遅らせる治療や適切な予防策を行って、元気に明るい毎日を過ごすことが可能です。
この記事では、アルツハイマー型認知症の原因・症状・治療方法を含め、ほかの認知症との違いや早期発見のポイントについて解説します。ぜひ参考にしてください。
アルツハイマー型認知症とは
アルツハイマー型認知症は脳の病気で、アルツハイマー病・老年型認知症・初老期認知症とも呼ばれます。認知症を引き起こす原因疾患の1つで、認知症の原因疾患の割合では約半分を占めます。
アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞が本来の老化より早く減ってしまい、認知症の症状が徐々に進行する病気です。認知症は、一度獲得された知的能力が失われ、社会生活や日常生活に支障をきたします。
アルツハイマー型認知症は、アミロイドβとタウと呼ばれる2つの異常たんぱく質がゴミとされ脳内に溜まり、神経細胞が障害されることで起こります。
アルツハイマー型認知症を発症する原因
アルツハイマー型認知症には、いくつかのリスク要因があります。そのうちの5つを解説しますので、ご自身の状況と照らし合わせながら確認してください。
年齢
アルツハイマー型認知症の発症率は、加齢とともに高まります。広い範囲の年齢層で発症しますが、特に65歳以上の発症率が高くなっている認知症です。
アルツハイマー型認知症の患者さんは今後、高齢者の数が増加していくとともにますます増えていくと予想されます。2009年に発表された厚生労働省の若年性認知症対策では、若年性認知症者数は18歳〜64歳で10万人あたり47.6人で、想定によると3万7千人程です。
そのうち25.4%がアルツハイマー病を基礎疾患としています。アルツハイマー型認知症は高齢者の疾患と思われがちですが、年齢を問わず発症する疾患です。
生活習慣
アルツハイマー型認知症は、生活習慣と深く関係しています。生活習慣においては、食事・運動・睡眠・喫煙などに注意をすると効果的です。
例えば魚をよく食べる方は食べない方に比べて発症率は3分の1程度になり、毎日の散歩やジョギングなどの定期的な運動を行っている方は、定期的な運動を行っていない方より発症率は半減します。
また、喫煙も健常な方と比べて発症率は3倍になり、禁煙すると同等に戻ります。アルツハイマー型認知症の予防策として運動を習慣付ける・魚をよく食べる・禁煙するなど生活習慣の見直しも大切です。
病歴
アルツハイマー型認知症は、生活習慣病と深く関係しています。
アルツハイマー型認知症の患者さんは平均2.3個の内科疾患を持っています。その内科疾患のうち、生活習慣病と呼ばれる高血圧が42%・糖尿病(耐糖能異常を含む)が19%・脂質異常症が48%です。
これらの生活習慣病または心血管系危険因子を治療しないと認知症の進行が促進してしまいます。特に生活習慣病の1つである高血圧は、認知症の進行に深く関係するため、高血圧の治療も同時に行ってください。
外傷
疫学研究によって頭部外傷(重大な外傷)の既往のある方は、アルツハイマー型認知症になる可能性があるとされています。ただ、前頭側頭型認知症と症状が似ている部分もあることから判断が難しい場合があります。
頭部外傷の既往があり、アルツハイマー型認知症になった患者さんの診療や検査を行ったうえで特徴を検討した検証報告がありますが、はっきりとした結果はでていません。
社会的孤立
近年、社会的孤立による認知症への影響が問題視されています。認知症発症のリスクにおいて、人との交流を増やし社会的孤立を防ぐことが重要です。
交流頻度と脳容積との関連を解析した研究があります。認知症を発症していない65歳以上の8,896人の脳MRI検査や健診データを用いた研究で、同居していない親族や友人と接触頻度が少ない方ほど、脳全体の容積や認知機能に関する脳の容積が小さい傾向であると判明しています。
認知症を予防するためには、人との交流を増やし社会的孤立にならない生活が大切です。
アルツハイマー型認知症の症状
認知症の症状は、原因疾患により異なる場合があります。以下、アルツハイマー型認知症の特徴的な症状を4つ解説します。
経験したことを忘れる
以前には問題なくできていた家事や趣味だったり、ご近所付き合いやサークル活動などの社会的な関わりがうまくできなかったりする症状がでてきます。
また、約束した内容ではなく約束したこと自体を忘れたり、食事の献立ではなく食事をしたこと自体を忘れてしまうなど経験したこと自体を忘れる症状もでてきます。
もの忘れは高齢者だけの世帯では変化に気付きにくいので、久しぶりに会ったご家族がはじめて気付くパターンが少なくありません。もの忘れは、アルツハイマー型認知症の代表的な症状です。これらによって日常生活に支障がでてきますので早期発見できるように注意してください。
新しいことを覚えられない
昔のことはよく覚えているのに、新しいことは覚えづらくなります。そのため、同じことを何度も聞き返す・物をどこに置いたか思い出せないなどの行動を起こしてしまいます。
これらは、記憶をすること自体が困難になっているため起こる症状です。ただのもの忘れとは性質が違うため、もの忘れが増えたと感じる方は、早めに医療機関で受診して早期発見に努めてください。
人格が変わり怒りっぽくなる
さらに症状が進行すると、街中を徘徊するといった異常行動や夜になると興奮して騒ぐ(夜間せん妄)など心理的な症状もでてきます。例えば、もの忘れに伴って自分でしまった財布の場所を忘れたのにも関わらず、財布を盗まれたと思いこむような被害妄想をします。
妄想により攻撃的な行動を起こしたり、情緒不安定になったりして、人格が変わってしまったようになるのも特徴です。ほかにはイライラしやすくなったり、うつ状態になったり、意欲が低下したりするなど精神的な症状もでてきます。
判断力が低下する
今日の日付や居場所がわからなくなるなどの見当識障害により、判断ができなくなる症状もあります。さらに、知っているはずの人に会っても誰だかわからなくなったり、着替えやトイレなどを1人で行ったりすることが困難になってしまうのが特徴です。
また、計画を立てたり、順序立てたりした行動も困難になってしまいます。さらに症状が進行すると記憶は失われてしまい言葉の理解や発語もできなくなり、歩行障害や失禁などの症状もでてきて、結果として寝たきり状態になってしまいます。
もの忘れやほかの認知症との違い
アルツハイマー型認知症ともの忘れは違います。認知症にはアルツハイマー型認知症以外にも3つの認知症があります。それらの認知症との違いを解説します。
もの忘れとの違い
アルツハイマー型認知症の初期の症状に、もの忘れがあります。以下、加齢によるもの忘れと区別するためのポイントを4つ紹介します。
- もの忘れの場合は朝食で何を食べたか忘れるが、アルツハイマー型認知症の場合は朝食を食べたこと自体を忘れる
- もの忘れは忘れたものを思い出そうとするが、アルツハイマー型認知症ではもの忘れに気付かない
- もの忘れは新しいことを覚えられるが、アルツハイマー型認知症では覚えられない
- もの忘れは暴言や暴力など性格や人格の変化や妄想はみられないが、アルツハイマー型認知症では変化や妄想がみられる
あてはまるものがある場合は、早めに医療機関で受診してください。
脳血管性認知症との違い
脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などが原因で脳機能が低下し発症する認知症です。アルツハイマー型認知症と違って、認知症の症状以外の症状を発症します。
以下、脳血管性認知症の特徴的な症状を3つ紹介します。
- 目標を立てて行動ができない・衝動的な行動が増えるなど遂行機能障害が目立つ
- 頭頂葉損傷によつものの場合、損傷した場所によって異なる症状が現れる(失認・失行・抑うつなど)
- 運動障害や手足の麻痺やしびれなどの神経障害を伴う
脳血管性認知症は、脳卒中が起こるたびに症状も進行します。そのため、脳卒中のリスクとなる生活習慣病の治療や生活習慣の改善が必要です。
レビー小体型認知症との違い
レビー小体型認知症は、認知症の症状に加えて精神症状が起こる認知症です。レビー小体型認知症の症状は、人によってさまざまで特徴的な症状を5つ紹介します。
- あたかも存在するように子どもや虫や生き物が見える(幻想)
- 夢を見て反応し大声を出す
- 1日のなかで症状が重くなったり軽くなったり変動する
- パーキンソン症状がでてくる(手足の震え・立ちくらみ・歩行障害)
- 初期はもの忘れが少ない
発症の初期にはもの忘れが少なく幻視が目立ち、立ちくらみや歩行障害なども起こすので、自宅のなかでも生活しやすい工夫が必要です。
前頭側頭型認知症との違い
前頭側頭型認知症は、アルツハイマー型認知症を含むほかの認知症とは違って指定難病に認定されており、65歳以下の若年に起こりやすいといわれています。症状は、性格変化や意欲低下などを生じる前頭葉症状と言語障害が起こる側頭葉症状の2つです。
以下、特徴的な症状を3つ紹介します。
- 同じ時間に同じ行動をする(同じ行動の繰り返し)
- 同じ食品を食べ続ける(過剰なこだわり)
- 周囲を顧みず自己本位な行動をする(万引き・無銭飲食など)
また、前頭側頭型認知症は、症状が進行するにしたがって記憶障害がでてきます。
アルツハイマー型認知症は早期発見が大切
もの忘れが増えたり、もの覚えが悪くなったりすると認知症ではないかと不安になる方も少なくないでしょう。認知症といえるほど症状がひどくなくても、放置すると認知症に進行してしまうMCI(軽度認知症障害)という状態になっている可能性があります。
では、MCI(軽度認知症障害)がどのようなものかを解説します。
MCI(軽度認知障害)とは
MCI(軽度認知障害)とは、認知症と完全に診断される一歩手前の状態を指します。放っておくと認知症に進行しますが、適切な予防策で健常な状態に戻せる可能性も少なくありません。
認知症の一歩手前とは、認知機能低下の自覚があるものの、日常生活は問題なくすごせる状態です。ただし、記憶力に軽度の低下が認められる場合も少なくないため、以前よりもの忘れが増えたと感じたら、もの忘れ外来を受診してください。
すべてのMCI(軽度認知障害)の方が認知機能の低下を経験するわけではありません。MCI(軽度認知障害)とは、家事や金銭管理などの日常生活には支障がないものの、年齢相応の認知機能レベルよりも低下している状態を指します。
MCI(軽度認知障害)を早期発見するポイント
MCI(軽度認知障害)から認知症に移行する方は、1年で5〜15%程です。一方で、16〜41%程の方は健常な状態に戻っています。
そのため、早期から認知症予防の対策を行うことが重要です。以下、早期発見するポイントを3つ紹介します。
- もの忘れの自覚はあるがもの忘れが増えてきた
- 以前はできた生活機能や実行機能ができなくなってきた
- 家族からの指摘が増えてきた(家族が変化を感じている)
これらの症状は、あくまでも仕事や日常生活に支障がない状態での症状です。生活に支障がないので、加齢に伴うもの忘れや生活機能の低下と判断し医療機関で受診しない場合もあります。しかし、認知症にならないための予防策としてこれらの症状がある方は早めの受診をおすすめします。
アルツハイマー型認知症の治療方法
残念ながら、アルツハイマー型認知症そのものを根本的に治す治療はまだないとされています。そこで、症状の進行を遅らせたり軽くしたりするための治療方法を3つ紹介します。
薬物療法
アルツハイマー型認知症の症状は、脳神経細胞が失われることで直接起こる中核症状とそれに伴って起こる周辺症状にわかれます。薬物も中核症状と周辺症状で異なります。
もの忘れや時間が認識できなくなるなどの中核症状には、症状を和らげるアリセプトという内服薬が効果的です。副作用として、稀に吐き気や消化器症状がでる場合もあるため少量の服用から始めます。また、アリセプトのほかにレミニール・イクセロン・メマリーと呼ばれる薬も販売されていて、症状によって使い分ける必要があります。
一方、夜になると興奮して騒いだり(夜間せん妄)、抑うつ状態になったりする周辺症状に対しては、抗精神病薬や抗うつ薬などの服用が効果的です。特に周辺症状は、家族や介護者にとって大きな問題となるため、適切な治療を行って症状を軽くする必要があります。
運動療法
運動療法は、認知機能障害だけではなく認知症の行動・心理症状・生活機能の改善をめざすものとして多種多様なプログラムがあります。内容としては、有酸素運動・筋力強化訓練・平衡感覚訓練などです。
これらの運動を複数組み合わせてプログラムを構成します。頻度は、20〜75分程度の時間で週2回〜毎日になります。
また、認知症の治療には家族や介護者のサポートが欠かせません。さらに、患者さんを一人の人として尊重し、患者さんの行動や状態を疾患や性格傾向・生活歴・健康状態などの視点から理解し、パーソンセンタードケアを意識したサポートが重要です。
リハビリテーション
リハビリテーションは、運動療法同様に認知症の行動・心理症状・生活機能の改善をめざすものです。このリハビリテーションにも、家族や介護者のサポートが欠かせません。
リハビリテーションでは、個別の目標設定を行い、その目標に向けて戦略的にセラピストが患者さんや家族に対して個人療法を行います。主に日常生活機能の改善に焦点を当て、失われた機能を補う方法を確立することが目的です。
しかし、家族にとっては以前はできていた行動ができなくなったり、何度伝えても覚えていないことがあるとつい怒りやイライラを感じることもあるでしょう。運動療法と同様に、リハビリテーションにおいてもパーソンセンタードケアが重要です。
まとめ
アルツハイマー型認知症の発症原因・症状・治療法・ほかの認知症との違い・早期発見のポイントなどを合わせて解説しました。
アルツハイマー型認知症と聞くと辛いイメージを持たれる方が少なくありませんが、早期発見できれば遅らせたり和らげたりが可能です。
誰もが認知症にならず元気に明るい毎日を過ごしたいと考えるでしょう。ぜひ、この記事を参考にしていただき早期発見・早期予防をしてください。
参考文献
- アルツハイマー病・認知症の診断・治療|近畿大学病院
- 若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について|厚生労働省
- アルツハイマー型認知症にならないために
- 生活習慣病と認知症
- 頭部外傷の既往がありアルツハイマー病によると考えられる認知機能障害を呈した患者の臨床的特徴
- 頭部外傷後の脳内アミロイド病理と認知機能障害:特にアルツハイマー病との関連
- 全国8地域からなる大規模認知症コホート研究で社会的孤立と脳萎縮および白質病変との関連を報告|熊本大学
- アルツハイマー病|慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
- アルツハイマー病|横浜市立大学附属病院
- 認知症とは|公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット
- 認知症|慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
- 認知症について|和歌山県立医科大学附属病院 認知症疾患医療センター
- あたまとからだを元気にするMCIハンドブック|国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
- 認知症治療ガイドライン2017 第3章 治療
- アルツハイマー型認知症|社会福祉法人 恩賜財団 済生会