認知症は高齢者の病気だと思われがちです。しかし、若くして認知症を発症してしまう方がいます。ほかの病気だと思われていたのが、実は若年性認知症だった方もいます。本記事では、若年性認知症について、そして気をつけたい症状や治療などについて解説しています。
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若年性認知症とは?
若年性認知症とは、65歳未満で発症する認知症のことを指します。一般的な認知症は高齢者に多いですが、若年性認知症は40〜50代で発症するケースが多く、仕事や家庭生活に大きな影響を及ぼします。厚生労働省の調査によると、日本における若年性認知症の有病率は10万人あたり約50人と推計されています。
若年性認知症の概要
若年性認知症は、発症年齢が早いため、社会的な影響が大きいのが特徴です。仕事や家事、育児を担う世代であることが多く、認知症の進行によって就労が困難になったり、経済的な負担が増えたりすることがあります。
発症の原因となる病気は、アルツハイマー型認知症(52.6%)が最も多く、次いで、脳血管性認知症(17.1%)や前頭側頭型認知症(9.4%)と続きます。
若年性認知症の平均発症年齢と有病率
日本における若年性認知症の平均発症年齢は51歳とされており、全国の患者数は約3.6万人と推計されています。また、男性に比べて女性に多いとされています。そして、10万人あたりの有病率は50人程度とされており、高齢者の認知症と比べると少数ですが、現役世代で発症するため、社会的影響が大きいことが問題視されています。
若年性認知症の原因別にみる症状
若年性認知症は、その原因によって症状の現れ方や進行の仕方が異なります。ここでは、主な原因となる認知症の種類ごとに特徴的な症状を解説します。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、若年性認知症の中で多い原因の一つとされ、全体の約半数を占めています。記憶障害が初期症状として現れることが多く、新しいことを覚えられない、会話の内容をすぐに忘れるといった症状が特徴です。若年で発症する場合は、認知症と思われず、うつ状態や仕事のストレスと間違えられることがあります。進行スピードもはやく、進行すると、時間や場所の感覚が曖昧になり、日常生活に支障をきたします。また、注意力や判断力の低下が見られ、仕事のミスが増えたり、計画を立てることが難しくなったりします。さらに進行すると、幻覚や妄想、うつ症状を伴うこともあります。
脳血管性認知症
脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血による血流障害が原因で発症します。若年性認知症の約17%を占めるとされます。アルツハイマー型認知症とは異なり、段階的に症状が悪化することが特徴です。
脳のどの部分が障害を受けるかによって症状は異なりますが、記憶障害に加え、運動麻痺や嚥下障害、感覚障害などが現れることがあります。生活習慣病(高血圧、糖尿病、高脂血症など)との関連が深く、予防には血圧管理や食生活の改善など生活習慣の改善が重要とされています。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳内に異常なタンパク質(レビー小体)が蓄積することで発症します。若年性認知症の原因としては少なく、後述のパーキンソン病による認知症と併せて、全体の3%程度とされています。この病気の特徴は、認知機能の変動が大きいこと、詳細な幻視(実際には存在しないものを鮮明に見る)、パーキンソン症状(手足の震え、筋固縮、歩行障害)などが見られることです。
パーキンソン病による認知症
パーキンソン病の患者さんのうち、最大で80%が病気の進行に伴い認知症を発症するとされています。パーキンソン病自体が認知機能に影響するともいわれますが、ほかの認知症性疾患を併発することもあります。症状としては、記憶障害のほか、注意力や判断力の低下、動作の遅れなどが見られます。レビー小体型認知症と似た症状を呈することが多く、視覚的な錯覚や幻視が現れることもあります。パーキンソン病患者さんでは、ドーパミン不足により運動機能が低下しますが、認知症を合併すると、さらに生活が困難になります。
また、レビー小体型認知症とパーキンソン病はレム睡眠行動障害(睡眠中に激しく動いたり、叫んだりする)を伴うこともあります。アルツハイマー型認知症とは異なり、記憶障害が初期に目立たないことがあり、診断が遅れることがあります。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、前頭葉や側頭葉の神経細胞が変性することで発症し、若年性認知症の約9%を占めるとされています。この病気の特徴は、記憶障害よりも行動や性格の変化が目立つことです。
例えば、社会的に不適切な行動を取る、同じ言動を繰り返す、食べ物に異常な執着を示すなどの症状が見られます。また、言葉の理解や発話に問題が生じることもあります。特に、若年発症が多いため、周囲が単なる性格の変化と捉えてしまい、診断が遅れることがあるため注意が必要です。
外傷による認知症
頭部外傷後に認知症が発症することがあり、これは慢性外傷性脳症(CTE)と呼ばれます。ボクシングやアメリカンフットボールなどの接触スポーツ経験者に多く見られることが知られており、脳に繰り返しダメージを受けることで発症すると考えられています。症状としては、記憶障害、感情の不安定さ、うつ症状、衝動的な行動などが見られます。外傷の影響は数十年後に現れることもあり、スポーツ選手や頭部外傷の既往がある方は注意が必要です。
アルコール性認知症
長期間の大量飲酒が原因で発症する認知症であり、ビタミンB1(チアミン)欠乏が関与することが多いとされています。特に、ウェルニッケ・コルサコフ症候群として知られ、急性のウェルニッケ脳症と慢性のコルサコフ症候群が合併することがあります。症状としては、短期記憶障害、意識の混乱、運動失調、眼球運動異常などが見られます。アルコールをやめることで進行を抑えられる可能性があるため、早期の診断と治療が重要です。
若年性認知症と高齢者の認知症の違い
若年性認知症と高齢者の認知症は、どちらも脳の神経細胞が変性することにより記憶や判断力などが低下する病気ですが、発症年齢や症状の進行、社会的な影響などに違いがあります。ここでは、それぞれの認知症の特徴を比較し、特に若年性認知症がもたらす影響について解説します。
発症年齢
若年性認知症は65歳未満で発症する認知症を指し、日本では平均発症年齢が51歳とされています。一方、高齢者の認知症は65歳以上で発症するものを指し、最も多いのはアルツハイマー型認知症で、年齢とともに増加します。若年性認知症では、特に40〜50代の働き盛りの世代で発症するケースが多く、仕事や家庭生活に大きな影響を及ぼします。高齢者の認知症と比べると、進行が速いことが多く、症状が急激に悪化する傾向があります。
男女差
高齢者の認知症では女性の患者数が多いことが知られています。これは、アルツハイマー型認知症の有病率が女性で高く、女性の方が平均寿命が長いためと考えられています。一方、若年性認知症では男性の発症率がやや高い傾向があります。
発症時に生じる影響
若年性認知症は働き盛りの世代で発症するため、経済的・社会的な影響が大きいのが特徴です。仕事を続けることが難しくなり、収入の減少や職場での人間関係の変化が生じることがあります。特に、認知症の初期段階では、ミスが増えたり、業務の効率が落ちたりすることがあります。
また、家族への影響も大きく、配偶者や子どもが介護の負担を担うことになります。さらに、若年性認知症の患者さんは身体機能が保たれているため、介護サービスの利用が想定されていない場合が多く、支援を受けにくい現状もあります。
一方、高齢者の認知症は主に引退後の世代に発症するため、仕事への影響は少なく、家族の介護負担が中心となります。高齢者の場合は介護サービスの利用が一般的であり、社会的支援が充実している点が若年性認知症との大きな違いです。
発症から診断までにかかる時間
若年性認知症は、高齢者の認知症と比べて診断までに時間がかかる傾向があります。高齢者の場合、物忘れなどの認知機能の低下が見られると、すぐに認知症を疑われることが多く、早期に医療機関を受診するケースが一般的です。
しかし、若年性認知症では、認知症よりも更年期障害やうつ病や適応障害など、ほかの疾患と勘違いされてしまい、診断が遅れることがあります。また、仕事のストレスや生活習慣の影響と誤解され、適切な検査が行われないまま進行するケースもあります。
若年性認知症の前兆
若年性認知症の前兆は、高齢者の認知症と同様に、記憶障害や行動の変化が見られることが多いです。複数の原因疾患があり、それぞれに前述の特徴があります。ここでは、若年性認知症の代表的な前兆として、物忘れ、行動や性格の変化、言語障害について解説します。
物忘れ
若年性認知症では、記憶障害が初期症状として現れることが多く、特に新しい情報を覚えることが難しくなります。例えば、会議で話した内容をすぐに忘れたり、大事な約束を思い出せなかったりすることがあります。また、同じ質問を繰り返したり、業務の手順を忘れたりすることもあります。
高齢者の認知症では、加齢による物忘れと認知症の違いが明確ですが、若年性認知症の場合は、仕事や家庭生活に支障をきたす形で現れるため、本人や周囲がストレスや疲労のせいと考え、見過ごされがちです。
行動や性格の変化
若年性認知症では、行動や性格の変化が目立つことがあり、特に前頭側頭型認知症(FTD)では、初期症状として感情のコントロールが難しくなり、突発的な行動を取ることがあります。例えば、今まで温厚だった方が怒りっぽくなったり、社交的だった方が無関心になったりすることがあります。また、職場や家庭での協調性が低下し、適切な判断ができなくなることもあります。さらに、注意力が散漫になり、計画的に物事を進めることが困難になる場合もあります。
言語障害
若年性認知症の前兆として、言語障害が現れることがあります。特に、言葉がスムーズに出てこなくなったり、適切な単語を思い出せなくなったりすることがあります。例えば、簡単な単語が思い浮かばず、「あれ」「それ」といった指示語が増えることがあります。また、話の途中で何を言おうとしていたのか忘れてしまい、会話が成り立たなくなることもあります。
若年性認知症の診断基準
若年性認知症は、65歳未満で発症する認知症の総称であり、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、アルコール性認知症など、さまざまな病態が含まれます。若年性認知症の診断には、高齢者の認知症と同様の診断基準が用いられます。
若年性認知症の検査方法
若年性認知症の診断には、複数の検査を組み合わせて行います。主な検査方法として、認知機能を評価する神経心理学的検査、脳の構造や血流を調べる画像検査、認知機能の低下に影響を与える疾患を除外する血液検査などがあります。
1.神経心理学的検査
若年性認知症の初期段階では、記憶障害よりも実行機能や注意力の低下が目立つことがあり、高齢者の認知症と異なるパターンを示すことがあります。そのため、認知機能を詳細に評価するために、以下の神経心理学的検査が行われます。
- ミニメンタルステート検査(MMSE)
- 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
- 日本語版モントリオール認知評価(MoCA-J)
- ウェクスラー記憶検査(WMS-R)
- 前頭葉機能検査(FAB)
2.画像検査
若年性認知症では、MRIやCT、脳血流シンチグラフィ(SPECT)などの画像検査を行います。脳萎縮や脳血流などを確認します。
3.血液検査
若年性認知症の原因の一部には、代謝異常やビタミン欠乏が関与することがあります。そのため、以下のような血液検査を行い、ほかの疾患との鑑別を行います。
- 甲状腺機能検査(TSH、FT4)
- ビタミンB12・葉酸検査
- 肝機能・腎機能検査
若年性認知症の診断方法
若年性認知症の診断は、問診のほか、神経心理学的検査や画像検査、血液検査を組み合わせて行われます。特に、うつ病や脳腫瘍、甲状腺疾患などほかの疾患との鑑別診断が重要となります。
若年性認知症の治療法
若年性認知症の治療は、認知機能の低下を遅らせ、生活の質を向上させることを目的としています。現在のところ、多くの若年性認知症の原因となる疾患を完全に治す治療法はありませんが、薬物療法と非薬物療法を適切に組み合わせることで、進行を抑えることが期待できます。
薬物治療
若年性認知症の薬物治療では、原因となる疾患に応じた治療薬が用いられます。アルツハイマー型認知症には、コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬が使用され、記憶力や認知機能の低下を抑える効果が期待されます。レビー小体型認知症の場合も、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル)が有効とされます。認知機能の低下を軽減する目的で処方されます。
脳血管性認知症の治療では脳梗塞、脳出血および関連する生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病など)の管理が不可欠となります。脳梗塞に対しては、原因に応じて抗血小板薬や抗凝固薬が処方されます。脳出血は主に血圧管理を中心に治療を行います。併せて生活習慣の改善も行います。前頭側頭型認知症の場合、行動の変化や人格の変化が顕著となるため、SSRIなどの抗うつ薬や抗精神病薬を症状に応じて使用することがあります。
非薬物治療
生活習慣の改善も重要な要素の一つです。有酸素運動やストレッチを日常的に取り入れることで、認知機能の低下を抑えることが期待できます。また、食生活の見直しも不可欠であり、特に地中海式食事(野菜や魚、ナッツ類を多く含む食事)が認知症予防に有効であるとされています。
環境調整も、認知症の進行を遅らせるために重要です。仕事を続けることが難しくなった場合には、職場でのサポートを受けるか、障害者雇用制度を活用することが推奨されます。また、家族の負担を軽減するために、デイサービスやショートステイなどの介護サービスを利用することも検討が可能です。
まとめ
若年性認知症は65歳未満で発症する認知症で、社会的影響が大きい疾患です。主な原因は脳血管性認知症やアルツハイマー型認知症で、物忘れや行動変化が初期症状として現れます。診断には神経心理学的検査や画像検査が用いられ、早期発見が重要です。治療は薬物療法と非薬物療法を組み合わせ、進行を遅らせることが目的です。生活習慣の改善や環境調整も有効であり、早期の対応が患者さんの生活の質を向上させる鍵となります。
参考文献
- 厚生労働省:若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について
- 若年性認知症ハンドブック
- 慢性外傷性脳症 | 神経外傷・スポーツ頭部外傷 | 病気について | 東京慈恵会医科大学附属病院 脳神経外科
- Investigation of the genetic aetiology of Lewy body diseases with and without dementia – PubMed
- 認知症とは | 健康長寿ネット
- 認知症と共に暮らせる社会をつくる|地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所
- 前頭側頭葉変性症(指定難病127) – 難病情報センター
- Mediterranean diet and risk for Alzheimer’s disease – PubMed