情報収集やコミュニケーションなど、さまざまな面から私たちの生活を支えてくれるスマートフォンですが、潜在的なリスクもあるといわれています。そのひとつがスマホ認知症です。認知症というと高齢者に起きる印象がありますが、スマホ認知症は学生から高齢者まで、スマホを使うすべての人にとって他人事ではありません。スマホ認知症とはどのようなものなのか、スマホ認知症の症状や原因、予防策を解説します。
【脳の健康度をチェック!】認知機能の維持向上につなげましょう!
スマホ認知症の概要

スマホ認知症とはどのような状態をいうのでしょうか。症状や原因、なりやすい年齢などを解説します。
- スマホ認知症とはどういうものですか?
- スマホ依存による脳疲労によって生活に支障が出る状態のことで、医学的に病名が付けられているものではありません。認知症の症状と同じように、記憶障害、集中力・判断力の低下、睡眠障害、情緒不安定、コミュニケーション能力の低下などが起きます。
具体的には、もの忘れが頻繁に起きるようになったり新しい情報の記憶が困難になったりする、気が散ってしまい仕事や勉強などの作業に集中できなくなる、夜眠れずに昼に眠気を感じる、感情の起伏が激しくなるなど情緒が不安定になる、会話の際に言葉が出てこない、会話している相手の話が理解できにくいといった症状が見られます。
- スマホ認知症の原因について教えてください。
- スマホ認知症の原因はスマホ依存による脳疲労です。スマートフォンからは大量の情報が入ってきます。常にスマホを使用することで、脳の前頭前野が処理できない程の情報にさらされてしまい、脳の容量がパンクしてしまいます。
また、前頭前野には、深く考える機能、ぼんやりと考える機能、浅く考える機能の3つが備わっていますが、スマートフォンから入る情報は、このうち浅く考える機能のみです。ひとつの機能だけを頻繁に使うことで脳疲労を感じやすくなること、ほか2つの機能が使われないことによって、集中力や思考力が下がり、認知機能が低下することにつながると考えられています。
また、メールやSNS中心のコミュニケーション方法に変化することで、対面での会話能力や非言語コミュニケーション能力が落ち、他者の感情や考えへの共感能力も衰える可能性もあるでしょう。これによって、言葉が出てこなかったりうまく伝えられなかったりといったコミュニケーション能力の低下が起きてしまいます。
スマートフォンや電子機器のブルーライトは、睡眠障害の原因になるので注意が必要です。特に就寝前のスマートフォンの操作は、体内時計に影響を与えます。寝る直前までスマートフォンを使用している場合は、睡眠障害を起こしやすくなるでしょう。
- スマホ認知症になりやすい年齢はありますか?
- 一般的な認知症の場合は高齢者に多く発症しますが、スマホ認知症はどの世代であってもなってしまう可能性があります。特に30~50代でもの忘れ外来を受診するケースも増加しています。
総務省による、スマートフォンやタブレットの利用状況についての2020年の調査では、スマートフォンやタブレットをよく利用している、または、ときどき利用していると回答した人の割合を年代別にまとめられています。これによると、18~29歳では98.7%とほぼ100%に近い状態でした。年齢があがる程使用率は低くなりますが、それでも50代で91.1%、60代で73.4%、70代以上で40.8%と高い使用率がうかがえます。近年では高齢者でも使いやすいスマートフォンの機種も増えており、スマートフォン使用率は増加傾向です。子どもから高齢者までスマートフォンに接する機会が増えた現代においては、どの年齢の人であってもスマホ認知症になるリスクがあるといえるでしょう。
- スマホ認知症のチェック方法があれば教えてください。
- スマホ認知症の具体的な症状をいくつかご紹介しましょう。あてはまるものがある程、スマホ認知症の可能性が高くなります。ご自身や周囲の方にあてはまるものはないかチェックしてみてください。
まずは、肌身離さずスマートフォンを使用しているかをチェックしましょう。布団のなかやトイレでもスマートフォンを使用している場合は、スマホ依存症の可能性が高いといえます。ほかの人と話しているときもスマートフォンが気になる、少しの時間でもスマートフォンを見てしまう、家にスマートフォンを置き忘れると不安になる場合は要注意です。
もの忘れが増えるのはスマホ依存症の代表的な症状のひとつです。忘れっぽくなった、新しいことを覚えにくくなったなど、記憶力が落ちたと感じる場合は、スマホ認知症の可能性があります。また、昔は書けていた漢字が書けなくなることもあります。
仕事や勉強など、作業をするときに集中力が続かなくなった自覚はありませんか。以前よりも作業の段取りが悪くなったり、考えても解決策がうかばなかったり、集中力や想像力が下がったと感じる場合は注意が必要です。
このほか、コミュニケーションがとりにくくなったり、コミュニケーション機会が減ったりしていないか、不眠症など睡眠障害の症状が出ていないかもチェックしましょう。
スマホ認知症の予防と対応策

スマホ認知症を防ぐためにはどうしたらよいのでしょうか。スマホ認知症から抜け出すことはできるのか、スマホ認知症の対応策について解説します。
- スマホ認知症は治るのでしょうか?
- 一般的な認知症は、多くの場合は根本治療できないといわれています。ただし、スマホ認知症の場合は一過性のものであるため、回復するケースがほとんどでしょう。スマホ認知症になったとしても、きちんと対策することで治すことは可能です。ただし、スマホ認知症は一般的な認知症(若年性認知症)につながるリスクがあるのも覚えておきたい点です。スマホ依存傾向がある場合は、早めに予防策に取り組みましょう。
- スマホ認知症の予防策があれば教えてください。
- スマホ認知症の予防策の基本は、スマホの使用時間を減らすことです。寝室やトイレにスマホを持ち込まないなど、自分でルールを決めて守るようにするとよいでしょう。使用する時間を制限することもおすすめです。スマートフォンはただ見ているだけであっても、脳に疲労が溜まります。デジタル機器に触れない休息時間を作るなど、デジタルデトックスを心がけることが大切です。
調べものをするときも、すぐにスマートフォンに頼らないようにすることも予防策のひとつです。本や新聞など、ほかの媒体を活用すると新たな学びがあるかもしれません。スマートフォンに依存した習慣も見直すようにしましょう。また、オンラインだけでなく、対面でのコミュニケーションを増やすのも、予防策としておすすめです。
認知症の方のスマートフォン利用
認知症を患っている方がスマートフォンを利用することも少なくありません。認知症の方がスマートフォンを利用することのリスクや対応策を知って、上手にスマートフォンを活用しましょう。
- 認知症の方がスマートフォンを使うリスクはありますか?
- 認知症の方がスマートフォンを使う場合には、よい点も悪い点もあります。
よい点としては、離れた場所にいる人とも簡単につながれることが挙げられます。特に体が不自由な方や行動が制限されている方にとって、オンラインやビデオ通話を使ってコミュニケーションがとれるのは大きなメリットといえるでしょう。また、GPS機能を利用すれば、万が一徘徊で行方不明になった場合でも居場所がわかる可能性があります。
悪い点としては、毎日電話をかけてしまうリスクがあることです。記憶障害や不安から、頻繁に電話をかけてしまって家族が困るケースも少なくありません。また、電話のかけ方がわからなくなってしまうと、自尊心の低下や自信の喪失にもつながります。
認知症の方のスマホ使用による大きな懸念点としては、契約トラブルがあります。よくわからないまま契約をしてしまい、不要なプランや商品を契約してしまう、フィッシング詐欺、通話を切り忘れて高額な料金が請求されるなどのリスクがあります。
- 対応策があれば教えてください。
- 電話をかけすぎてしまう場合、認知症の方は話を聞いて欲しいと不安に思っていることが考えられます。ゆっくりと真剣に話を聞いてあげることで、不安が解消されることもあるでしょう。ほかの人に電話をかけてしまう場合は、発信制限をかけるのもひとつの手です。また、電話のかけ方がわからなくなってしまった際には、介護職員の支援を受けることをおすすめします。
契約トラブルに関しては、契約時には家族がサポートをしてあげましょう。スマートフォンに限らず、判断力が低下してしまっている状態での契約行為は危険です。万が一トラブルが生じた場合は、消費者生活センターに相談してください。フィッシング詐欺や電話による詐欺を防ぐためには、メールや電話を制限するなど設定の変更をしておくとよいでしょう。また、何かあった際に素早く対応できるように、信頼関係を築き、認知症の方が相談しやすい環境を整えておくことも大切です。
編集部まとめ
スマホ認知症とは、スマートフォンの使いすぎによって脳に疲労が溜まり、もの忘れなど、認知症のような症状が出る状態をいいます。一般の認知症とは異なり若い世代で発症することが多く、誰にとっても他人事ではありません。予防策としては、できるだけスマートフォンから離れた生活を送ることです。自分でルールや時間を決めて、デジタルデトックスを心がけましょう。認知症の方がスマートフォンを使用する場合は、本人の症状やリスクについてよく理解したうえで、適切な利用ができるようにサポートすることが大切です。