認知症を予防するためにサプリメントを取り入れてみようと考える方は少なくありません。認知症患者さんのご家族やご友人が、進行を遅くするためにサプリメントを検討することもあります。
しかし、残念ながらサプリメントが認知症の予防に効果が期待できるとはいえません。本記事では、サプリメントが認知症に与える効果や影響、サプリメントを摂取する場合の注意点などを解説します。
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認知症の予防に効果があるサプリメント
- 医師として認知症予防としてサプリメントをおすすめすることはありますか?
- 外来で診療を行う中で、認知症予防にサプリメントをおすすめすることは基本的にはありません。
サプリメントの中には、十分な医学的根拠がないものだったり、医学的根拠について検証中のものであったり、予防の観点でよい影響を与える可能性がある成分であっても、十分な量を摂取するには大量に摂取する必要があるものなど、さまざまな背景を抱えているからです。
また、認知症の種類によっても、よい影響を与える可能性がある成分は異なります。
認知症予防の目的でサプリメントをすすめる場合、医師としてすすめるというよりは、家族や友人に質問された場合に、「いいかもしれないから、チャレンジしてもいいかもね」くらいのニュアンスで話をする程度にとどまります。
- 認知症予防に効果がある可能性があるサプリメントを教えてください。
- 認知症の予防効果を期待してサプリメントを使用することは、前述の通りあまりおすすめはしていません。
参考までに、日本認知症予防学会がエビデンスについて検討したサプリメントや、文献レベルで認知症の発症予防や経過に影響を与えうるサプリメントについては以下のものがあります。
・ビタミンB12
・フェルガード®
・TwendeX(オキシカット)
・βラクトリン
・熟成ホップ由来苦味酸
・レスベラトロール
・オメガ3脂肪酸(ドコサヘキサエン酸(DHA)、イコサペント酸(EPA))
◎ビタミンB12
ビタミンB12は不足すると認知症の発症のリスクとなります。ビタミンB12は神経細胞などの細胞膜の合成に関与しており、不足すると脳の必要な情報伝達に支障が起こる可能性があります。
体内で合成することのできないビタミンなので、食事などで補う必要があります。慢性胃炎や胃の手術後などの場合に吸収が少なくなってしまう可能性があるので、通常の食事で摂取できる量に加えて、サプリメントで補充するとよいでしょう。
◎フェルガード®
フェルガード®は抗酸化作用を持つサプリメントです。日本認知症予防学会が、エビデンスについて初めて言及したサプリメントになります。軽度認知症から認知症への移行予防効果の可能性がありうると提言されています。
◎TwendeX(オキシカット)
TwendeX(オキシカット)は抗酸化作用を持つサプリメントです。日本認知症予防学会が軽度認知症患者さんに対する認知症予防効果があると発表しています。
◎βラクトリン
βラクトリンは体内へ吸収後、脳へ移行して前頭葉皮質や海馬のドーパミンの量を増やすことで認知機能を増やすことで認知機能を改善すると言われています。日本認知症予防学会がβラクトリンの認知機能改善作用に関する情報は、1次予防効果に関する認知症予防効果があると発表しています。
◎熟成ホップ由来苦味酸
熟成ホップ由来苦味酸が腸上皮の苦味受容体を介して迷走神経を刺激し、腸脳相関を活性化することで認知機能と気分障害を改善、体脂肪を低減すると言われています。日本認知症予防学会が熟成ホップ由来苦味酸は認知症予防(1次予防)効果の可能性があると発表しています。
◎レスベラトロール
赤ワインに含まれる成分の一つです。SIRT1の活性化を促し、神経の炎症を調整する働きがあると言われています。認知症予防を目的としたレスベラトロールの摂取量については文献によって差があります。赤ワインから摂取しようとすると毎日数杯の赤ワインの摂取が必要になってしまうため、アルコール性認知症の発症のリスクが上がる可能性があります。
サプリメントの含有量も製品によってまちまちなので、あくまでも気になれば摂取を検討してもよい範囲と言えるでしょう。
◎オメガ3脂肪酸(ドコサヘキサエン酸(DHA)、イコサペント酸(EPA))
オメガ3脂肪酸は抗炎症作用があると言われています。DHAまたはエイコサペンタエン酸(EPA)の摂取量が0.1g/d増加するごとに、認知機能低下のリスクが8%~9.9%低下したという報告があります。
すでに発症している認知症に効果があるサプリメント
- 認知症の進行を抑える効果が期待できるサプリメントはありますか?
- 認知症の進行を抑える効果を期待してサプリメントを使用することは、認知症の予防効果を期待するサプリメントと同様に、あまりおすすめはしていません。
発症の有無に関わらず、予防効果を期待するサプリメントとして列挙したものの使用は検討してもよいかもしれません。
- 認知症患者さんには「バランスのとれた食事がよい」とされていますが、サプリメントで足りない栄養素を補うことは有用でしょうか?
- 認知症患者さんの症状進行抑制の観点でも、認知症発症予防の観点でも、基本的には「バランスの良い食事」と「適度な運動」がベースにあります。食事のみで十分に栄養の成分を摂取できない場合、例えばビタミンB12や葉酸などをサプリメントで補うことは有用と言えるでしょう。
サプリメントは「栄養補助食品」であり、あくまでも補助的な立ち位置なので、サプリメントありきの食生活ではなく、できる限り「バランスの良い食事」を摂ることを心がけましょう。
- 薬を服用中の認知症の患者さんが飲まない方がよいサプリメントを教えてください。
- 内服している薬の種類にもよるので、処方を受けている薬局の薬剤師に確認をしてください。
認知症の予防や進行を抑える効果が期待できないサプリメント
- 認知症の予防などに効果がないことがわかっているサプリメントの成分を教えてください。
- どのサプリメントも効果がないと言い切ることはできません。あくまでもサプリメントは「栄養補助食品」の立ち位置です。
現時点で、イチョウの成分を使ったサプリメントについては厚生労働省のeJIMでは、「認知症または認知機能低下を予防することはできず、アルツハイマー病に関連した認知症の悪化を予防することもできなかった」と公表されています。
このような成分は、今後の研究の方法や切り口によっては有用性を再検討されるケースもあるため、あくまでも「現時点では認知機能低下を予防する効果は確認されていない」という認識で確認するとよいでしょう。
- シニア層が飲まないほうがよいサプリメントはありますか?
- 一律に「シニア層が飲まない方がよい」と言えるサプリメントについても言及することはできません。人によって腎機能の低下や肝臓の機能低下などの背景が異なるからです。
気になる場合は「公益財団法人 日本健康・栄養食品協会」の「健康補助食品相談窓口」に相談するとよいでしょう。
サプリメント以外で認知症を予防、進行を抑えることができる方法
- サプリメントの摂取以外に効果的とされている認知症の予防法を教えてください。
- 繰り返しになりますが、そもそも、サプリメントの摂取を認知症予防のための主な方法の一つと考えるのではなく、食事や運動、睡眠や人との関わり合いなど、日常生活の基本となるものから認知症予防について考えるようにしましょう。
食事であれば、野菜や魚を中心とした一般的な日本食がよいでしょう。適度な運動と6~7時間程度の適度な睡眠、人とのコミュニケーションが認知機能低下の予防にはよいでしょう。
- サプリメントの摂取以外で認知症の進行を抑える方法があれば教えてください。
- 認知症の進行を抑える方法についても、予防と同じ考え方でよいでしょう。認知症については、ある日ある瞬間でくっきり分けられるような区切りはないからです。
まとめ
認知症とサプリメントについて説明しました。
認知症予防や認知症の進行抑制を、サプリメントを中心に行うのではなく、あくまでもサプリメントは「栄養補助食品」であるという認識で、日常生活に取り入れるかどうかを検討するとよいでしょう。
参考文献
- 一般社団法人日本認知症予防学会
- Chiaki Kudoh et al.Effects of Ferulic Acid and Angelica archangelica Extract (Feru-guard ®) on Mild Cognitive Impairment: A Multicenter, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Prospective Trial.J Alzheimers Dis Rep. 2020 Sep 18;4(1):393–398.
- 認知機能を改善する乳由来βラクトリンの発見と機能性飲料の開発
- 阿野泰久ら.ビール苦味成分による脳腸相関活性化を介した認知機能改善と体脂肪低減良薬口に苦し!?の健康科学. 化学と生物 62(5): 253-259 (2024)
- Chaebel Moussa et al.Resveratrol regulates neuro-inflammation and induces adaptive immunity in Alzheimer’s disease.J Neuroinflammation. 2017 Jan 3;14:1.
- 厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』
- 公益財団法人日本健康・栄養食品協会