認知症は、高齢者を中心に発症し、記憶や思考、判断力の低下を引き起こす脳の疾患です。加齢とともに発症リスクが高まり、多くの方が「認知症を予防できるのか」「予防薬はあるのか」と疑問を抱きます。
2025年2月現在、認知症を予防する薬は開発されていませんが、生活習慣を改善することで発症リスクを低減できる可能性があります。本記事では、認知症の種類や現在の治療薬、予防のために日々の生活で気を付けるべきポイントを詳しく解説します。
【脳の健康度をチェック!】認知機能の維持向上につなげましょう!
まずは知っておきたい認知症の種類
認知症は、脳の神経細胞がダメージを受けることで記憶力や判断力が低下し、日常生活に支障をきたす疾患です。いくつかの異なる種類があり、それぞれ原因や症状が異なります。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、一般的な認知症のタイプであり、全認知症の約6割を占めます。脳内にアミロイドβやタウたんぱく質が蓄積することで神経細胞が破壊され、認知機能が低下します。初期症状として記憶障害が目立ち、進行すると判断力の低下や時間・場所の認識が困難になることが特徴です。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、レビー小体という異常なたんぱく質が脳に蓄積することで発症します。特徴的な症状として、幻視(実際には存在しないものが見える)、認知機能の変動、パーキンソン病のような運動症状(手足の震えや筋肉のこわばり)が挙げられます。日によって症状が変化することが多く、患者さん自身やご家族が困惑することもあります。
脳血管型認知症
脳血管型認知症は、脳梗塞や脳出血など脳の血流障害によって神経細胞が損傷し、認知機能が低下する疾患です。症状は脳の損傷部位によって異なり、記憶障害よりも言語障害や運動機能の低下が目立つことがあります。高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病と密接に関連しており、これらを適切に管理することで発症リスクを抑えられる可能性があります。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉が萎縮することで発症し、人格や行動の変化が特徴です。社会的ルールを守れなくなる、感情の起伏が激しくなる、特定の行動を繰り返すなどの症状が現れます。発症年齢が若く、50〜60代で発症するケースもあります。
2025年2月時点では認知症を予防できる薬はない
現在、認知症を完全に予防する薬は存在しません。しかし、生活習慣を改善することで認知症のリスクを下げることは可能とされています。バランスの取れた食事、適度な運動、質のよい睡眠、社会的交流を続けることが、脳の健康維持に有効です。また、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を適切に管理することも重要とされています。
認知症の効果がある薬の種類
認知症を根本的に治療する薬はまだありませんが、症状の進行を遅らせる効果が期待できる薬がいくつか存在します。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、脳内の神経伝達物質アセチルコリンの分解を抑え、神経細胞間の情報伝達を改善することで、認知機能の低下を遅らせる働きがあります。代表的な薬として、ドネペジル(アリセプト)、ガランタミン(レミニール)、リバスチグミン(イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)があります。細かな作用機序の違いや、内服・貼付薬などの違いで使い分けます。
NMDA受容体拮抗薬
NMDA受容体拮抗薬は、過剰な神経伝達を抑え、神経細胞を保護する作用があります。代表的な薬として、メマンチン(メマリー)があり、中等度から高度のアルツハイマー型認知症に使用します。攻撃性などの不穏な症状がみられる場合によく用います。
認知症の新薬
近年、アミロイドβやタウたんぱく質の蓄積を抑制する新薬の開発が進んでいます。抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ、ドナネマブ)は、アルツハイマー型認知症の進行を抑える可能性があるとして注目されています。研究の内容にもよりますが、症状の進行をおよそ7.5ヶ月遅らせることができると言われています。これまでにない機序でのアルツハイマー型認知症の治療薬になりますが、高額な医療費、月に1回の通院頻度、治療中に脳出血を発症する可能性などのさまざまな懸念があります。漠然と「認知症の進行を遅らせたいから使用する」というよりは、費用や治療にかかる時間やリスクを十分に理解し、「進行を遅らせることができる見込みの期間をどのように過ごしたいか」を想像することから始めてみてもよいかもしれません。
認知症予防に効果的な7つの方法
認知症を予防するためには、以下に挙げた項目を日常生活の中で意識的に取り組むことが重要です。医学的に確立された予防薬は存在しませんが、健康的なライフスタイルを維持することで、認知症の発症リスクを抑えることができると考えられています。本章では、認知症予防に効果的とされる7つの方法について詳しく説明します。
栄養バランスのよい食事を摂る
健康的な食事は、認知症予防において極めて重要な要素です。特に、地中海式食事は科学的に認知機能の低下を抑える可能性があるとされており、魚やオリーブオイル、ナッツ類、野菜、果物を中心とした食生活を送ることが推奨されています。
また、DHAやEPAを豊富に含む青魚を積極的に摂取することで、脳の神経細胞を保護し、炎症を抑える効果が期待できます。ビタミンB群やポリフェノールを多く含む食品も、脳の健康維持に寄与することがわかっています。さらに、糖分や飽和脂肪酸の過剰摂取を避けることで、糖尿病や高血圧といった生活習慣病の予防にもつながり、結果として認知症のリスクを低減できます。
お酒を飲み過ぎない
適度な飲酒は認知症リスクに対して大きな影響を及ぼさないとされていますが、大量のアルコール摂取は脳の神経細胞に悪影響を及ぼし、認知症のリスクを高める可能性があります。特に長期間にわたる過度な飲酒は、アルコール依存症や脳萎縮を引き起こし、認知機能の低下を加速させることが知られています。
さらに、アルコールの過剰摂取は脳卒中や高血圧などのリスクを増加させ、これらの疾患は脳血管型認知症の原因となることが分かっています。そのため、飲酒をする場合は適量を守り、休肝日を設けることが大切です。
禁煙する
喫煙は血管を収縮させ、脳血流を悪化させるため、認知症のリスクを大幅に高めることが明らかになっています。長期間の喫煙は動脈硬化を引き起こし、脳卒中や心血管疾患のリスクを増加させるため、脳血管型認知症の原因となる可能性が高いとされています。さらに、タバコに含まれる有害物質が脳細胞の酸化ストレスを増加させ、神経細胞の損傷を促進することが研究で示唆されています。
そのため、禁煙を実践することで、脳の健康を守り、認知機能の低下を予防することが期待できます。禁煙を継続することで、血流が改善され、酸素や栄養が脳に十分に供給されるため、認知症予防に大きなメリットがあると考えられます。
趣味を持つ
趣味は脳を活性化させ、認知機能を維持するのに役立ちます。読書や音楽、パズルなどの知的活動は脳の刺激になり、新しいことを学ぶことで神経細胞の結びつきを強化する効果が期待できます。また、絵を描いたり、楽器を演奏したりするような創造的な活動は、脳の複数の領域を同時に刺激し、思考力や記憶力の向上に貢献するとされています。
さらに、スポーツや園芸などの身体を動かす趣味を持つことで、血流が改善し、脳の健康維持にもつながります。趣味を楽しむことはストレスの軽減にもなり、心身の健康維持に大きく貢献するため、積極的に取り入れることが推奨されます。
コミュニティに参加する
社会的なつながりは認知症のリスクを下げる重要な要因の一つです。友人や家族との交流を積極的に持つことで、孤独感を軽減し、精神的な安定を保つことができます。特に、定期的な会話や集まりを通じて脳を刺激し、認知機能の低下を防ぐ効果が期待されます。
また、地域のコミュニティ活動やボランティアに参加することも、社会とのつながりを深め、認知症予防に貢献します。社会的な関係を築くことは、生活の質の向上にもつながるため、積極的に取り組むことが推奨されます。
生活習慣病を治療する
高血圧や糖尿病、脂質異常症の管理は、脳血管の健康を維持し、認知症のリスクを低減させる上で極めて重要です。これらの生活習慣病は動脈硬化を引き起こし、脳の血流を悪化させることで、脳梗塞や脳出血を誘発するリスクを高めます。特に、血圧が高い状態が続くと脳の血管に負担がかかり、認知機能の低下を加速させる可能性があります。
そのため、適切な薬物療法とともに、減塩や適度な運動、バランスの取れた食事を心がけることが大切です。糖尿病の場合、血糖値の急激な変動が神経細胞に悪影響を与えるため、適切な血糖コントロールを行うことが認知症予防につながります。また、脂質異常症を管理することで血管の柔軟性を保ち、脳への血流を安定させることができます。
運動不足を改善する
適度な運動は認知機能の維持に効果的です。ウォーキングやストレッチ、筋力トレーニングを習慣化することで、血流が促進され、脳に必要な酸素や栄養が行き渡りやすくなります。特に有酸素運動は脳の神経細胞の成長を促し、記憶力や判断力の向上に寄与するとされています。
加えて、ヨガや太極拳などのバランスを必要とする運動は、転倒リスクを減らし、高齢者にとっても安全に取り組める選択肢です。定期的な運動習慣を取り入れることで、ストレスの軽減や良質な睡眠にもつながり、総合的な健康維持に役立ちます。無理のない範囲で、日常生活に運動を取り入れることが推奨されます。
認知症かな?と感じたらやるべきこと
認知症の初期症状は、物忘れや判断力の低下、集中力の低下など、日常のささいな変化から現れることがあります。しかし、年齢を重ねると誰もが経験する軽い記憶障害との区別が難しいこともあります。
自分や家族が「もしかして認知症かもしれない」と感じた際には、早めの対応が重要です。認知症は早期に発見し、適切な治療やケアを受けることで、進行を遅らせることができる可能性があります。本章では、認知症の疑いがあるときに取るべき具体的な行動について解説します。
まずは専門医を受診する
認知機能の低下を感じたら、早めに専門医を受診することが重要です。認知症の早期診断・早期治療は、症状の進行を遅らせ、適切な対応策を講じるために有効とされています。早期の段階で適切な診断を受けることで、薬物治療やリハビリ、生活習慣の見直しを始めることができ、患者さんの生活の質を向上させる可能性があります。
さらに、認知症はほかの病気が原因で一時的に認知機能が低下する場合もあるため、医師による適切な診断を受けることで、改善できるケースもあります。迷わずに受診し、専門的なアドバイスを受けることが重要です。
認知機能の衰えがみられたら認知症の予防策を実践する
症状が軽いうちから、運動や食生活の改善、社会的活動への参加など、認知症予防策を積極的に取り入れることが重要です。特に、適度な運動を継続することで血流が改善され、脳の健康を維持することができます。また、バランスの取れた食事を心がけることで、脳に必要な栄養を供給し、認知機能の低下を防ぐ効果が期待されます。
さらに、家族や友人との交流を増やし、コミュニティ活動に参加することで、精神的な刺激を受けることも大切です。こうした生活習慣の改善は、認知症の進行を遅らせ、よりよい生活の質を維持するために役立ちます。
家族や周囲の方に相談をする
認知症の兆候を感じたら、一人で悩まずに家族や周囲の方に相談しましょう。認知症は早期の段階で適切な支援を受けることで、生活の質を維持しやすくなります。家族や身近な方に相談することで、日常生活の中での変化に気づいてもらい、適切な対応策を考えることができます。
また、自治体や地域包括支援センターなどの公的機関を活用することで、専門的なアドバイスや介護サービスの情報を得ることができ、より安心して生活を続けることが可能になります。
まとめ
本記事では、認知症の種類や治療薬、そして予防のための生活習慣について詳しく解説しました。現時点では、認知症を完全に予防できる薬は存在しませんが、食生活の改善、適度な運動、社会的なつながりの維持、禁煙、飲酒の節度を守ることなどが、認知症の発症リスクを低減させる可能性があります。さらに、認知症の兆候を感じた際には、早めに専門医を受診し、適切な治療や支援を受けることが重要です。
認知症は早期発見・早期対応がカギとなる疾患です。自身や家族の健康を守るために、日々の生活習慣を見直し、予防策を実践していくことが大切です。