認知症の薬の飲み忘れを防止する方法を解説

認知症の薬の飲み忘れを防止する方法を解説

日本は超高齢社会を迎え、認知症の高齢者人口が年々増加しています。厚生労働省の推計では、2025年には約700万人が認知症になるとされています​。こうした状況で認知症患者さんの服薬管理はとても重要な課題です。薬は症状の進行抑制や合併症予防に欠かせませんが、認知症の方は薬を正しく飲み続けることが難しくなりがちです。本記事では、認知症患者さんに特有の服薬管理上の課題と、それを防止する具体策について解説します。

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認知症患者さんは薬を飲み忘れる?認知症における服薬の課題

認知症患者さんは服薬がうまくできない場合があります。本章では認知患者さんにおける服薬の課題について解説します。

薬の飲み忘れ

認知症の代表的な症状の一つに物忘れがあります。薬の服用も例外ではなく、飲み忘れは起こりやすい問題です。記憶障害による服薬ミスは、患者さん本人が悪気なく起こしてしまうものですが、その影響は深刻となることがあります。例えば、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の薬を飲み忘れれば血糖値や血圧のコントロールが乱れ、病状が悪化する恐れがあります。

薬の服用拒否

薬を飲みたがらない、拒否することも認知症患者さんにはよく見られます​。理由はさまざまですが、本人が薬を飲む必要性を理解できなくなっていることが大きいです​。認知症が進行すると、自分が病気であるという自覚が薄れたり、記憶が消えてなぜ薬を飲まなければいけないのかを忘れてしまいます。その結果、「これは苦いだけで身体に悪いものだ」「だまされているのではないか」といった不安や恐怖感から服薬を拒否することがあります。また、薬の味や形状が苦手で飲みづらく感じ、嫌がることもあります。これは、錠剤をうまく飲み込めない、喉につかえる感じがする、味や匂いが嫌いなど、剤形に起因する服薬ストレスがあることが原因として挙げられます。

薬を飲んだことを忘れて再度飲む

認知症の記憶障害は飲み忘れだけでなく、飲んだこと自体を忘れてしまうこともあります。服用した直後にその記憶が抜け落ちてしまい、「まだ薬を飲んでいないから飲まなきゃ」と思い込んでしまうのです​。その結果、短時間で二重に薬を服用してしまうリスクがあります。睡眠薬などの意識をぼうっとさせる薬であれば過剰服用により過度の眠気やふらつきが出て転倒事故につながったり、最悪の場合は呼吸抑制など重篤な副作用が起こる可能性もあります。認知症患者さん本人は良かれと思って服薬しているつもりでも、結果的に身体に大きな負担をかけてしまうのです。

認知症患者さんが薬の飲み忘れを防止する方法

認知症患者さんにさまざまな服薬トラブルがあることがわかっていただけたと思います。そこで、本章ではその薬の飲み忘れを防止する方法を解説します。

服薬ボックスやお薬カレンダーを導入する

服薬カレンダーなど、服薬管理をサポートする用具を活用するのも対策の一つです。日時ごとに服用薬を仕分けできるボックスや、一日分ずつポケットになったお薬カレンダーを使えば、何時にどの薬を飲むか一目でわかり、飲み忘れにもすぐ気付けるので有用です​。特に曜日や日付の感覚がまだしっかりしている段階の認知症の方には効果的で、該当時刻の薬の有無を目で確認できます​。こうしたツールの導入により、「うっかり飲み忘れてしまった」という事態を大幅に減らすことができます。

薬を一包化する

一包化とは、服用するタイミングごとに必要な複数の薬を一袋にまとめて包装することです。調剤時に薬剤師さんに依頼すれば対応してもらえる場合が多く、朝、昼、夕など1回分ずつが個包装になっていれば、患者さんはその都度袋を開けて飲むだけで済みます。一包化のメリットは、服薬管理の簡便さです。また、飲み忘れや重複服用の防止にもつながります。飲み残しがあれば袋が残るため一目瞭然ですし、一包化された袋には日時が印字されているので、いつの分を飲んだのかが確認しやすくなります。

薬を飲んだことを毎回確認する

認知症患者さんの場合、服薬を本人任せにせず、毎回しっかりと確認する体制を作ることが理想です。家族や介護者が近くにいるなら、声かけや付き添いによって飲み忘れを未然に防ぐことができます。また、服薬記録をつける習慣も取り入れましょう。そして、可能であれば服薬の都度、介護者が直接目で見て確認することが大事です。難しい場合でも、1日の終わりに残った薬がないか点検したり、週に一度まとめて薬の残数をチェックしたりするなど、定期的な確認を習慣づけましょう。

デイサービスやヘルパーサービスを利用する際に服用する

在宅介護の場合、介護サービスを上手に活用して服薬を支援してもらうことも有効です。デイサービスには看護師や介護福祉士が常駐しており、利用者の服薬介助も業務の一つとして行われています。また、訪問介護を利用している場合は、ヘルパーさんに来てもらう時間帯を工夫し、ちょうど薬を飲むタイミングで訪問してもらうようにするのも一つです。このように、介護サービスを利用するタイミングに合わせて服薬する習慣をつけることで、飲み忘れを防止しやすくなります。身近なサービスの力も借りながら、無理のない服薬管理体制を構築しましょう。

認知症患者さんが薬の服用を拒否する際の対策

認知症患者さんが薬の服用を忘れる場合もありますが、なかには服薬を拒否することがあります。本章では認知症患者さんが薬の服用を拒否する際に役立つ対策について解説します。

薬のすすめ方を工夫する

服薬拒否が見られる場合、薬の形状や飲ませ方を工夫してみることが有効です。まず検討したいのは剤形の変更です。現在は各種薬剤で高齢者や嚥下障害のある方向けの製剤が増えており、例えば以下のような選択肢があります。

  • 口腔内崩壊錠(OD錠)
  • 液剤・シロップ剤
  • 貼付剤

このように、患者さんにとって飲みやすい形を探ることは重要です。主治医や薬剤師に相談すれば、適切な剤形変更が可能か検討してくれるはずです​。

いつもの介護者以外の方に薬をすすめてもらう

認知症の方のなかには、介護している身近な家族には強く反発するのに、ほかの方から言われると素直に応じるということが少なくありません​。例えば、配偶者や子どもが「薬を飲んで」と言うと抵抗する方が、訪問看護師さんやヘルパーさんに「お薬の時間ですよ」と声をかけられるとすんなり飲む、といった具合です。家族だと遠慮がない分わがままが出たり甘えが出たりしますが、第三者には緊張感があるためきちんと対応する、という傾向です。そこで、いつもと違う方の力を借りるのも一つの方法です。

食べ物に薬を混ぜる

どうしても直接には薬を飲んでくれない場合、食べ物や飲み物に混ぜて服用させる方法もあります。しかし、薬によっては粉砕や開封が禁止されているもの(徐放剤など)があるため、事前に医師、薬剤師に相談してください。そのうえで可能な薬であれば、錠剤を粉末にするかカプセルを開封し、少量の食べ物に混ぜます。混ぜるものは患者さんが好んで食べる味の濃いものが適しており、ヨーグルト、ジャム、プリン、アイスクリーム、蜂蜜などに混ぜて食べてもらいます。

認知症患者さんが複数回薬を飲む場合の対処法

基本的な対策はこれまで述べた飲み忘れ防止策と似ています。「まだ飲んでないからもう一度飲もう」と思わせないためには、飲んだ事実を本人にも周囲にも確認できるようにすることが重要です。そのため、前述のカレンダーへのチェックや服薬ボックスの活用は過剰服薬防止にも有効です​。飲んだらすぐにチェックを入れる、空になったパックを見える場所に置くなどの工夫で、「もう飲んだんだな」という視覚的情報を残します​。

それでも重複が心配な場合、電子式の服薬管理デバイスの導入があります。近年、高齢者向けに開発された自動服薬支援機器がいくつか登場しており、決められた時間になると機械が薬を排出し音声で知らせてくれるものがあります。設定時間以外には薬を取り出せない仕組みになっており、過剰服薬防止に役立ちます。

このように利用できる道具は積極的に活用し、飲み忘れと飲みすぎ双方のリスク管理に努めましょう。

まとめ

物忘れ、判断力低下、意欲低下などさまざまな症状が影響し、普通なら当たり前にできる薬を飲むという行為が大きなハードルになってしまいます。しかし、適切に薬を飲み続けることは症状の進行を遅らせたり生活の質を維持するうえで不可欠です。飲み間違いや過剰服用による副作用や事故の危険も高まります。そうならないためにも、今回紹介したようなさまざまな工夫と道具の活用によって、認知症の方の服薬を支えていくことが大切です。

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