認知症は遺伝する?遺伝の検査方法や治療法を解説

認知症は遺伝する?遺伝の検査方法や治療法を解説

家族や親族に認知症の方がいた場合、自分にも遺伝しているかどうか気になるものです。

認知症は遺伝するのでしょうか。そしてもし遺伝していたときには、どの程度の割合で発症するのでしょうか。

以下で認知症と遺伝の関係や治療法を解説するとともに、認知症のリスクを下げる生活習慣を紹介します。

アルツハイマー病は遺伝しますか?
アルツハイマー病の一部は遺伝性であるといわれます。一般のアルツハイマー病は60歳以上に多く、ピークは70〜80歳代ですが、遺伝性のアルツハイマー病はより若い40〜50歳代に発症しやすい特徴をもっています。10,000組以上の65歳以上の双子を調査したところ、片方がアルツハイマー病を発症した場合もう片方も6割以上が同じ病気を発症したと報告されました。またアルツハイマー病の表現型の53%が遺伝によって説明されるとする研究結果もあり、遺伝性アルツハイマー病だけでなく老年性アルツハイマー病にも遺伝の影響があると推測されています。スウェーデンの研究ではアルツハイマー病の遺伝率は58〜79%と推定されました。
ほかの認知症で遺伝と因果関係があるものはありますか?
遺伝的背景が強い認知症として、前頭側頭型認知症があげられます。この認知症では患者さんの40〜50%が遺伝的背景を持つといわれ、脳のなかでも前の方の部分が変性・萎縮するために起こる病気です。多くは65歳以下の若年で発症し、頻度はアルツハイマー型認知症の3分の1程度です。前頭葉症状では人格が変わったり意欲が低下したりの症状が見られ、側頭葉症状では言語障害などがあらわれます。アルツハイマー型認知症と異なり、初期では記憶障害はあまり発生しません。
どのような遺伝子が関係していますか?
アポリポ蛋白E(ApoE)と呼ばれる遺伝子、なかでもε4タイプのApoE遺伝子を持っている方がアルツハイマー病になる危険度が高くなります。しかしε4を持っているからといって必ず発症するわけではなく、一方ε2を持っている方はアルツハイマー病になりにくいことがわかっています。一方家族性アルツハイマー病の原因遺伝子はアミロイド前駆体タンパク質(APP)・プレセニリン1(PSEN1)・プレセニリン2(PSEN2)と呼ばれる3つです。
認知症の遺伝の予防法はありますか?
認知症のリスク要因である加齢や遺伝などに対して、生活習慣の改善が有効であると報告されています。2017年には教育・高血圧・肥満・難聴・喫煙・うつ病・運動不足・社会的孤立・糖尿病の9項目のコントロールにより認知症の35%が予防や進行の抑制が可能と発表されました。さらに2020年の報告では、先の9項目に加え過度の飲酒・頭部外傷・大気汚染を修正できれば認知症の40%の予防・進行抑制に効果があるとしています。
認知症が遺伝すると必ず発症しますか?
アルツハイマー病の遺伝では、原因遺伝子リスク遺伝子を考える必要があります。原因遺伝子はAPP・PSEN1・PSEN2の3つの遺伝子でこれらに遺伝子変異があると極めて高確率でアルツハイマー病を発症します。しかしこのタイプの遺伝子変異をもっている方はアルツハイマー病全体の患者数の1%にあたり、大変稀なケースです。ほとんどのアルツハイマー病患者さんからはこれらの原因遺伝子の変異は見つかっていません。もうひとつのリスク遺伝子は、遺伝子変異とは異なりすぐに病気につながるものではありません。影響が大きいリスク遺伝子はAPOEで、ヒトは1種類の遺伝子につき両親から1つずつ受け継ぐため、人によってAPOEのε3とε4を1つずつ持っていたりε2を2つ持っていたりします。アルツハイマー病に関する研究ではε3を2つ持っている方に対しε4を1つ持っている方の発症リスクは3〜4倍高くなり、2つともε4だとリスクは10倍程度になると報告されています。しかしリスクが高くても必ずしもアルツハイマー病を発症するわけではありません

認知症の遺伝の検査方法と治療法

介護者の男性
認知症の遺伝に関する検査にはどのようなものがありますか?
患者さんから5ml程採血し、DNAを抽出した後APOE遺伝子型を調べて認知症発症のリスクを測定します。発症前の診査では健康保険適用外の自費診療です。検査結果が出るまでには2〜3週間かかります。
遺伝子検査で陽性判定が出た場合、患者さんに心理的負担が生じる可能性があるため、診療科やソーシャルワーカーなどと連携が必要です。発症前の場合は健康維持や生活面での指導・不安を軽減するアドバイスなどのきめ細かいフォローが望まれます。
認知症の遺伝が判明した場合の治療法を教えてください。
原因遺伝子であるAPP・PSEN1・PSEN2に遺伝子異常が見られる場合は、生活習慣の影響は少なく、一定の年齢になると高い確率で発症します。しかしリスク遺伝子であるApoEのε4を保持している方では必ずしも発症するとは限らず、生活習慣の改善により発症のリスクを抑えられます。葉酸、ビタミンDなどビタミン類の摂取・魚や野菜を食べる・飲酒は少量ならばよいが大量飲酒は避ける・禁煙・運動・社会参加などを心がけることが、認知症発症を抑制する習慣です。薬に関してはプロモクリプチンが家族性アルツハイマー病に効果があり副作用も認められないとする研究結果がありますが、この薬は日本および世界各国でアルツハイマー病の薬とは承認されておらず、現時点では治療薬として使用はできません。

認知症発症を防ぐための方法

歩く
認知症発症の予防法はありますか?
日本における認知症予防は、認知症の発症を完全に防ぐことよりも発症を遅らせたり、進行を抑えたりすることを目的としています。アルツハイマー型認知症や血管性認知症は、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病と関連をもっています。
そのためバランスのよい食生活や定期的な運動習慣など、生活習慣病を招かない生活管理が、認知症発症の予防に役立つでしょう。また難聴・喫煙・うつ・活動低下・社会的孤立も認知症発症の要因となります。難聴の方は補聴器を使う・喫煙者はなるべく早く禁煙する・定期的に運動する・人と交流するなどを組み合わせての実施が認知症発症の危険性を低減します。
認知症のリスクを高める体質や生活習慣はありますか?
メタボリック症候群(高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満)の方は脳血管性認知症になりやすいと判明しています。高血圧・糖尿病・脂質異常症には優れた治療薬があるため、これらの疾患は早めに治療して認知症のリスクを減らすよう心がけてください。家に閉じこもり、昼間からテレビの前でうとうとしているような生活態度は認知症を招きます。外に出ることを嫌がる高齢者の方も見られますが、できる限り地域の社会活動に参加したりデイサービスを利用したりして人と話すことが大切です。
認知症を防ぐためにはどのような生活をするべきですか?
定期的な運動習慣が認知症の予防や発症した認知症の進行抑制に有効だと証明されています。週3回、30〜50分の散歩が大変効果的で推奨されています。ただし身体を動かす前には心臓や呼吸器・関節に無理がないかを確認してください。不安がある方は、医師やインストラクターの指導のもとで身体を動かすようにしましょう。また、積極的に社会参加をする・旅行・編み物・コンサート・会食など、精神活動が活発な程認知症の発症率が低いと示されています。

編集部まとめ

笑顔

認知症の遺伝には、原因遺伝子とリスク遺伝子があり、原因遺伝子では認知症発症率は高いもののそれらの遺伝子を持つ方は少数であることがわかりました。またリスク遺伝子を持っている方も、必ずしも認知症を発症するとは限りません

遺伝的要因を持つ持たないに関わらず、認知症の発症を予防するには、活動的な生活態度が有効です。バランスの取れた食事を取り、積極的に社会と関わり、精神活動を活発にするなどが望ましいでしょう。

メタボリック症候群は認知症のリスクを高めるため、早めの治療をおすすめします。また、定期的な運動習慣を持つことは認知症の発症・進行予防に大変効果的です。無理のない範囲で散歩などを継続する習慣をぜひ身につけてください。

参考文献

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