認知症は進行の段階によって適切な医療や介護サービスが異なることがあります。それら医療や介護サービスをまとめたものが、認知症ケアパスです。本記事では、そんな認知症ケアパスについて、また、入手方法について解説しています。
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認知症ケアパスとは?
認知症ケアパスとは、認知症の進行段階に応じて適切な医療や介護サービスを示したガイドラインです。厚生労働省が推進する「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」に基づき、自治体ごとに作成されています。本人や家族が適切な支援を受けられるように、認知症の進行段階ごとに必要な対応や利用可能な支援制度が明記されています。
認知症ケアパスの概要
認知症ケアパスは、認知症の疑いがある段階から、軽度認知障害(MCI)、中等度の認知症、重度の認知症、終末期までの流れを示しています。これにより、本人や家族がどのタイミングでどのような医療・介護サービスを利用できるかを理解しやすくなります。
具体的には、以下のような情報が含まれています。
- 認知症の診断や治療が受けられる医療機関
- 地域包括支援センターや介護保険サービスの利用方法
- 介護者の負担軽減のための支援策(家族会、レスパイトケアなど)
- 認知症が進行した際の生活支援や施設利用の選択肢
このように、認知症ケアパスは、認知症の進行に応じた支援を明確にすることで、本人や家族が適切なサービスを受けやすくする役割を果たしています。
認知症ケアパスが作られた経緯
日本における認知症の高齢者数は年々増加しており、2025年には約700万人(65歳以上の5人に1人)が認知症になると推計されています。これに対応するため、厚生労働省は「新オレンジプラン」を策定し、認知症施策の充実を図っています。その中で、各自治体が地域の実情に即した認知症ケアパスを作成し、地域包括ケアシステムの一環として提供することが求められました。
特に、認知症の進行に伴う支援の「途切れ」を防ぐことが課題とされており、本人や家族がどのように支援を受けられるのかを明確に示す必要がありました。また、認知症を疑われた方や初期の認知症を拾い上げ、ケアへつなげることも重要とされています。認知症ケアパスは、地域ごとに異なる医療・介護資源を整理し、適切な支援につなげることを目的に作成されています。
認知症ケアパスでわかること
認知症ケアパスを活用することで、以下の点を確認できます。
- 認知症の進行段階と適切な対応
認知症が軽度の段階では在宅での生活支援が中心ですが、中等度以上になると介護保険サービスや施設入所の選択肢が増えます。 - 地域の支援制度や相談窓口
地域包括支援センター、認知症初期集中支援チーム、医療機関の役割が整理され、必要な支援を受けやすくなります。 - 家族へのサポート
認知症の進行によって介護者の負担が増大するため、家族会やレスパイトケア(短期入所など)の活用方法が示されています。
このように、認知症ケアパスは、認知症の方とその家族が適切なサービスを受けながら、できる限り住み慣れた環境で生活できるようにするための重要なツールです。自治体によって内容は異なるため、各市町村の窓口やホームページで自分の地域の認知症ケアパスを確認することが推奨されます。
認知症ケアパスに登場する施設やサービスを解説
認知症ケアパスでは、認知症の進行に応じた適切な支援を受けるために、さまざまな施設やサービスが登場します。ここでは、認知症の方や家族をサポートする主な機関やサービスについて解説します。
利用可能な相談・交流サービス
認知症ケアパスに掲載されている、認知症についての相談やコミュニケーションが可能なサービスは下記の通りです。
地域包括支援センター
地域包括支援センターは、市区町村が設置し、高齢者の生活を総合的に支援するための相談窓口です。介護や医療、福祉に関する情報提供やアドバイスを行い、認知症の早期発見・対応を支援します。特に、認知症初期集中支援チームと連携し、認知症の疑いがある方に適切なサポートを提供する役割を担っています。認知症に関する相談は無料でできるため、家族や本人が困ったときの最初の相談先として活用されます。
ケアマネジャー
ケアマネジャー(介護支援専門員)は、要介護認定を受けた高齢者が適切な介護サービスを利用できるように支援する専門職です。認知症の進行に応じて必要なサービスを組み合わせ、ケアプランを作成し、本人や家族が安心して生活できるようサポートします。ケアマネジャーは、地域包括支援センターや介護事業所に所属しており、認知症の進行に伴う生活の変化に合わせた支援を提供します。
チームオレンジ
チームオレンジは、認知症の方が住み慣れた地域で安心して暮らせるように、地域住民や専門職が協力して支援する取り組みです。地域ごとに組織され、認知症の方やその家族に対して、見守り活動や日常生活の支援を行います。認知症サポーターが中心となり、地域全体で認知症の方を支える体制を整えることを目的としています。
認知症カフェ
認知症カフェは、認知症の方やその家族、地域の人々が気軽に集まり、交流できる場です。カフェ形式で開催されることが多く、専門職(医師・看護師・ケアマネジャーなど)が参加し、認知症に関する情報提供や相談対応も行われます。孤立しがちな認知症の方やその家族が、リラックスしながら支援を受けられる場として活用されています。
利用可能な介護施設やサービス
認知症ケアパスに掲載されている介護施設や介護サービスは下記の通りです。日帰りで利用できる施設や、短期的に宿泊する施設、長期間入所できる施設があります。それぞれの施設には異なる役割があり、利用する目的や入所条件も異なります。本人の身体状況や認知症の進行度、家族の介護負担などを考慮しながら、適切な施設を選択することになります。
デイサービス
デイサービス(通所介護)は、自宅で生活する認知症の方が日中に施設へ通い、食事や入浴、機能訓練、レクリエーションなどのサービスを受ける介護支援です。利用者の身体機能の維持・向上を目的としながら、家族の介護負担を軽減する役割も果たします。特に認知症対応型デイサービスでは、認知症の方に適したプログラムが提供され、症状の進行を遅らせる効果が期待されます。
ショートステイ
ショートステイ(短期入所生活介護)は、認知症の方が数日から数週間、介護施設に宿泊し、食事や入浴、排泄の介助を受けるサービスです。介護者が仕事や旅行、体調不良などで一時的に介護が困難な場合に利用されます。介護者の負担軽減だけでなく、認知症の方にとっては新しい環境が刺激になることもあります。
老健施設・特養・グループホーム
認知症の進行に伴い、自宅での生活が難しくなると、介護施設への入所が選択肢として考えられます。介護施設にはさまざまな種類があり、目的や提供されるサービスが異なります。そのため、本人の状態や家庭環境に合わせて適切な施設を選ぶことが重要です。
介護老人保健施設(老健)
介護老人保健施設(老健)は、主にリハビリテーションを目的とした施設であり、医師や看護師、理学療法士、作業療法士などの専門職がチームを組んで支援を行います。老健は、病院での治療が終わった後、すぐに自宅に戻ることが難しい方が一時的に利用することが多く、入所期間は短期間に設定されています。
入所者には、日常生活の介助が提供されるほか、身体機能や認知機能の維持を目的としたリハビリが実施され、最終的には自宅復帰を目指すことになります。
特別養護老人ホーム(特養)
特別養護老人ホーム(特養)は、長期的な介護が必要な高齢者が入所する施設であり、介護が困難な要介護度の高い方が対象となります。特養では、24時間体制で介護職員が常駐し、食事や入浴、排泄の介助をはじめとする日常生活全般の支援を行います。
また、看護師による健康管理も行われますが、医療機関ではないため、医療的な処置が頻繁に必要な方には適していません。
グループホーム
グループホームは、認知症の方が少人数で共同生活を送りながらケアを受ける施設であり、家庭的な雰囲気の中で生活できるのが特徴です。職員が日常生活のサポートを行いながら、入所者同士の交流を促し、認知機能の維持を目指します。
認知症の方が安心して生活できる環境を整えるため、施設内の設備やスタッフの対応が工夫されており、特に初期から中等度の認知症の方に適した環境となっています。ただし、医療的な処置が必要な場合には十分な対応ができないことがあるため、状態を考慮しながら施設を選ぶことが大切です。
認知症疾患医療センター
認知症疾患医療センターは、認知症の専門的な診断や治療を行う医療機関です。主に脳神経内科や精神科を中心とした専門医が在籍し、早期診断や薬物療法、家族への支援を提供します。また、地域の医療機関や介護施設と連携し、認知症の方が適切なケアを受けられるように調整を行います。認知症の診断や治療方針の決定に重要な役割を果たしており、認知症の症状が疑われる場合には、かかりつけ医から紹介されることが一般的です。
認知症ケアパスにはさまざまな施設やサービスが含まれ、認知症の方がその時々の状態に応じた適切な支援を受けられるようになっています。自治体ごとに利用できる施設が異なるため、地域包括支援センターなどに相談しながら、必要な支援を受けることが大切です。
認知症ケアパスの入手場所
認知症ケアパスは、自治体が作成し提供しているため、各市区町村の窓口や公式ウェブサイトで入手できます。地域包括支援センターや認知症疾患医療センター、かかりつけ医のクリニックでも配布されている場合があり、必要に応じて医療・介護の専門職が説明を行います。自治体によっては、冊子だけでなく、PDF形式でのダウンロードが可能な場合もあります。
また、地域の高齢者向け講習会や認知症カフェなどでも配布されることがあり、直接専門家の話を聞きながら活用方法を学ぶ機会となることもあります。認知症が疑われる場合や診断を受けた際には、できるだけ早めに認知症ケアパスを入手し、支援の流れを把握しておくことが大切です。
認知症ケアパスの活用方法
認知症ケアパスは、本人や家族、支援者が適切なサービスを受けるためのガイドとして活用できます。進行段階ごとにどのような医療や介護が必要か、どの施設やサービスを利用できるのかが分かるため、状況に応じた適切な行動を取ることが可能になります。
患者さん本人の活用方法
認知症と診断された本人が、どのような支援が受けられるのかを理解し、安心して生活を続けるために活用できます。認知症の進行に伴う変化に備え、あらかじめ受診する医療機関や相談窓口を確認し、必要な支援を受けられるようにすることが重要です。
また、本人が活用することで、認知症への不安を軽減し、適切な生活環境の整備につなげることができます。例えば、デイサービスやショートステイの利用を検討する際に、どのタイミングでどの施設を利用できるのかを把握することができます。
ご家族や友人・知人の活用方法
認知症の進行に伴い、家族や周囲の方の支援が必要になります。認知症ケアパスを活用することで、介護の負担を軽減しながら適切な支援を受けられるようになります。
特に、家族は認知症の進行に応じてどのようなサービスを利用すればよいのかを把握し、早めに準備を進めることができます。また、介護保険サービスの申請や利用可能な支援制度を確認し、無理のない介護環境を整えるための指針として活用できます。
友人や知人も、認知症ケアパスの情報をもとに、どのように接したらよいかを学び、適切なサポートを提供することができます。地域での支援ネットワークを活用し、本人の生活を支えるための協力体制を整えることが重要です。
まとめ
認知症ケアパスは、認知症の進行段階ごとに受けられる医療や介護サービスを示したガイドラインであり、本人や家族、支援者が適切な支援を受けるために役立ちます。自治体の窓口や地域包括支援センター、医療機関で入手でき、必要な情報を事前に把握しておくことで、認知症の進行に応じた適切な対応が可能になります。
患者さん本人は、今後の生活を安心して続けるためにケアパスを活用し、家族や支援者は介護負担の軽減や適切なサービスの利用に役立てることができます。認知症に関する不安を少しでも軽減し、適切な支援を受けるために、早めに認知症ケアパスを入手し、活用することが大切です。