「認知症の患者さんには悪い食べ物を食べて欲しくない」と考えるご家族は少なくありません。また、「将来の認知症リスクを低減させるために、悪い食べ物を知っておきたい」と考える方もいらっしゃるでしょう。
そこで今回は、認知症にとって悪い食べ物や食事の注意点、認知症の患者さんに積極的に摂ってほしい食事について解説します。
認知症の患者さんにとって「悪い食べ物」とは?

食事は生命を維持するために不可欠な行為であり、豊かな生活を彩る大切な活動でもあります。
認知症になると、これまでのような食事が難しくなることがあります。その結果、食欲が低下したり、体重減少や低栄養に陥る危険があることが知られています。
ここでは、認知症に「悪い」関連があるとされる食材について解説し、どのような点に気をつければよいのかを具体的に紹介します。
- 認知症の患者さんに悪い影響を及ぼす可能性がある食べ物や食材を教えてください。
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満はいずれも認知症のリスクを高めることがわかっています。これらを防ぐためには、過剰な塩分や糖分の摂取を避け、適切な摂取カロリーを心がけることが大切です。カロリーの必要量は、年齢や性別、個々の活動レベルによって異なるため、自分に合ったカロリー量を把握するようにしましょう。
また、肉の脂身やマーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸を過剰に摂取すると、LDLコレステロールが増加し、動脈硬化の原因となります。動脈硬化は脳梗塞を引き起こし、結果的に認知症のリスクを高める恐れがあるため、ファーストフードや市販の菓子パンなどは適量を心がけましょう。
さらに、大量の飲酒も認知症のリスクを高めることが知られています。特に、1日にビール350mL缶4本以上の飲酒はリスクが高くなるので注意が必要です。
- 認知症の患者さんに推奨されない調理法はありますか?
- 認知症の方は注意力の低下や嚥下障害がみられることがあるため、食事を提供する際には食形態や温度に注意が必要です。
硬すぎるものや大きすぎるものは、十分に咀嚼できずにそのまま飲み込んでしまう危険があり、誤嚥や窒息のリスクがあります。また、餅やこんにゃくゼリーなどの弾性が強く噛み切りにくいものも窒息の危険が高いため注意が必要です。
さらに、やけどを防ぐために熱いお茶やコーヒー、スープ、鉄板料理などを提供する際は温度を確認しましょう。
認知症の患者さんに積極的に摂ってほしい食事

認知症の患者さんが注意すべき食材を理解した上で、次に本章では、積極的に摂りたい食材、具体的なメニューについて紹介します。
- 認知症の患者さんにはどのような食材を用意するとよいですか?
- 栄養バランスを考えた食事が大切です。不足しやすいタンパク質(魚、豆類、乳製品など)、食物繊維(海藻類、きのこ類、いも類など)、ビタミン類(B群、C、E)(緑黄色野菜、果物など)を積極的に取り入れましょう。
また、脱水になりやすいため、水分補給をこまめに行うことが重要です。スープや果物を取り入れると、自然に水分を補給できます。
さらに、認知機能が低下すると、好きな献立を食べたり、食事を楽しむことが難しくなる場合があります。そのため、本人の好物を取り入れたり、外食やテイクアウトを利用してリフレッシュしてもらうのも効果的です。
- 認知症の患者さんにおすすめのメニューを教えてください。
- 魚や豆類、野菜やきのこをうまく組み合わせて、バランスよく多彩な食材を使ったメニューがおすすめです。主菜にはアジのソテー焼き野菜添えやサバ缶のトマト煮が手軽に栄養を摂れる一品です。副菜はにんじんとほうれん草のナムルなど、野菜を活用したメニューを取り入れましょう。
間食としては、さつまいもや牛乳を使ったきんとんやきなこミルクも栄養補給に適しています。
認知症予防に効果的な食事のポイント

認知症を完全に食事だけで予防することは難しいですが、予防効果が期待されている食材はいくつか報告されています。本章では、認知症予防が期待される食事内容と、逆に悪影響を及ぼす恐れのある食事についてご紹介します。
- 認知症予防に効果があるとされている食事はどのようなものですか?
- バランスのとれた食事を心がけることで、認知症のリスクを高める生活習慣病を予防することが大切です。
また、近年、認知症の予防効果が期待される栄養素がいくつか報告されています。現時点で確立された予防効果があるわけではありませんが、以下の栄養素が注目されています。
・魚(青魚):さんま、あじ、いわし、さばなどの青魚にはオメガ3脂肪酸であるDHAやEPAが豊富に含まれています。これらはアルツハイマー病や生活習慣病の予防効果が期待されています。
・葉酸を多く含む食品(緑黄色野菜、豆類、果実類):ほうれん草、小松菜、納豆、枝豆、いちご、キウイ、オレンジなどに多く含まれる葉酸には、ホモシステインという物質を減らす働きがあり、動脈硬化や認知症への予防効果が期待されています。
・赤ワイン:赤ワインに含まれるポリフェノールは抗酸化作用をもち、動脈硬化や高血圧、認知症への予防効果が期待されています。
・コーヒー:コーヒーに含まれるクロロゲン酸はポリフェノールの一種で、抗酸化作用を持ちます。
・緑茶:新茶に多く含まれるテアニンには血圧上昇の抑制や、脳の神経細胞を保護する働きがあるといわれています。
・エキストラヴァージンオリーブオイル:不飽和脂肪酸を多く含み、抗酸化作用があります。マウスの研究ではアルツハイマー病予防の可能性が報告されています。
これらの食材を多く含む食事法として、地中海食や日本食が注目されています。
- 認知症予防に悪影響を及ぼす食事や食材を教えてください。
- 認知症予防の観点では、偏った食生活や過剰な摂取に注意が必要です。過剰な塩分や脂肪の摂取、トランス脂肪酸を多く含む食品は、生活習慣病の原因となり、結果的に認知症のリスクを高める恐れがあります。塩分は6g/日未満が目標です。また、アルコールの過剰摂取も認知症のリスクを高めるため、飲酒は適量を守りましょう。
食材や食べ物以外で食事中に気を付けるポイント

認知症では食行動の変化や食欲低下、嚥下障害、自律神経障害などが原因で、これまでのような食生活が難しくなることがあります。本章では、認知症の方が食事をする際に注意すべきポイントと、食事を拒否されたときの家族の対応について解説します。
- 認知症の方と食事をするにあたって、どのような点に注意すべきですか?
- 認知症の方は、摂食行動障害として食事中に席を立つ、手で食べるなどの行動がみられることがあります。多少手を使って手を食べる場合でも、本人が快適に食事をしている場合は、無理に抑止しないほうがよいこともあります。
また、異食行動(ティッシュや消しゴムなど、食べ物ではないものを口にする行為)がみられることがあります。これは、食べ物だと誤認している場合も多いので、紛らわしいものは本人の近くに置かないことが大切です。
- 認知症の方が、家族が用意した食事を食べようとしないときはどうすればよいですか?
- 食事を食べたくないと感じる理由がないか、確認しましょう。以下のような原因が、食事拒否につながる場合があります。ほかにも、本人の気持ちや好みが影響していることもあります。まずは本人の話を聞くことも大切です。
本人を責めたり怒ったりすることは、意欲減退や拒否の悪化につながることがあるため、避けましょう。
【体調が悪い】
認知症の方は高齢者が多く、ほかの持病がある方も少なくありません。発熱や身体の痛み、吐き気などがないか確認してください。服用している薬剤の変更や、内科的な疾患が背景にあることがあります。体調がおかしいと感じたら、医療機関を受診するようにしてください。
【食べにくい】
認知症では嚥下障害(飲み込みにくさ)がみられることが多く、水やお茶などの飲料でむせることがあります。誤嚥のリスクもあるので、症状に応じてとろみ粉を併用したり、食べやすい形状に調整してください。また義歯を使用している場合は義歯に問題がないか、定期的に歯科医師などに見てもらうことも大切です。
【便秘】
便秘は食事摂取量に大きく影響します。排便習慣を確認し、必要に応じて主治医に相談したり、ドラッグストアで購入できる便秘に効果のあるお茶や、腹部マッサージを活用することを検討して下さい。
【環境、人間関係】
テレビの音や周囲の方などで気が散る、椅子や食器が合っていない、対人関係のストレスや、気持ちの落ち込みが原因となることがあります。不安は受け止め、解決可能な環境は調整するようにしましょう。
まとめ

認知症と食事は密接に関係しています。認知症に配慮した食事を理解し、日常生活に取り入れることは、認知症患者さんとその家族が安心して、より豊かに生活するために大切なポイントです。