認知症の方と関わる際には、今までどおりのコミュニケーションが取れなくなったり、問題行動を起こしたりと、ご家族であってもどう接してよいか悩むことも少なくありません。認知症を患う本人のためにも、できるだけ安心してもらえる接し方をしたいものです。認知症の方と関わるときには、どのような対応を心がけるとよいのでしょうか。関わる際のNG行為、症状別の対応方法と合わせて、認知症の方との関わり方のポイントを解説します。
認知症の方との関わり方
認知症になると、もの忘れやできないことが増えるなどの症状が現れ、本人としても大きな不安を抱えることになります。認知症の方に安心感を与えてあげられるような接し方のポイントを解説します。
- 認知症の方との接し方のポイントを教えてください。
- 認知症になると、自宅にいても部屋がわからなくなったり、知らない人が家にいると思い込んだり、多くの不安のなかで生活するような感覚になります。認知症の方に対しては、本人の不安を受け止めて寄り添うように接するのが基本です。間違ったことをいっていたとしても、本人にとってはすべて事実です。頭ごなしに叱ったり反論したりしてしまうと、自尊心を傷つけてしまい、信頼関係が崩れかねません。本人の話を否定せずに、真剣に聞いてあげることが大切です。
- 認知症の方とのコミュニケーションで心がけることはありますか?
- 認知症の方とのコミュニケーションの基本は、ゆっくりと大きな声で話すこと、シンプルに伝えること、目を見て話すことです。高齢になると聴力が衰えることも少なくありませんし、話す内容が難しすぎて反応できないこともあります。しっかりと聞き取れるように大きな声で、できるだけ短い言葉で伝えましょう。また、相手の目線の高さに合わせて話しかけると、安心感を与えることができます。何度も聞き返されたときは、同じ言葉で伝えてあげてください。
認知症の方と関わる際のNG行為
認知症の方とのコミュニケーションにおいては、やってはいけないことやいってはいけない言葉があります。相手のためを思っての行動であっても、認知症の方に悪い影響を与えてしまいかねません。認知症の方と関わる際のNG行為について解説します。
- 認知症の方へやってはいけないことを教えてください。
- 認知症の方に対して、否定したり威圧的に接したりなど、ストレスを与える行動はNGです。問題行動を起こしたとしても、否定する、叱責する、急かす、突き放したり強制したりする、無視や放置をするといった対応をすれば、認知症の方は不安や孤独感を増幅させ、自尊心や信頼関係も失われてしまいます。また、励ましすぎる、できることを取りあげてしまう、家に閉じ込めてしまうのはよくありません。よかれと思って行ったとしても、本人がプレッシャーを感じる、達成感を奪ってしまうなど、自信を喪失してしまう可能性があります。本人の自尊心を尊重した態度を心がけましょう。
- 認知症の方へいってはいけない言葉を教えてください。
- 認知症の方へは、否定する言葉や現実を突きつけるような言葉、プレッシャーを与える言葉は言わないようにしましょう。事実と違うことをいった際に、「それは違うよ」、「そんなこといわないで」、「どうしてそんなことをするの」といった、本人の話を否定するような言葉はNGです。つじつまの合わない話であっても、認知症の方本人にとってはすべて事実であるため、否定されると戸惑いや怒りを感じてしまいます。事実ではなくても、本人の話に合わせてあげることが大切です。また、「早くしてよ」、「もう知らないからね」など、急かしたり突き放したりする言葉もよくありません。時間がかかっても急かさないこと、思い通りに行動してくれなくても寄り添う姿勢を心がけるようにしましょう。
- 間違った関わり方をしているとどうなりますか?
- 認知症の方に対して、話を否定する、頭ごなしに叱る、無視する、役割を取りあげるといった間違った関わり方をしていると、本人のなかでは不安や怒りといった負の感情が溜まっていきます。これにより、周辺症状が発症したり悪化したりする可能性があります。認知症は、認知機能が低下しても感情や自尊心は長く保たれるものです。認知症の方はたくさんの不安のなかにいることを理解し、安心して楽しく生活を送れるようにサポートしてあげることが大切です。
認知症による症状別の対応方法
認知症では記憶障害のほかにも、さまざまな周辺症状が現れます。特に対応に困ることが少なくない症状について、それぞれの対応方法をご紹介します。
- 被害妄想や暴言にはどう対応すればよいでしょうか?
- 認知症の方の被害妄想は、話を聞いて欲しい、共感してほしいという気持ちの表れであり、内容自体に意味がないことも少なくありません。話の内容は否定せずに、本人の主張を真剣に聞いてあげてください。もの盗られ妄想では、否定してしまうとかえって疑いが増すこともあります。話を合わせて一緒に探し、本人の手で発見できるように誘導してあげるとよいでしょう。
暴言が出る理由はさまざまですが、自分の考えを理解してもらえないことで感情が爆発してしまうこともあります。ひどい言葉を投げかけられるのはつらいものですが、力ずくで抑えつけたりいい返したりすると、ますます激昂することもあるでしょう。まずは相手を落ち着かせるように対応しましょう。少し距離を取って冷静になるのを待つのもポイントです。暴言や暴力症状がひどい場合は、無理せずに医師やケアマネジャーに相談しましょう。
- 徘徊や行方不明の際にすべき対応について教えてください。
- 探し回ったり警察のお世話になったりと、家族にとっては徘徊や行方不明は大きな負担になります。外出させないために、靴を隠したり部屋に閉じ込めたりする方もいますが、過度な行動制限は逆効果です。家族が24時間見張っていることも困難ですので、徘徊対策として環境を整えるようにしましょう。名前や連絡先を書いたタグ、GPSを付ける、玄関の鍵やドアにセンサーを取り付けるなどがおすすめです。また、近隣の方や地元の交番に事情を話して、見かけた際には連絡をお願いするなど、周囲の人に協力してもらうことも検討しましょう。
- 異食や食事の手づかみへの対応方法を教えてください。
- 食べ物ではないものを食べてしまう異食は、窒息や中毒の危険があります。食べ物と間違えそうなものを本人のそばに置かない、おやつなどで空腹感を抑える、食べる状況とそれ以外をはっきり区別するなど、異食が起きないように環境を整えてあげましょう。
手づかみしてしまうのは、箸が使えなかったり、食べ物が認識できなかったりする認知症の症状によるものです。箸を持ってから配膳する、スプーンを使う、食事に集中できる環境をつくるなど、工夫して対応しましょう。
- 失禁や弄便への対処法を教えてください。
- 失禁は本人にとってもショックの大きいなでき事です。追い打ちをかけるように叱責することは、自尊心を大きく傷つけることになるためやってはいけません。定期的にトイレに行くように声かけをする、トイレの場所がわかりやすいように貼り紙を付けるなど、トイレの失敗を防ぐための工夫を施すとよいでしょう。
弄便はおむつを使用している場合に起きやすい症状です。自分で後始末をしようとしたり、おむつのなかの不快感を取り除こうとしたりと、弄便をしてしまうには本人なりの理由があります。介護する家族の負担も大きくなりますが、行為自体は叱らないことが大切です。また、本人の体を拘束するのもNGです。弄便の対処法としては、汚れを防ぐための防水シートを使う、排便リズムに合わせたおむつ交換をするなど、影響できる限り留める工夫が必要です。特に排せつのケアは家族が精神的に負担を感じることも少なくありません。介護サービスに頼ることもひとつの手と考え、ひとりで抱え込まないようにすることが大切です。
編集部まとめ
事実ではないことをいう、被害妄想、徘徊、弄便などの問題行動は、すべて認知症の症状によるものです。こうした認知症の方の行動に対して、叱ったり否定したりするのはNG行為です。不安やストレスからかえって症状が悪化する可能性もあります。認知症の方との関わり方の基本は、否定せずに寄り添うことです。本人の話に耳を傾け、事実とは違っていても受け止めて対応することが大切です。本人が常に不安のなかにいることを理解し、穏やかな態度で接しましょう。