アルコール性認知症とは?症状や治療法、アルコールと認知機能の関係を解説

アルコール性認知症とは?症状や治療法、アルコールと認知機能の関係を解説

アルコールが適量であれば問題になることはほとんどありません。しかし、大量に飲んだり、毎日飲んだりしていると、さまざまな健康被害が生じます。ときに、脳にも影響します。本記事ではアルコールが原因で発症するアルコール性認知症について分かりやすく解説します。

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アルコール性認知症とは

アルコール性認知症とは、長期間にわたり大量のアルコールを摂取し続けることで脳の機能が低下し、記憶力や判断力、思考能力などに障害が生じる認知症の一種です。アルコールによって引き起こされる脳の萎縮や脳血管障害、後述するウェルニッケーコルサコフ症候群などを含んだ広い概念です。特に、アルコールの過剰摂取は脳の萎縮を引き起こし、記憶を司る海馬や前頭葉にダメージを与えることがあります。

アルコール性認知症の特徴と症状

アルコール性認知症の主な症状は、記憶障害や認知機能の低下に加えて、以下のような特徴や症状がみられます。

  • 記憶障害:特に新しい出来事を覚えることが難しくなる。
  • 判断力の低下:適切な意思決定ができなくなる。
  • 社会的行動の変化:怒りっぽくなったり、無関心になったりする。
  • 注意力の低下:集中力が続かなくなり、話の内容を理解しにくくなる。
  • 身体的な症状:歩行困難やふらつきが増えることもある。

このようにアルコール性認知症では、記憶や認知機能の低下などに加えて、身体的な症状が出ることもあります。

アルコール性認知症とウェルニッケ・コルサコフ症候群

ウェルニッケ・コルサコフ症候群は、長期間のビタミンB1(チアミン)欠乏によって発症し、急性のウェルニッケ脳症とその後遺症であるコルサコフ症候群を合わせた疾患です。特に長期のアルコール依存症患者さんに多く見られ、そのほかにも悪性腫瘍や消化管手術後などに見られることがあります。

ウェルニッケ脳症は急性に発症し、意識障害、眼球運動障害、歩行障害が主な症状として現れます。特に多い症状は意識障害です。患者さんは混乱しやすく、集中力や判断力が低下し、適切な意思決定が難しくなります。さらに、眼球の動きが不規則になり、視覚異常を引き起こすことがあります。小脳の障害によりバランス感覚が乱れ、歩行が不安定になり転倒のリスクが高まることもあります。このウェルニッケ脳症が治療されずに放置されると、コルサコフ症候群へと進行する可能性が高まります。

コルサコフ症候群では、新しい情報を記憶する能力が極端に低下します。一方で、過去の記憶は保たれるため、昔の出来事については話すことができますが、最近のことは何度聞いても覚えるのが難しくなります。さらに、作話と言って、あることないことの作り話をする症状が出現します。本人の自覚はなく、流暢に話すため、作話かどうか判断ができないこともあります。また、判断力の低下や無関心、無気力などの精神的な変化が起こり、日常生活に大きな支障をきたします。

アルコール性認知症になりやすい人

アルコール性認知症は、長期間にわたる大量のアルコール摂取によって発症するため、特定の生活習慣や健康状態を持つ方にリスクが高くなります。特に、日常的に多量のアルコールを摂取している方は、脳の萎縮が進みやすく、記憶障害や認知機能の低下が生じる可能性が高まります。アルコール依存症と診断されている方や、飲酒のコントロールが難しくなっている方は、特に注意が必要です。

また、栄養状態が悪い方も発症しやすい傾向があります。アルコールを過剰に摂取すると、食事の量が減少し、特にビタミンB1(チアミン)の不足が顕著になります。ビタミンB1は脳のエネルギー代謝に不可欠な栄養素であり、不足すると神経細胞が正常に機能しなくなるため、ウェルニッケ・コルサコフ症候群などの重篤な状態を引き起こすことがあります。

さらに、長年にわたり飲酒を続けている高齢者も、アルコール性認知症のリスクが高くなります。加齢に伴い脳の代謝機能が低下することで、アルコールによるダメージがより深刻になりやすく、認知機能の低下が進みやすくなります。加えて、飲酒習慣のある方で、社会的に孤立している場合や精神的なストレスが大きい場合も、認知症のリスクが高まる恐れがあります。

アルコール性認知症の検査と診断

アルコール性認知症の診断には、認知機能の評価や画像検査、血液検査などが用いられます。アルツハイマー型認知症や血管性認知症といったほかの認知症と区別するために、飲酒習慣や生活習慣の聞き取りも重要なポイントになります。

アルコール性認知症の検査方法

まず、認知機能を評価するために長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やミニメンタルステート検査(MMSE)などのテストが実施されます。これらの検査では、記憶力や計算能力、言語能力、注意力などを確認し、認知機能の低下があるかどうかを評価します。次に、脳の萎縮や脳血管障害の有無を確認するために、MRIやCT検査が行われます。

さらに、血液検査によって、ビタミンB1の欠乏や肝機能障害の有無を調べます。アルコールを長期間摂取していると、肝臓の機能が障害されることがあります。ビタミンB1が著しく不足している場合は、ウェルニッケ・コルサコフ症候群のリスクが高まるため、血液検査による栄養状態の評価が重要になります。

アルコール性認知症の診断方法

アルコール性認知症の診断は、認知機能検査や画像検査の結果に加えて、飲酒習慣や生活習慣の聞き取りによって総合的に判断されます。特に、長期間にわたる多量飲酒があったかどうか、飲酒の頻度や量、飲酒による問題が過去に発生していないかが重要な情報となります。また、ほかの認知症との鑑別診断も必要です。例えば、血管性認知症とは異なり、脳梗塞や脳出血の既往がないことも診断の手がかりとなります。

アルコール性認知症の治療法

アルコール性認知症の治療では、進行を抑えるだけでなく、可能な範囲で認知機能の回復を目指すことが重要です。ほかの認知症とは異なり、適切な治療を行うことで症状が改善する可能性があるため、早期に対応することが望まれます。治療には、断酒を中心に、薬物治療や食事療法、生活習慣の改善などを組み合わせた総合的なアプローチが必要となります。

断酒

アルコール性認知症の治療において重要なのが断酒です。アルコールの継続的な摂取によって脳の萎縮が進行し、認知機能の低下が悪化するため、飲酒を完全にやめることが最優先となります。断酒に成功すれば、脳の回復が期待できるケースもあり、症状の進行を食い止めることが可能になります。

しかし、長期間にわたって大量のアルコールを摂取してきた方が突然断酒をすると、アルコール離脱症候群を引き起こす恐れがあります。不眠や幻覚、けいれん発作などの重篤な症状が現れることがあるため、専門の医療機関や断酒会などの支援を受けながら進めることが大切です。

家族や周囲の理解とサポートも重要であり、本人が断酒を続けられるような環境を整えることが求められます。

薬物治療

アルコール性認知症の症状を緩和し、生活の質を向上させるために、薬物治療が行われることがあります。特に、ビタミンB1(チアミン)の補充は必須であり、点滴や筋肉内注射によって速やかに補給することが推奨されます。

また、幻覚や妄想が強い場合には、抗精神病薬や抗不安薬が処方されることがあります。ただし、これらの薬剤は副作用もあるため、慎重に使用する必要があります。さらに、断酒を継続するための補助薬として、飲酒欲求を抑える薬(抗酒薬)を使用することもあります。

食事療法

アルコールの長期摂取によって栄養状態が悪化しやすいため、食事療法も治療の重要な要素となります。特に、不足しがちなビタミンB1を積極的に摂取することが必要です。ビタミンB1は、豚肉や大豆製品、玄米、ナッツ類などに多く含まれており、バランスの取れた食事を心がけるとよいでしょう。また、アルコール依存症の方は食生活が偏る傾向があるため、栄養士や医師と相談しながら、適切な食事プランを立てることが望ましいです。

生活習慣の改善

アルコール性認知症の回復には、生活習慣の改善も欠かせません。規則正しい生活を送ることが重要です。例えば、散歩や軽い体操を日課にすることで、身体的な健康も維持しやすくなります。

また、社会的なつながりを持つことも認知機能の維持に役立ちます。家族や友人との交流を大切にし、地域のサポートグループや断酒会に参加することで、精神的な拠り所を得ることができます。さらに、趣味やボランティア活動を通じて生活に充実感を持たせることも、アルコールに頼らない生活を続けるための助けとなります。

アルコール性認知症が疑われるときの対処法

アルコール性認知症が疑われる場合、できるだけ早く適切な対応を取ることが重要です。早期の診断と治療によって、症状の進行を防ぎ、回復の可能性を高めることができます。

まずはかかりつけ医に相談をする

認知症の初期症状が見られた場合、まずはかかりつけ医や精神科、脳神経内科を受診することが大切です。医師による診察や検査を通じて、アルコール性認知症の可能性を評価し、適切な治療方針を決定します。特に、記憶力の低下や判断力の低下が顕著な場合は、早めに専門医の診察を受けることが望まれます。

また、アルコール性認知症の診断には、飲酒歴の詳細な聞き取りが必要となるため、本人が飲酒の実態を正直に話せるような環境を整えることが重要です。家族や周囲の方が医師と連携しながらサポートを行うことで、より正確な診断と適切な治療が可能になります。

本人が受診しようとしないときは自治体の相談窓口へ

アルコール依存症の傾向がある場合、本人が認知症の症状を自覚しにくく、受診を拒否することも少なくありません。そのような場合には、無理に説得しようとするのではなく、自治体の相談窓口や精神保健福祉センターなどに相談することをおすすめします。

各自治体には、認知症に関する相談窓口やアルコール依存症の支援機関が設置されており、家族がどのように対応すればよいかアドバイスを受けることができます。また、地域によっては訪問診療や支援プログラムが提供されていることもあり、本人が医療機関を受診しなくても、専門的なサポートを受けることが可能な場合もあります。

本人が受診を拒否する場合でも、焦らずに少しずつ環境を整え、信頼できる支援機関と連携しながら対応することが大切です。家族だけで抱え込まず、専門家の意見を取り入れながら、適切なサポートを続けることが重要になります。

適切なアルコール摂取量は?アルコールが人間の認知機能に与える影響

アルコールの摂取は、適量であればリラックス効果や社交の場を楽しむ助けになりますが、過剰に摂取すると脳にダメージを与え、認知機能の低下を引き起こすリスクが高まります。特に長期間にわたる大量のアルコール摂取は、アルコール性認知症をはじめとするさまざまな健康被害の原因となるため、適切な飲酒量を守ることが重要です。一方で、少量のアルコール摂取が認知症のリスクを低下させる可能性があるとする研究もあり、アルコールと認知機能の関係については一定の議論があります。

大量のアルコール摂取は認知症の発症リスクを高める

長期間にわたる大量飲酒は、脳の萎縮を引き起こし、記憶や判断力の低下を加速させます。ある調査では、施設に入所している認知症高齢者の約29%が、大量飲酒が原因の認知症であると考えられました。また、5年以上のアルコール乱用または大量飲酒の経験がある高齢男性は、そうでない男性に比べて認知症のリスクが4.6倍、うつ病のリスクが3.7倍高いという結果も報告されています。

大量飲酒が認知症を引き起こす理由として、アルコールが脳の神経細胞に与える直接的な毒性が挙げられます。特に、前頭葉や海馬の萎縮が進行し、記憶障害や注意力の低下を招きやすくなります。また、アルコールの代謝物であるアセトアルデヒドが脳内で炎症や酸化ストレスを引き起こし、神経変性を促進することも影響を与えます。さらに、慢性的な飲酒は血管障害を悪化させ、高血圧や糖尿病といった認知症のリスク因子とも深く関係しています。

少量から中量のアルコール摂取は認知症の発症リスクを下げる?

一方で、適度なアルコール摂取が認知症の予防につながる可能性を示唆する研究もあります。高齢男性を対象とした調査では、1週間に350mLのビール1本相当の飲酒を1〜6本程度摂取している方が、認知症の発症リスクが低いという結果が報告されました。

また、フィンランドの研究では、中年期に非飲酒だった方と大量飲酒だった方は、いずれも認知症リスクが高いことが分かりました。ハワイの日系人男性を対象とした研究でも、非飲酒者および1日にビール4本以上の大量飲酒者は、認知機能の低下が顕著であることが確認され、適度な飲酒(ビール1本程度)をしていた方の認知機能の低下が少なかったとされています。

しかしながら、これらの研究はあくまで「適度な飲酒が認知症のリスクを下げる可能性がある」と示唆するものであり、もともと飲酒習慣がない方が新たに飲酒を始めることで認知症を予防できるという証拠はありません。また、日本人を含むアジア人はアルコールを分解する酵素の活性が低い方が多く、少量の飲酒でも健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、個人差を考慮することが重要です。

まとめ

アルコール性認知症は、長期間の大量飲酒によって引き起こされる認知症の一種です。ほかの認知症と異なり、適切な治療や生活習慣の改善によって進行を抑えたり、回復が期待できることが特徴です。アルコール性認知症が疑われる場合は、できるだけ早く専門医を受診し、適切な対応をとることが重要です。この記事がその一助になれば幸いです。

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