認知症は、患者さんやそのご家族にとって、大きな不安をもたらす病気のひとつです。その治療法としては、薬物療法と非薬物療法の2つがあります。
これらの治療法を理解することは、適切な治療を受けるための知識を深め、患者さんやご家族がよりよい生活を送るためのサポートとなります。
この記事では、認知症治療における薬物療法と非薬物療法の効果・副作用・メリット・デメリットなどについて詳しく解説しますので、ぜひご覧ください。
認知症の治療について
- 認知症は完治しますか?
- 認知症は原因や症状によって進行を遅らせることが可能な病気ですが、現時点では、認知症を完治させる治療法はありません。しかし、甲状腺機能低下症・ビタミン欠乏症・慢性硬膜下血腫・正常圧水頭症などに伴う認知症は、原因となる疾患の治療によって認知症の症状が改善される可能性があります。患者さんがどのような疾患が原因の認知症なのかを知ることが治療に必要です。
- 認知症の治療方法を教えてください。
- 治療方法には、薬物療法と非薬物療法の2つがあります。薬物療法には中核症状に対するものと周辺症状に対するものがあり、症状によって使われる薬が異なります。中核症状は大半の認知症に共通する症状で、脳細胞を失うことから起こる症状です。もの忘れがひどくなったり、新しいことが覚えられなくなったりといった認知機能の障害が起こります。一方で、周辺症状は認知機能障害以外の妄想・幻覚・徘徊・抑うつ・睡眠障害・食行動の異常・易怒性・攻撃性など日常生活に支障をきたす症状のことです。非薬物療法には、認知機能障害の改善だけでなく、行動・精神的な改善・日常生活の質の向上などを目指した運動療法やリハビリテーションが含まれます。
薬物療法の認知症治療法
- 薬物療法で使われる薬の種類を教えてください。
- 薬物療法で使われる薬の種類は複数あります。中核症状に対する治療薬(抗認知症薬)は、コリンエステラーゼ阻害薬と神経保護薬の2つです。コリンエステラーゼ阻害薬には、ドネペジル(アリセプト)・ガランタミン(レミニール)・リバスチグミン(イクセロンパッチ・リバスタッチパッチ)の4種類があります。神経保護薬は、メマンチン(メマリー)の1種類です。また、2023年9月に従来通りの薬とは異なり、症状の進行を直接抑制する効果を期待できるレカネマブ(レケンビ)という薬が使用可能になりました。周辺症状に対する治療薬としては、幻覚・抑うつ・睡眠障害・攻撃性などの症状に応じて、非定型抗精神病薬・抗うつ薬・抗てんかん薬・抗アンドロゲン薬などが使用されます。
- 薬物療法の認知症改善への効果を教えてください。
- 薬物療法の場合、軽度・中等度・高度の症状度合いや作用機序(薬剤が効果をだすためにどのように作用するのか)などによって薬を使い分けします。これらの薬は、記憶障害を改善するものではありません。しかし、進行を少なくとも1年程度遅らせる効果があるとされています。また、中核症状に使用されるドネペジル(アリセプト)は抑うつ・不安・無関心に有効的に働き、さらにメマンチン(メマリー)は妄想・興奮・攻撃性・易刺激性に有効的です。このように中核症状に対する薬は、周辺症状にも効果があると報告されています。そして、レカネマブ(レケンビ)は脳の神経細胞が失われていくのを防ぐ効果があり、投与しない場合に比べて7ヵ月半程度症状の悪化を抑える効果があるとされています。具体的には、脳内に蓄積されたアミロイドβを標的に、これを除去または減少させることで進行を遅らせることが可能です。将来的には、レカネマブを含むアミロイドβを標的とした治療薬がさらに改良され、より効果的で安全な治療が提供されることが期待されています。
- 薬物療法での副作用はなんですか?
- 4種類のコリンエステラーゼ阻害薬に共通する副作用として、消化器症状(嘔気・食欲不振・下痢など)や徐脈などが挙げられます。消化器症状は、投与開始時や増量時に特に発現しやすく、高用量であるほどそのリスクが高まります。また、リバスチグミンはパッチタイプなので消化器症状の副作用が少ないですが、貼付部位の皮膚にかぶれや痒みなどの症状が副作用として現れるのが特徴です。また、神経保護薬には、めまい・傾眠・便秘・頭痛などの副作用が現れます。さらに、レカネマブ(レケンビ)には、アミロイド関連画像異常(ARIA)という副作用がでる場合があります。アミロイド関連画像異常(ARIA)とは、脳血管のまわりに水が溜まる浮腫や脳内の微小出血や鉄が沈着することです。大半は、無症状で時間とともに回復しますが頭痛を引き起こす可能性もあります。また、0.6〜0.8%の頻度で痙攣や意識障害など生命を脅かす重篤な副作用を引き起こす可能性があります。治療中には定期的な検査が行われ、使用の継続について判断が必要です。周辺症状に対する薬の副作用は認知症用の薬ではないため、認知症の 進行を進めてしまう可能性があります。周辺症状の投薬治療にはより注意が必要です。
- 薬物療法のメリット・デメリットはなんですか?
- 薬物療法のメリットは、症状の進行を遅らせること・周辺症状を緩和すること・日常生活の質を向上させることの3点です。症状の進行を遅らせることができ、周辺症状も緩和することができれば、落ち着いた安定した生活が可能になります。その結果、ご家族の負担も軽減されるため、日常生活全体の質を向上させることができます。一方、デメリットとしては、薬の副作用・効果の個人差・多剤服用の3点です。多剤服用とは、高齢者の方が複数の疾患を抱えている場合に、複数の薬を同時に服用することを意味します。多剤服用は薬同士の相互作用による副作用を引き起こしたり、服用回数の増加による飲み忘れが発生したりして、正しい治療が行われなくなる可能性があります。そのため、多剤服用の場合は医師や薬剤師に相談し、薬の数を減らすか一包化するなどの対応が必要です。
非薬物療法の認知症治療法
- 非薬物療法で使われる認知症の治療法はなんですか?
- 非薬物療法は、患者さんへの介入と介護者への介入の2つに分かれ、これらを組み合わせて治療を行います。1つ目の患者さんへの介入には、以下の7つがあります。
・認知機能訓練
・認知刺激
・認知リハビリテーション
・運動療法
・音楽療法
・回想法
・認知行動療法
次に、2つ目の介護者への介入として、6つの方法をご紹介します。
・心理教育
・スキル訓練
・介護者サポート
・ケースマネジメント
・レスパイトケア
・介護者のセルフケア
これらの非薬物療法は、認知機能障害だけでなく、認知症に伴う行動・心理症状や日常生活機能の改善を目指す治療です。
- 非薬物療法の認知症改善への効果を教えてください。
- 非薬物療法の効果はさまざまですが、認知機能訓練や認知刺激は認知機能の改善に効果があり、音楽療法は患者さんの不安・抑うつ・行動障害に対してわずかな効果を示します。さらに、回想法には個人療法と集団療法があり、集団療法では抑うつ症状の改善が期待できる場合があります。ただし、音楽療法や回想法は周辺症状の改善だけでなく、患者さんとの積極的なコミュニケーションの手段として重要な意義を持っています。コミュニケーションをとることは患者さんの生活の質や生きがいを維持するだけでなく、認知症の原因のひとつである社会的孤立の改善にもつながるため、効果的な治療法となります。
- 非薬物療法のメリット・デメリットはなんですか?
- 非薬物療法のメリットは、副作用のリスクが少ないこと・さまざまな治療法があるため多様なアプローチが可能であること・患者さんが楽しみながら取り組めることの3点です。一方、 デメリットとしては、効果に個人差があること・専門的な知識が必要なこと・介護者に時間と労力が求められることの3点です。非薬物療法は、介護者のサポートが大変重要になります。ご家族がサポートされる場合は、このデメリットを重く感じる方も少なくありません。ご家族の誰かが認知症になると、できる限りのことをしようと無理をしてしまうことがよくあります。その結果、ご家族が疲弊してしまうこともしばしばです。そのため、ご家族や介護者自身のうつや燃え尽きを軽減するためのケアも必要となります。ご家族や介護者の支援を受けつつ、薬の副作用が少なく楽しみながら治療ができることは患者さんにとって大きなメリットとなるでしょう。
編集部まとめ
この記事では、認知症の治療法としての薬物療法と非薬物療法について解説しました。認知症と診断されると、患者さんやご家族は大きな不安を感じられる場合もあるでしょう。
しかし、治療方法を事前に理解しておくことで、適切な治療を受けられるようになり、患者さんやご家族のこれからの生活をよりよいものにする手助けとなります。
患者さんの治療とご家族や介護者のサポートを通じて、症状の進行を少しでも遅らせ、元気で明るい日常を取り戻してください。この記事がそのお役に立てれば幸いです。