アルツハイマー型認知症、血管性認知症と並び、三大認知症であるレビー小体型認知症をご存じでしょうか。
レビー小体型認知症は、レビー小体(αーシヌクレイン凝集物)ができることで発症します。レビー小体型認知症の特徴は幻視の出現や、パーキンソニズム(パーキンソン症状)の出現です。
この記事ではレビー小体型認知症はどのような病気なのか、症状や治療についてまとめています。日頃のケアの仕方についてもお伝えしますので、参考にしていただければ幸いです。
レビー小体型認知症について
三大認知症の一つであるレビー小体型認知症について解説します。診断基準についても触れますのでご参照ください。
レビー小体型認知症とは
レビー小体型認知症は、認知症のなかでも約10~30%を占める認知症でアルツハイマー型認知症についで多いとされています。65歳以上の高齢者に多く、男女比は2:1で男性に多くみられます。
幻視・レム睡眠行動障害(悪夢をみて暴れる)・向精神薬への過敏症・転倒・失神・自律神経障害が出現する認知症です。レビー小体が脳内にできることから、パーキンソニズム(パーキンソン症状)である手足の震えやこわばり・顔の表情が硬い・言葉のもつれ・歩き初めや立ち上がり動作がゆっくりになるといった症状もみられます。
レビー小体型認知症の診断基準は以下のとおりです。
- 進行性の認知
- 中核的特徴
- 支持的特徴
- 指標的バイオマーカー
中核的特徴に2つ以上、もしくは中核的特徴1つと指標的バイオマーカー1つ以上で臨床的にレビー小体型認知症と診断します。
中核的特徴は以下のとおりです。
- 注意や明晰さの著明な変化をともなう認知の変動
- 繰り返し出現する具体的な幻視
- 特発性のパーキンソニズム
- 認知機能の低下に先行することもあるレム期睡眠行動異常症
指標的バイオマーカーは次のようになっています。
- ドパミントランスポーターの取り込み低下
- MIBG心筋シンチグラフィでの取り込み低下
- 睡眠ポリグラフ検査による筋緊張低下を伴わないレム睡眠の確認
支持的特徴として、以下のような特徴が挙げられます。
- 抗精神病薬に対する重篤な過敏性、姿勢の不安定性、繰り返す転倒
- 失神または一過性の無反応状態のエピソード、高度の自律機能障害
- 過眠、嗅覚鈍麻、幻視以外の幻覚、体系化された妄想、アパシー、不安、うつ
認知機能に変動がある、手が震えたり身体が動かしにくかったりする、幻視などの症状が出現しているとレビー小体型認知症の可能性が高いです。
レビー小体型認知症の原因
レビー小体型認知症の原因は、αーシヌクレインという凝集物が、中枢神経系・末梢神経系の神経細胞や神経突起に沈着することで発症します。どこの神経に凝集物が沈着するかによって、出現する症状が変化します。
このαーシヌクレイン凝集物はレビー小体と呼ばれ、パーキンソン病の方に必ずみられるものですが、レビー小体がなぜできるのかは明確になっていません。
パーキンソン病や多系統筋萎縮症などの神経変性疾患を患っている場合、頭部外傷や慢性的なストレス、抗精神病薬や抗不安薬などの治療を行っていることがリスク要因と考えられています。
レビー小体型認知症の進行にともなう症状の変化
レビー小体型認知症で出現する症状は以下のとおりです。
- 認知機能障害
- 記憶障害
- 幻視(あるはずのないもの、人を存在していると認識すること)
- レム睡眠行動障害(レム睡眠時に大声をあげる、身体をばたばたと動かす、壁をどんどん叩くなど)
- 抑うつ(不安感、焦燥感、引きこもり、アパシーとよばれる無気力、無関心、感情の鈍麻)
- 自律神経症状(便秘、起立性低血圧、体温調節障害、発汗調節障害など)
- パーキンソニズム(パーキンソン症状である動作がゆっくりになる・手足の震え・足や腕がスムーズに動かなくなる・前傾姿勢で歩く・歩き始めの動作がとりにくくなるのが特徴。表情に乏しくなる仮面様顔貌もみられることがある。)
なかでも幻視の症状が高頻度で発生すること、レビー小体ができることで症状が出現するパーキンソニズムが特徴的です。
幻視はレビー小体型認知症の約80%の方にみられる症状といわれています。その他、レビー小体型認知症の約70%の方に抑うつ症状が出現するともいわれています。また、症状の重さや程度は時間や日にち、週までをもまたいで変動があるのも特徴です。
初期の症状
幻視・認知機能・レム睡眠行動障害・抑うつ・自律神経症状から症状が出現するといわれています。初期の頃には記憶障害は目立ちにくいことがほとんどです。症状のなかでもレム睡眠行動障害はレビー小体型認知症を発症する数年前から出現することもあります。
中期の症状
症状が進行すると症状が重くなっていくのに加え、パーキンソニズムがみられるようになります。そのため歩行時にすり足になったり、歩き始めが不安定になったりします。
歩行時には、脱げにくく歩きやすい靴を使用する、室内では躓きやすいものをなるべく排除し、手すりを設置するなどの対策を検討していく必要があるでしょう。感情の起伏が少なくなったように感じられることも増えてくるかもしれません。
後期の症状
運動機能が障害されるので、常に介助を必要とする状態になります。嚥下障害が出現し食べ物や飲み物などをうまく飲み込めなくなると、誤嚥性肺炎のリスクが高くなります。
ほかにも転倒し、頭部を打つことで頭部に外傷を負う二次疾患につながる可能性があるので注意が必要です。
レビー小体型認知症の現状での治療法
レビー小体の沈着を防ぎ、取り除くような治療法はありません。そのため症状である認知機能障害・心理症状やパーキンソン症状、自律神経症状、レム睡眠行動障害に対する対症療法が行われます。
認知機能と心理症状に対しての治療はコリンエステラーゼ阻害薬・NMDA受容体拮抗薬・抑肝散・非定型抗精神病薬・ドネぺジル(アリセプト®)を使用します。このドネペジルはレビー小体型認知症だけでなくアルツハイマー型認知症の認知症状進行抑制薬として承認されている薬剤です。
ただし、レビー小体型認知症の場合、薬への過敏性があり、ドネペジルによる副作用も出やすいです。興奮、動悸、失神など、その他薬を飲み始めていつもと異なる症状が出現した場合は、副作用を疑って医師と相談のうえ、薬の減量・中止を検討する必要があります。
パーキンソン症状に対して使用される薬剤はLードパです。これは抗パーキンソン病薬でその他にも、ゾニサミドやドパミンアゴニストという薬剤が使用されることもあります。
自律神経症状は血圧変動や排尿障害、消化管運動障害のことです。血圧変動では起立性低血圧や食事性低血圧が起こることがあり、交感神経刺激薬を使用し治療します。
尿を溜めにくくなり頻尿や尿意切迫といった症状が排尿障害です。過活動膀胱治療薬の抗コリン薬やα1受容体遮断薬、β3受容体刺激薬などが使用されます。
消化管運動障害は消化管運動低下になることが少なくありません。胃排出機能の低下や便秘の症状が出現するので、酸化マグネシウムやモサプリドなどの緩下剤、消化管蠕動改善薬の内服治療が行われます。
レム睡眠行動障害では睡眠環境を整えるために、メラトニンやクロナゼパムなどの薬物療法が行われます。
前述のようにレビー小体型認知症では全般的に薬に対して過敏に反応することも特徴です。過敏に反応することで思わぬ副作用が出現することがあるので注意が必要です。内服薬の調整が行われたときには、レビー小体型認知症の方の話をよく聞き、よく観察してあげましょう。
レビー小体型認知症の検査方法
レビー小体型認知症を診断するためには、症状だけでなく脳波の検査や認知機能の検査を行う必要があります。検査項目を下記にまとめました。
神経心理検査
認知機能評価を行います。スクリーニング検査のため、Mini-Mental State Examination(ミニ-メンタル ステート検査)という国際的に使用されている検査を行います。
検査結果では記憶障害よりも、視覚認知障害・注意障害などが優位になるでしょう。幻視の検査としてパレイドリアテストを行い、風景画像の中に人や動物などの錯視が見えるかどうかの検査も行います。
血液検査
認知機能低下を発症する可能性のある疾患を除外するために行われます。認知機能低下の可能性があるのはビタミン欠乏症・甲状腺機能低下症・橋本脳症・血糖異常・電解質異常・肝性脳症などです。これらを除外するため、生化学検査・ビタミン・甲状腺ホルモン・アンモニア・梅毒血清反応などを調べます。
脳波検査
レビー小体型認知症の場合、後頭部での徐波化が特徴的です。その他、前頭部優位の徐波や側頭葉の一過性の鋭波が認められることもあります。
画像検査
画像検査ではMRI・MIBG心筋シンチグラフィー・ドパミントランスポーターシンチグラフィー(ダットスキャン)検査・脳血流シンチグラフィーが行われます。
脳MRIでは、大脳全体に軽度の萎縮がないことを確認します。アルツハイマー型認知症に比べて萎縮程度が軽いことが少なくないです。この脳MRIで、レビー小体型認知症以外の認知症ではないという除外検査を行います。
MIBG心筋シンチグラフィー検査は、レビー小体型認知症は交感神経が障害されるという特徴を利用した検査です。123IーMIBGという薬剤を注射し、薬剤が心臓に集まる程度を評価し診断します。
ドパミントランスポーターシンチグラフィー検査とはドパミン神経の変性・脱落を評価するための検査です。薬剤を投与し脳内の線条体に集まる程度で診断します。
脳血流シンチグラフィーは、123IーIMPという薬剤を使用し、脳血流の評価を行います。脳血流異常は、その部位の脳機能の異常を示すことになるのですが、レビー小体型認知症では後頭葉の血流低下が一般的です。
レビー小体型認知症で気を付けたいこと
認知症のなかでもレビー小体型認知症で特徴的なのは症状にパーキンソニズムがあることです。認知症の方のケアに加えてパーキンソニズムに対して気を付けたい項目をまとめました。
それ以外にも、認知症の方とどのように接するのが望ましいかについても参考になれば幸いです。
転倒
レビー小体型認知症の症状のなかにパーキンソニズムというものがあります。パーキンソニズムは、歩行開始時に足がうまく前に出なかったり、歩幅が狭くなり小刻み歩行になったりするのが特徴です。
歩き始めにうまく一歩が踏み出せないことは転倒の原因になります。小刻み歩行では、ただ歩幅が狭くなるだけでなく、足を高く上げずすり足のように歩行します。小さな段差でつまずきやすくなりますので手すりを設置する、床に物を置かないなどの環境を調整することが必要です。
レム睡眠行動異常症に対する薬物治療が行われているときは、早朝の転倒やふらつきに注意する必要があります。内服薬による鎮静作用で、日中より反応が鈍いことがあります。早朝の過鎮静やふらつきが深刻な場合、医師に相談しましょう。
レビー小体型認知症は起立性低血圧を引き起こしやすいので、血行促進効果のある弾性ストッキングを着用するのも有効です。
血圧低下を助長させてしまう要因に脱水があります。水分摂取をこまめに行い、汗をかきすぎないよう環境を調整することも大切です。
運動機能の維持
運動機能を維持するため、リハビリテーションに通い理学療法士による理学療法を行うのが有効です。自宅でストレッチや筋力強化を行うのもよいでしょう。
レビー小体型認知症では、認知機能に変動があります。そのため認知機能のよい時間に運動機能を維持するための訓練をすることをおすすめします。
本人の発言を否定しない
物忘れが増えたり、これまでできていた仕事ができなくなってきたりする認知症の症状にご本人も気付いています。このとき、認知症であると受け入れることができず抑うつ状態になる方と周囲が自分を陥れようとしていると妄想する方に分かれます。
自分の変化を受け入れられないという防衛反応です。そこへ認知症の方の発言を否定してしまうと、さらにそれぞれの状態を悪化させてしまいます。
例えば、同じ質問を繰り返すのも悪気があってするわけではなく、ただ記憶障害のため長いこと覚えておくことが難しいという状況であるだけです。忙しいときや余裕のないときなどに同じ質問を繰り返されるとイライラしてしまうことは理解はできますが、怒りや不満の感情を出さないことが大切です。
この人は自分にとって困っているときに怒る怖い人という認識になり、日々のコミュニケーションや介護が円滑に行えない原因になってしまいます。
認知症の方は、感覚がずれていても感情があり、情緒も豊かな状態で残っていることを忘れずにコミュニケーションをとっていくようにしましょう。
まとめ
原因が明確になっていないレビー小体型認知症ですが、2017年には日本でドネペジル®が承認され、少しでも症状を緩和させるため研究が進んでいます。
認知症が進行すると抑制薬や対症療法治療薬の内服も忘れてしまうことがあるため、忘れないような環境と準備も必要です。
レビー小体型認知症では徐々に記憶力が低下するだけでなく、運動機能も衰退してしまうので徐々に食事や排せつなどの介護が必要になります。少しでもご本人、家族ともに過ごしやすい時間が長くなるよう、家族間だけでなく医師や医療機関とも協力していくことが必要です。