さまざまな原因によって引き起こされる認知症ですが、その15%は血管性認知症であることがわかっています。
さらに認知症にはいくつかの種類があり、それによって症状に特徴があります。
では、血管性認知症とはどのような病気なのでしょうか。また血管性認知症でみられる特徴的な症状とは、どのような症状なのでしょうか。
この記事では、血管性認知症について原因・症状・治療方法・予防方法とあわせて解説します。ぜひ参考にしてみてください。
血管性認知症とは?
- 認知症にはどのような種類がありますか?
- 認知症はさまざまな原因によって起こる病気です。その原因となる疾患は、およそ70種類といわれています。また、認知症は、原因によっていくつかの種類に分けられます。認知症のなかで大半を占めるのは、アルツハイマー型認知症です。その割合は50%程で、脳の神経細胞が正常よりも早く減ってしまうことで起こる認知症です。次いで多く見られるのがレビー小体型認知症で、その割合は認知症全体の20%程とされています。これは特異なタンパク質が脳の神経細胞に蓄積して、レビー小体という変性した細胞になることで生じます。そして認知症全体の15%を占めるのが、血管性認知症です。また、これらには分類されませんが、このほかにも正常圧水頭症・甲状腺機能低下症・ビタミンB12欠乏性などさまざまな病気によって起こる認知症もあります。
- 血管性認知症とはどのような病気ですか?
- 血管性認知症は、脳卒中を原因として起こる認知症です。脳卒中とは、脳梗塞や脳出血などの脳の血管の障害によってもたらされる病気の総称です。脳梗塞により血管が詰まって脳の酸素不足が生じたり、脳出血で脳が圧迫されたりすることで脳細胞が死滅し、後遺症が残ることがあります。血管性認知症は、こうした脳卒中の影響を受けた部位に応じて、さまざまな認知症の症状が現れるのが特徴です。
- 血管性認知症の原因を教えてください。
- 血管性認知症の主な原因は、脳の血管に起こった血栓・梗塞・出血です。これらはまとめて脳卒中と呼ばれますが、その危険因子は以下のとおりです。
・高血圧
・糖尿病
・高コレステロール値
・喫煙
・肥満
・高ホモシステイン値
・アテローム性動脈硬化
・細動脈硬化
このほかにも心房細動といった脳塞栓の可能性を高める病気は危険因子とされています。また、異なる認知症のタイプであるアルツハイマー病を併発することもあります。
- 血管性認知症になりやすいのはどのような人ですか?
- 血管性認知症は、脳卒中になってから3ヵ月以内に約20〜30%の方が発症するというデータがあります。その有病率は65〜70歳で0.2%、80歳以上で16%とされており、高齢者の方に起こりやすい認知症です。また、女性より男性に発症しやすい病気でもあります。
血管性認知症の前兆や症状
- 血管性認知症の前兆やサインを教えてください。
- 血管性認知症は、数ある認知症のなかでも発見が遅れやすい病気です。その理由は、脳卒中によって障害されていない機能が正常に保たれているため、症状が見過ごされやすいことがあるからです。血管性認知症には、以下の3つのサインがみられます。
・失行
・失認
・失語
失行とは、日常生活で当たり前に行っている動作や、道具の使い方がわからなくなってしまう状態です。衣類の着脱や食器の使い方など、それまでできていたはずの行動がうまくできなくなります。失認とは、目では見えていても認識する能力が正しく働かない状態です。そして、失語とは、言語能力(話す・聞く・読む・書く)が失われた状態を指します。これらのサインを見逃さないことが、血管性認知症の早期発見のポイントとなります。
- 血管性認知症の症状を教えてください。
- 血管性認知症では、以下の症状がみられることがあります。
・記憶障害
・見当識障害
・注意障害
・言語障害
・運動麻痺
・歩行障害
・感覚障害
・構音障害
・嚥下障害
血管性認知症の症状は大きく2つに分けられます。1つは脳血管の障害によって現れる神経症状で、もう1つは認知症の症状です。脳は部位によって、さまざまな機能をつかさどっています。脳血管の障害は、脳のさまざまな部位に起こる可能性があるため、脳血管障害が起こった部位によって引き起こされる症状も異なります。主要な症状は上記のとおりですが、その他にも以下の症状が見られることがあります。
・抑うつ症状
・不安
・意欲の低下
・感情鈍麻
・動作緩慢
これらの症状は、精神的な変化として症状とは気付かれにくいことがありますが、ほかの症状と同様に脳卒中が原因で引き起こされることもあります。
血管性認知症の治療方法や予防方法
- 血管性認知症の治療方法を教えてください。
- 血管性認知症は、脳血管の障害があるために起こります。そのため血管性認知症の主な治療内容は、脳卒中の再発予防とリハビリテーションです。脳卒中の再発は、認知症のさらなる悪化を起こすことが少なくないため、その予防が重要とされています。高血圧・糖尿病・心疾患は、脳血管障害のリスク因子です。これらの病気の適切なコントロールが、血管性認知症の予防のためには必要です。また、脳梗塞の再発予防のために、血液をサラサラにする薬が処方されることもあります。その他にも血管性認知症によって起こった意欲低下・自発性の低下・興奮などの症状には、脳循環代謝改善剤が使用されることもあります。
- 完治する可能性はありますか?
- 認知症は原因によって、治療可能なものとそうではないものに分けられます。そして、血管性認知症は後者にあたります。脳卒中によって脳細胞が働きを失った場合、その細胞が再びもとに戻ることはありません。そして、現時点では認知症を完治させることはできないといわれています。
- 血管性認知症を予防する方法はありますか?
- 血管性認知症の主な原因は脳卒中です。脳卒中にはさまざまなタイプがありますが、近年注目されているのが小血管病です。この小血管病の原因の多くは高血圧であることが明らかになっており、細い動脈に関わる病気として特に関心が高まっています。血圧の管理は健康診断や受診時の測定だけでなく、日常生活の一部として自宅で定期的に血圧を測定し、管理することが重要とされています。これは、医療機関への来院時に血圧が大きく変動することが少なくないためです。高血圧は自覚症状が乏しいため、見逃されてしまったり、放置されてしまったりしやすい病気です。しかし、重症脳梗塞である心原性脳梗塞の原因となりうることもあるため、日々の管理を怠らないことが必要となります。血圧の自己管理では、以下の4つを適切に行う必要があります。
・家庭血圧の測定
・食事の管理
・体重と睡眠の管理
・降圧剤の使用
高血圧は、自覚症状が乏しい病気とされています。そのため、医師から降圧薬を処方されていても、自己判断で服薬を中断してしまう方が少なくありません。降圧薬の服薬中は、血圧が良好にコントロールされるため、高血圧そのものが改善されたと誤解してしまうことがあります。しかし、医療機関では患者さんの体に合わせた適切な降圧薬が選択され、医師の診断の下で処方されています。薬は自己判断で中断せずに、処方指示を守って服用しましょう。しかし、血管性認知症の方は、症状が進行すると血圧をコントロールするための降圧薬の管理やセルフケアを自身でうまく行えなくなってしまうことが少なくありません。このようなときには家族に協力を求めたり、介護保険や民間のサービスを利用したりして、すべて自分で解決しようとしないことが大切です。また、かかりつけ医をもって長期的に管理することで良好な血圧を保てるようになります。さらに、長期にわたりセルフケアを行っていくためには、自治体の地域包括支援センターの利用支援を受けることもおすすめです。
編集部まとめ
血管性認知症は、脳血管障害(脳卒中)によって起こる認知症です。
ほかの認知症とは異なり、障害を受けていない部位の機能が保たれるため、できることとできないことの差が激しく出るのが特徴です。
また、血管性認知症は、生活習慣病が脳卒中の原因の1つとされています。なかでも血圧のコントロールは大変重要です。
認知症ではセルフケア能力も低下するため、家族や社会資源の協力を得ながら、さらなる症状の予防を心がけましょう。