認知症の周辺症状とは?原因や主な症状、家族の対応方法など詳しく解説します

認知症の周辺症状とは?原因や主な症状、家族の対応方法など詳しく解説します

認知症は、記憶力や判断力といった脳の働きが徐々に低下していく病気であり、高齢化が進む現代社会において、介護現場や家庭内での支援が不可欠になっています。「物忘れがひどくなる」「同じ話を繰り返す」などの症状は、脳の神経細胞が障害されることによって生じる中核症状にあたります。中核症状は病気の進行によって徐々に現れることが多く、初期段階では見過ごされやすい点にも注意が必要です。

一方で、怒りっぽくなる、夜間に急に外出しようとする、家族に暴力的な言動を見せる、見えないものが見えると訴えるなどの行動や心理的変化も現れることがあります。これらは周辺症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)と呼ばれ、中核症状よりも目立ちやすく、患者さんご本人だけでなくご家族の介護負担や精神的な疲労につながる場合があります。

周辺症状は、介護が継続困難になる一因となることもあり、介護施設への入所や医療的な対応が必要になるケースもあります。こうした症状を性格や本人の意思によるものととらえるのではなく、認知症という病気の一部として理解することが大切です。適切に対応することで、症状の軽減も期待できます。

本記事では、認知症の周辺症状について、その原因や主な症状、治療法、そして家族がとれる対応方法まで、わかりやすく解説します。

認知症の周辺症状とは

認知症の周辺症状とは

認知症の周辺症状とは、記憶障害や見当識障害といった中核症状以外に見られる、行動や感情、思考の変化を指します。徘徊暴言幻覚妄想無気力不安抑うつなどが含まれ、これらは患者さんの心理状態や周囲の対応や生活環境に影響されやすい特徴があります。

周辺症状は認知症の進行に伴って出現することが多く、その現れ方や程度は個人差があります。例えば、「財布を盗まれた」といった妄想が強くなる方もいれば、「誰かに見られている」と感じる幻視が目立つ方もいます。こうした症状は、脳機能の障害だけでなく、環境の変化、身体的な不調、心理的ストレスなどが重なることで引き起こされます。

一見問題に見える行動も、病気による表れと理解することが大切です。本人の困難さや不安に目を向け、尊厳を損なわない支援を心がけることで、患者さんもより穏やかな生活を送ることができ、ご家族の負担軽減にもつながります。

認知症の周辺症状が生じる原因

認知症の周辺症状が生じる原因

認知症の周辺症状は、脳の障害によって認知機能が低下することに加え、身体的・心理的・環境的な要因が重なって現れます。例えば、入院や施設入所など生活環境の変化や、痛みや便秘、脱水、睡眠不足といった身体の不調、生活環境の急な変化、孤独や不安などの心理的ストレスが症状を引き起こす要因となります。こうした変化は、認知症の進行とは別に、症状が一時的に悪化する場合もあります。

また、認知症の種類によっても、周辺症状の出方は異なります。アルツハイマー型認知症では妄想や徘徊、レビー小体型では幻視や睡眠障害、前頭側頭型では感情の起伏や脱抑制的な言動が目立つなど、それぞれ特有の傾向が見られます。病型に応じた対応が求められるのも、周辺症状への理解を深める理由のひとつです。

周辺症状は、本人が言葉でうまく伝えられない不調や困難を行動で表している場合もあります。これらの行動は困っているというサインとして理解し、丁寧に対応することが症状の軽減や予防につながります。加えて、日常のささいな変化を見逃さず、早期対応が症状の安定に有効です。特に生活のなかでのわずかな変化に敏感になりやすいため、日常的な観察と記録が効果的です。

認知症周辺症状の主な症状

認知症周辺症状の主な症状

認知症の周辺症状は、認知機能の低下により生活が困難になるなかで生じる心理的・行動的な変化であり、患者さん本人の生活の質や、介護するご家族の負担に大きく影響します。ここでは主な周辺症状を「行動障害」「精神症状」「感情障害」「意欲の障害」に分けて解説します。

行動障害

記憶や判断力の障害により行動の目的が不明確になり、周囲からは理解しづらい行動が見られるようになります。

徘徊

道に迷ったり、目的がはっきりしないまま外出したりする状態です。本人には「帰宅したい」「職場に行く」などの本人は目的があるつもりでも、見当識障害や不安から迷子になることがあります。

失禁

トイレの場所がわからなくなる、排泄のタイミングを判断できないなどの理由で起こります。本人にも大きなストレスとなるため、慎重な対応が必要です。

自傷・他害

混乱や恐怖、不快感などが抑えきれなくなり、衝動的に自分や他者を傷つけてしまうことがあります。行動が激しい場合には、早めに医療機関へ相談することが大切です。

精神症状

認知症では、記憶や認識の混乱から現実との境界があいまいになり、見えないものが見える、ありえないことを信じ込むといった症状が出ることがあります。これらの精神症状は、本人にとっては現実そのものであるため、対応を誤ると混乱が深まる恐れがあります。

幻覚

特に視覚に現れやすく、実際には存在しない人物や動物などが見えると訴えます。レビー小体型認知症ではよく見られる症状です。

妄想

「財布を盗まれた」「家に誰かが入った」など、現実には起こっていないことを強く信じる状態です。記憶の混乱や不安感が背景にあることが多いです。

作話

記憶の抜け落ちた部分を、本人が自然に補って話を作り上げる現象です。本人にとって自然な流れで記憶を補っているため、自覚はありません。

感情障害

感情障害は、気分の不安定さや心の落ち着かなさとして現れ、日常生活への興味を失う、または過度に心配するようになります。認知症の初期から見られることがあり、早期発見にもつながる重要なサインです。

うつ

以前は楽しめていたことに関心がなくなり、無表情で無気力な様子になります。自発的に訴えることが難しいため、周囲の気付きが重要です。

不安

ひとりになると不安になる、家族の姿が見えないと落ち着かないといった行動が見られます。生活環境の変化がきっかけになることもあります。

焦燥

同じ行動を繰り返す、同じ場所を行き来するなど、落ち着きを失い、動き回ることが見られます。不安や混乱から来ることが多く、安心できる環境づくりが重要です。

意欲の障害

認知症では、日常生活への関心や活動への意欲が変化することがあります。何もしたがらない状態だけでなく、逆に落ち着かず活動を繰り返すこともあり、意欲が低下する場合と過剰になる場合の、いずれかの症状が現れることがあります。

意欲低下

外出や会話、趣味などに対して無関心になる状態です。「何もしたくない」というよりも、脳の機能低下により行動を起こす力が弱まっている場合があります。

意欲亢進

特定の行動を執拗に繰り返す、他人の制止を聞かずに活動し続けるといった状態です。目的が不明確でも動き続ける様子が見られ、介護者の疲労にもつながりやすい症状です。

認知症の周辺症状への治療法

認知症の周辺症状への治療法

認知症の周辺症状に対する治療は、まず非薬物療法を基本とし、必要に応じて薬物療法を併用するという考え方が一般的です。症状の原因や患者さんの状態に応じて、治療の選択肢を柔軟に検討することが重要です。

非薬物療法では、生活環境の整備や介護者の接し方を見直すことで、患者さんが感じる不安や混乱を軽減し、症状の緩和を目指します。例えば、カレンダーや時計を活用して時間の感覚を補ったり、部屋の表示を工夫することで場所の見当識を支えたりすることが挙げられます。また、過ごし慣れた環境を保ち、規則正しい生活リズムを整えることも、安定した日常につながります。

さらに、介護者が感情的にならずに穏やかに対応し、患者さんの言動を受け止める姿勢も大切です。本人の尊厳を尊重し、安心感を与えることが、周辺症状の軽減に寄与します。

一方、幻覚や妄想、興奮などが強く生活に支障をきたす場合には、薬物療法が検討されます。抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬などが用いられることがありますが、高齢者は副作用のリスクが高いため、使用量や投与期間には注意が必要です。使用にあたっては、医師とよく相談しながら進めましょう。

また、急激な症状の悪化が見られる場合には、脱水、感染症、便秘などの身体的な不調が背景にあることもあるため、原因の見極めと適切な対応が重要です。周辺症状は完全に消すことが難しくても、症状を緩和することで、生活を安定させ、患者さんとご家族の負担を減らすことは可能です。

認知症の周辺症状への家族の対応方法

認知症の周辺症状への家族の対応方法

認知症の周辺症状には、医療や薬物治療だけでなく、ご家族の対応が症状の軽減や悪化の防止に大きく関与します。適切な関わり方をすることで、患者さんが安心して過ごせるようになり、介護者の負担も軽減されることがあります。ここでは、家庭内で心がけたい対応の基本を3つの視点からご紹介します。

否定しない寄り添うコミュニケーションを心がける

認知症の患者さんは、記憶や認識にずれが生じることで、現実とは異なることを話したり、非合理な行動を取ったりすることがあります。しかし、そうした言動を否定的に対応してしまうと、強い不安や怒りにつながり、妄想や興奮などの周辺症状が悪化することがあります。

例えば「お金がなくなった」と言われたときに、「盗ってないでしょ!」と否定するよりも、「心配だよね、一緒に探してみようか」と寄り添う姿勢を見せることが大切です。相手の気持ちに共感し、安心感を与えることで、不安や混乱を和らげることができます。

生活のリズムや環境を整える

認知症のある方にとっては、「いつ」「どこで」「何をすればよいか」がわかりづらくなっていることが多く、それが徘徊や焦燥、昼夜逆転などの周辺症状につながります。こうした症状を軽減するためには、毎日の生活リズムをできるだけ一定に保ち、安心して過ごせる環境を整えることが有効です。

例えば、毎日同じ時間に食事・入浴・睡眠のリズムを保つ、日中に散歩など軽い活動を取り入れる、部屋に大きな時計やカレンダーを置くなどの工夫が有効です。また、音や光などの強い刺激を避け、静かで落ち着ける空間づくりも大切です。

支援制度を活用する

家族だけで認知症の介護を担おうとすると、心身ともに大きな負担がかかってしまいます。ときにはイライラしてしまったり、自責の念にとらわれることもあるかもしれません。そうならないためにも、地域にある介護保険サービスや相談窓口を積極的に活用することがすすめられます。

例えば、訪問介護やデイサービス、ショートステイなどを取り入れることで、家族の休息時間を確保することができます。また、地域包括支援センターや主治医に相談することで、状況に応じた助言やサポートを受けることも可能です。支援を上手に使うことは、支援の利用は家族の責任放棄ではなく、安定した介護のための工夫です。

まとめ

まとめ

認知症の周辺症状は、行動や心理面に現れる多様な変化であり、介護生活の質や家族の負担に直結します。症状には徘徊や幻覚、妄想、不安、意欲低下などが含まれ、その背景には脳の変化だけでなく、身体の不調や生活環境、心理的ストレスが関係しています。

治療においては、まずは非薬物的な対応を基本とし、生活環境の調整やコミュニケーションの工夫によって症状の緩和を目指します。必要に応じて医師と相談のうえ、薬物療法を併用することもあります。家族の理解と支援が、患者さんの安心につながり、安定した生活を支える基盤となります。

すべての症状を取り除くことは難しくても、関わり方次第で穏やかな時間を増やせます。病気そのものへの理解を深め、無理のない支援のあり方を見つけていくことが、認知症と前向きに向き合うための出発点となります。

参考文献

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