脳血管性認知症(血管性認知症)は、脳の血流が阻害されることで発症する認知症の一種です。脳卒中(脳出血や脳梗塞)などの脳血管障害によって脳細胞がダメージを受け、記憶力や思考力、判断力が低下します。アルツハイマー型認知症に次いで多く、高齢者に多くみられます。しかし、生活習慣の改善や早期治療で発症リスクを下げられます。本記事では、脳血管性認知症の特徴や原因、症状、治療方法について詳しく解説します。
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脳血管性認知症とは?
脳血管性認知症は、脳細胞が障害されることで発症する認知症の一種です。脳の血管が詰まったり破れたりすることで脳細胞が損傷し、認知機能が低下します。特に脳卒中の既往がある方に多く見られ、発症後の経過は個人差があります。
脳血管性認知症の特徴
脳血管性認知症は、脳血管障害によって発症するため、症状の進行が段階的であることが特徴です。脳細胞が障害されるたびに認知機能低下が起こり、その後安定するという特徴があります。そのため、ある日突然認知機能が大きく低下することもあり、家族や周囲の方が気づくことが多くなります。
また、脳血管性認知症では、通常の認知症と違い記憶障害よりも判断力や注意力の低下が顕著に現れることがあります。感情のコントロールが難しくなり、突発的に泣いたり怒ったりするほか、抑うつや意欲の低下を伴うことも少なくありません。運動障害として歩行障害や手足のぎこちなさも現れます。
もう一つの重要な特徴として、脳細胞の障害が一時的で、改善すると認知機能が回復することがある点が挙げられます。このため、適切な治療やリハビリを行うことで、症状の進行を抑え、患者さんの生活の質を向上させることが可能です。早期診断と適切な介入が重要になります。
脳血管性認知症の原因
脳血管性認知症の主な原因は脳卒中(脳梗塞・脳出血)による血流障害です。脳の血流が遮断されると、酸素や栄養が十分に供給されず、脳細胞がダメージを受けます。
脳卒中の危険因子としては次のものが挙げられます。
高血圧は血管に負担をかけ、動脈硬化を進行させます。糖尿病は血管の炎症を引き起こし、血流を悪化させることがあります。脂質異常症では血管内にコレステロールが蓄積し、血流が阻害される可能性があります。心房細動があると、心臓内でできた血栓が脳の血管を詰まらせることがあります。さらに、喫煙や過度の飲酒も血管を傷つけ、脳血管障害を助長する要因となります。リスク因子を管理することで発症を予防できます。
脳血管性認知症の症状
脳血管性認知症の症状は、脳の損傷部位によって異なります。記憶障害や判断力低下に加え、身体的症状も現れます。歩行が不安定になったり、手足の動きがぎこちなくなったりすることがあります。また、感情のコントロールが難しくなり、怒りや悲しみが突然表れることもあります。日常生活に支障をきたすため、適切な対応が必要です。
排尿障害
排尿を司る脳の損傷により、コントロールが難しくなります。頻尿や尿失禁がみられ、生活の質が大きく低下することがあります。特に前頭葉や脳幹が損傷された場合、これらの症状が顕著に現れることが知られています。
脳血管性認知症に伴う運動障害が影響し、トイレまでの移動が困難になることもあります。環境を整えることや、定期的な排尿習慣を確立することが症状の軽減に役立ちます。
感情失禁
感情のコントロールが難しくなり、些細なことで突然泣いたり笑ったりすることがあります。感情を調整する脳機能の障害によって起こります。本人の意思とは関係なく感情が表出されるため、周囲の理解が重要です。
夜間せん妄
夜間に意識が混乱し、場所や時間の感覚が不明瞭になります。これにより、不眠や昼夜逆転が生じることもあります。ストレスや環境の変化が影響するため、落ち着いた睡眠環境を整えることが症状の軽減に役立ちます。
言語障害
言葉がスムーズに出てこなくなったり、言いたいことをうまく表現できなくなることがあります。これは、言語を司る脳の部位が損傷された場合に発生します。言語療法などのリハビリテーションによって改善が期待できます。
運動障害
脳の損傷によって手足の動きがぎこちなくなり、歩行が不安定になることがあります。特に歩行障害は脳血管性認知症において高頻度に見られます。転倒のリスクが高まり、日常生活に支障をきたすことが多くなります。適切なリハビリを行うことで、運動機能の改善が期待されます。
パーキンソン症状
脳血管障害が原因となる脳血管性認知症では、同様に脳血管障害に関連して発症する脳血管性パーキンソンニズムが併発します。そのため、パーキンソン病に似た症状が現れることがあります。筋肉のこわばりや動作が遅くなる、姿勢を保ちにくいなどの特徴があり、運動機能に大きな影響を与えます。通常のパーキンソン病と違いパーキンソン病の治療薬はあまり効果がありません。リハビリによって症状の軽減が期待できます。
脳血管性認知症の進行
脳血管性認知症は進行の仕方が特徴的であり、初期から末期にかけて徐々に悪化します。段階ごとに異なる特徴があり、それぞれに適した対応や治療が求められます。
初期の脳血管性認知症
初期段階では、記憶力の低下が目立たないことも多く、判断力や注意力の低下が先に現れることがあります。約束の時間を忘れたり、スケジュール管理が難しくなります。また、仕事や家事の効率が落ちたり、新しい情報を覚えにくくなったりすることも特徴です。
日常生活にはまだある程度適応できるものの、集中力が続かないため、長時間の会話や読書が苦痛に感じることがあります。また、複数の作業を同時にこなすことが難しくなり、料理や買い物の際に手順を間違えることが増えることもあります。さらに、些細なことでイライラしたり、気分が落ち込んだりするなどの感情の変化が現れることも少なくありません。
この段階で早期に適切な診断を受け、生活習慣の改善や治療を始めることが、進行を遅らせるために重要です。
中期の脳血管性認知症
中期に入ると、記憶障害がより顕著になり、最近の出来事を思い出せなくなったり、家族や知人の名前を忘れることが増えてきます。また、同じ質問を何度も繰り返したり、話の途中で何を言おうとしていたのか忘れることが多くなります。言葉がうまく出てこなくなり、会話が途切れがちになることもあります。
さらに、運動障害が現れることも多く、歩行が不安定になり転倒しやすくなったり、手足が思うように動かなくなることがあります。衣服の着脱や食事といった日常動作が難しくなり、介助が必要になる場面が増えてきます。また、感情の起伏が激しくなり、怒りっぽくなったり、突然泣き出したりすることもあります。
この段階では、本人の自立を支援しながら、安全に生活できる環境を整えることが重要です。家の中に手すりを設置したり、転倒防止のための工夫をするなどの対策を講じることが推奨されます。また、介護保険を利用した支援サービスを検討し、家族の負担を軽減することも必要になります。
末期の血管性認知症
末期になると、認知機能の著しい低下により、自力での生活が難しくなります。言葉の理解が困難になり、会話がほとんどできなくなることが多く、周囲との意思疎通が難しくなります。名前を呼ばれても反応が鈍くなり、表情の変化も乏しくなることがあります。
また、身体機能の衰えも顕著になり、食事の際にうまく飲み込めなくなる嚥下障害が生じることがあります。このため、誤嚥性肺炎のリスクが高まり、適切な食事形態の調整や介助が必要となります。さらに、排泄のコントロールができなくなり、常に介護を必要とする状態になります。
寝たきりの状態になることも多く、褥瘡(床ずれ)や関節の拘縮が進行する可能性があるため、定期的な体位変換や適切なスキンケアが重要になります。末期段階では、患者さんの快適さを最優先に考えたケアが求められ、医療や介護のサポートを適切に受けることが大切です。
脳血管性認知症の検査と診断
脳血管性認知症の診断には、医師による問診や認知機能の評価に加え、脳の状態を詳しく調べるための検査が必要です。検査で脳血管障害の有無や進行度を確認し、治療方針を決定します。
脳血管性認知症の検査方法
脳血管性認知症の診断には、脳の状態を把握するための画像検査が重要です。CTスキャンやMRIを用いて、脳血管障害の有無や脳の損傷部位を確認します。また、血液検査や心電図などを行い、脳血管障害の原因となる疾患を調べることもあります
脳血管性認知症の診断方法
脳血管性認知症の診断には、医師による問診や認知機能テストが実施されます。MMSE(ミニメンタルステート検査)や改訂長谷川式簡易知能評価などを用い、認知機能の評価を行います。そのほか、前頭葉機能検査(FAB)などの神経心理学的検査を追加して、高次脳機能障害を評価します。また、病歴や症状の経過を詳しく調査し、脳血管障害との関連を慎重に判断します。
画像検査と認知機能テストの結果を総合的に分析し、ほかの認知症との鑑別を行った上で診断が確定されます。早期の検査と適切な診断が、治療の選択肢を広げ、進行を遅らせるために重要です。
脳血管性認知症の治療法
脳血管性認知症の治療では、薬物治療だけでなく、非薬物治療も重要な役割を果たします。 薬物療法によって脳血流を改善し、認知機能の維持を図る一方で、リハビリテーションや生活習慣の改善などの非薬物療法を併用することで、より効果的に症状の進行を抑えることが期待されます。本記事では、これらの治療法について詳しく解説します。
薬物治療
脳血管性認知症の薬物治療には、脳血流を改善する薬や認知機能をサポートする薬が使用されます。これらの薬は血流を促進し、脳細胞への酸素供給を増やして進行を遅らせます。また、抗血小板薬や抗凝固薬が用いられることもあり、血栓の形成を防ぐことで脳卒中の再発リスクを減らすことができます。
さらに、認知機能を向上させるために、コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬が処方されることがあります。これらの薬剤は、脳内の神経伝達物質の働きを調整し、記憶や学習能力の維持を助ける効果が期待されます。ただし、薬物治療はあくまでも進行を抑制するものであり、根本的な治療ではないため、継続的な医師の診察と適切な処方が重要となります。
非薬物治療
リハビリテーションや生活習慣の改善が、脳血管性認知症の進行を抑えるための基本的な治療となります。特に、運動療法は血流を改善し、筋力やバランス感覚を維持するために重要です。ウォーキングやストレッチなどの軽度な運動を継続することで、身体機能の維持が期待できます。
食事療法もまた、脳の健康を維持するために欠かせません。塩分や脂肪分を控え、野菜や果物を多く摂取することで、動脈硬化を予防し、脳の血流を改善することができます。また、魚に含まれるオメガ3脂肪酸が認知機能に良い影響を与えるとされており、積極的に取り入れることが推奨されます。
さらに、認知トレーニングや社会活動への参加も、認知機能の維持に効果的です。パズルや読書、会話を通じて脳を刺激することは、神経細胞の活性化につながります。家族や介護者の支援を受けながら、日常生活の中で無理なく取り入れることが重要です。
脳血管性認知症と診断されたら
診断を受けた後は、適切な支援を受けるための準備が必要です。介護保険の申請や利用可能な施設の確認を行い、患者さんや家族が安心して生活できる環境を整えましょう。
介護保険サービスを受けるための準備を行う
脳血管性認知症と診断された場合、早期に介護保険サービスの申請を行うことが重要です。介護保険は、日常生活の支援や医療サービスを受けるために不可欠な制度であり、適切なタイミングで手続きを進めることで、患者さんと家族の負担を軽減できます。
介護保険を利用するためには、市町村の窓口や地域包括支援センターに相談し、要介護認定の申請を行う必要があります。申請後、訪問調査や医師の意見書をもとに要支援・要介護度が決定され、それに応じた介護サービスを受けることができます。
また必要な支援を具体的に考えることも重要です。例えば、日常生活の中で特に困難を感じる動作や時間帯を記録し、医師やケアマネジャーと共有することで、より適切な介護プランを作成できます。早めの準備と情報収集が、安心した生活を送るための第一歩となります。
自宅近辺の介護施設やデイケア施設を調べる
脳血管性認知症が進行すると、日常生活を支えるために介護サービスの利用が必要になる場合があります。そのため、早めに自宅近辺の介護施設やデイケア施設を調べ、どのような支援が受けられるのかを把握しておくことが大切です。
介護施設には、特別養護老人ホームや有料老人ホーム、グループホームなど、介護度やサービス内容に応じてさまざまな選択肢があります。また、日帰りでリハビリやレクリエーションを受けられるデイケア施設やデイサービスは、自宅での生活を維持しながら支援を受けるために有効な手段となります。
施設選びの際には、見学を行い、設備や職員の対応、提供されるプログラムを確認することが重要です。また、費用や利用条件についても事前に把握し、家族と相談しながら適切な施設を選ぶことが望ましいでしょう。早めの準備が、本人と家族双方の安心につながります。
まとめ
脳血管性認知症は、脳の血流障害によって発症し、段階的に進行する認知症の一種です。適切な治療とリハビリで進行を遅らせ、生活の質を維持できます。早期の診断と適切な対応が、患者さんや家族の負担を軽減するために重要となります。