認知症は、記憶障害や見当識障害のイメージが大きい病気ですが、顔つきの変化も症状の1つになります。認知症に伴う心理症状が、患者さんの表情にも現れるためです。
認知症で顔つきにどのような変化があるかを知っていれば、身近な方の表情の変化から、認知症の予兆に気付くことができるかもしれません。
本記事では、認知症の際に現れる顔つきの変化について、特徴や対処の方法も含めて解説していきます。認知症を早期発見できるよう、どのような表情の変化が見られるのか把握しておきましょう。
認知症になると顔つきが変わる
- 認知症になると顔つきが変わりますか?
- 認知症になると、顔つきが変わることがあります。認知症の患者さんによく見られる表情の変化は、以下のとおりです。
・顔が垂れる
・表情の変化が乏しくなる(無表情)
・元気のない顔つき・暗い表情になる
・目つきが悪くなる
・表情が怖くなる(怒り顔)
顔つきの変化には、認知症による行動・心理症状(BPSD, Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)が大きく関わっています。どのような心理症状が出ているかによって変化の種類も変わるため、表情から読み取れる心理症状に合わせた対応が必要です。
- 認知症になると顔つきが変化する原因は何ですか?
- 認知症による顔つきの変化には、以下の症状が関わっています。
・抑うつ状態
・怒りっぽくなる(易怒性)
・興味の喪失
・記憶能力・判断力の低下
・筋肉の強張り
これらの症状のうち、上3つは認知症のBPSDに関連しています。認知症によって平常時と異なる心理状態が続き、表情の変化に乏しくなる・元気がないように見える・目つきが悪く怖い表情が続くなどの顔つきの変化が起こるのです。記憶能力や判断力の低下という認知症の中核症状も、患者さんの不安につながり、暗い表情の原因になります。筋肉の強張りは、レビー小体型認知症やパーキンソン病との合併により現れる症状です。顔つきの変化と同時に手足の震えや歩行障害などが現れている場合は、パーキンソン症状を疑いましょう。
認知症になったときの顔つきの特徴
- 認知症になったときの顔つきの特徴を教えてください。
- 認知症による顔つきの変化の特徴は、大きく分けて3種類です。
・表情がなくなる
・暗い表情になる
・顔つきが怖くなる
表情の変化が乏しくなる・無表情でいることが増えた場合は、抑うつ症状によって物事への興味を失っている、あるいはパーキンソン症状の可能性があります。元気のない顔つきは、抑うつ状態や記憶能力・判断力の低下に基づく不安によるものです。目つきが悪くなり怖い表情が続いている場合は、認知症のBPSDによって怒りっぽくなっているのではないかと考えられます。
- 認知症の種類によって表情は違いますか?
- 認知症による顔つきの変化は、認知症全般に起こりうる症状が原因になるため、基本的には認知症の種類による表情の変化はありません。ただし例外があり、レビー小体型認知症の場合はパーキンソン症状が現れるため、表情が乏しくなる・無表情が続くなどの顔つきの変化が見られやすくなります。また、認知症の1種というわけではありませんが、パーキンソン病と合併した認知症の場合も同様です。表情の変化が乏しくなるという顔つきの変化は、パーキンソン症状のみに現れるものではないため、無表情が続くようになっただけでレビー小体型認知症の判断はできません。もともとパーキンソン病と診断されていた場合や、手足の震えや歩行困難などの症状と一緒に表情の乏しさが現れた場合は、レビー小体型認知症の可能性があります。
- 顔つきが変化したと思うときは何科を受診すればよいですか?
- 顔つきの変化が気になったときは、まずかかりつけの医師に相談しましょう。認知症による顔つきの変化が疑われる場合は、もの忘れ外来・認知症外来を受診するのもよいかもしれません。東京都にお住まいの方は、東京都認知症疾患医療センターのある病院も探せます。また、「受診する前に一度相談窓口に相談してみたい」という方は、お住まいの市町村にある認知症相談窓口や地域包括支援センターにあたるのもおすすめです。無理に抱え込まず、早めにお近くの医療機関やもの忘れ外来・認知症外来を受診しましょう。
- 気分転換などで表情が和らぐことはありますか?
- 認知症による顔つきの変化には、患者さんの心理状態も関連しているため、気分転換などを行うことで表情を和らげることが可能です。例えば、音楽は、認知症におけるBPSDや不安の改善に効果があるとの結果が報告されています。また、認知症による抑うつ状態で興味を喪失している場合、好きだった趣味や余暇活動によって刺激を与えることも有効な手段です。特に余暇活動は認知症そのものの発症を抑えるという報告もよくあります。したがって、余暇活動になりえる気分転換は認知症におけるBPSDを軽減し、表情を和らげる可能性があるといえるでしょう。ただし、顔つきが怖くなっている場合は易怒性によって苛立ちやすくなっています。患者さんの感情を過度に刺激しないよう、目つきが悪くなっているときなどは無理に気分転換に誘わないよう留意してください。
認知症早期発見の重要性
- 認知症早期発見の重要性について教えてください。
- 認知症の早期発見は、患者さんおよびご家族の不安・負担軽減や、患者さんの状態に応じた適切な医療・介護サービスの提供につながります。認知症の中核症状である記憶障害・見当識障害は、患者さん自身も周りの方も不安で苦しむものです。認知症による顔つきの変化で、元気なく暗い表情が続いているときには、自分の患っている症状への不安が現れているともいえます。認知症の兆候を早期に発見し受診することで、患者さんの症状や不安に合った適切なサポートを受けることが可能です。また、患者さん自身もご家族の方も、認知症との適切な付き合い方を知ることができます。認知症は、種類によっては薬物療法と非薬物療法を組み合わせることで改善できる病気です。改善が見込めない種類の認知症でも、適切な治療を受けることで病状の進行を緩やかにできます。患者さんやご家族の不安な期間を短くするためにも、少しでも認知症の症状が見られたら、かかりつけの医師や認知症外来に相談しましょう。
- 顔つき以外の認知症の初期症状を教えてください。
- 認知症の初期に現れる症状は、顔つきの変化以外にも以下のものがよく見られます。
・全般性注意障害(作業中のミスの増加、反応が遅くなるなど)
・失書
・失算
上記の3つは、認知症全般に見られる初期症状です。認知症の種類によっても、初期症状は変化します。
・アルツハイマー型認知症:健忘・失語・構成障害(模写や模倣ができなくなる)・地誌的失見当識
・レビー小体型認知症:健忘・構成障害・錯視や幻視
・前頭側頭葉変性症:遂行機能障害・失語・脱抑制(状況を認識した適切な行動ができなくなる)
・嗜銀顆粒性認知症:健忘
・大脳皮質基底核変性症:失行
これらの症状が見られた場合、認知症の初期段階になっている可能性があります。早めにかかりつけの医師やもの忘れ外来・認知症外来などに相談しましょう。
- 顔つきが変わった後の日常生活での接し方のコツはありますか?
- 認知症によって顔つきが変化した場合、表情によって適切な接し方が変わります。元気のない暗い表情のときは、抑うつ状態や記憶能力・判断力の低下によって不安を抱えている可能性があるため、患者さんの気持ちに寄り添って接しましょう。相槌をしながら、患者さんの話や思いを親身になって聞くことで、不安軽減につながります。表情の変化が乏しくなった場合、認知症以前に患者さんが好んでいた趣味や音楽で、興味を引いてあげるのがおすすめです。BPSDによる興味の喪失が無表情につながっている際には、趣味による刺激を与えることで、表情の緩和が期待できます。顔つきが怖くなっている場合は、患者さんを怒らせないためにも、無理に接することは控えましょう。落ち着いた顔つきになるまで見守りつつ、どのような行為が患者さんの怒りにつながるのか把握することも重要です。顔つきから患者さんがどのような心理状態に陥っているのかを判断し、適切な距離感で接することがコツになります。
- 表情を和らげるトレーニングはありますか?
- 抑うつ状態やパーキンソン症状による筋肉の強張りで顔つきが変化している場合、笑顔つくりトレーニングによって、表情が和らぐ可能性があるかもしれません。笑顔つくりトレーニングとは、もとはパーキンソン病の患者さんの笑顔を引き出すために考案されたトレーニングです。表情筋トレーニングによって顔の筋肉を動かしつつ、同時にプラス思考トレーニングで心理状態の改善も図ります。身体面と精神面の両方からアプローチできるため、固まった表情の緩和につながるでしょう。
編集部まとめ
今回は、認知症による顔つきの変化について解説してきました。認知症は、年を重ねるにつれて誰もがかかりうる可能性のある病気です。
ただし、早期に認知症を発見し適切な医療サービスを受けることで、症状の改善や進行速度の低下を見込めるかもしれません。
顔つきの変化から認知症の兆候をつかめるよう、あらかじめ知識をつけておくことが重要です。