認知症では早期発見が重要といわれますが、認知症を初期段階で発見するにはどのような事象を目安にするべきなのでしょうか。また、そのために家族にはどのようなことができるのでしょう。
この記事では認知症の早期発見がいかに患者さんを助けるかを解説し、認知症の予防・進行抑制の方法も紹介します。
認知症の早期発見の目安
認知症は早期発見が何よりも大切です。以下のような初期症状が現れたら、早めに医療機関を受診してください。
もの忘れがひどい
記憶には、覚えること・情報を保存しておくこと・情報を思い出すことの3つの過程がありますが、もの忘れとはいったん覚えたことを思い出せない状態を指します。
もの忘れには老化によって起こるものと病的な認知症を意味するものがあり、朝ごはんの内容を詳しく思い出せないものは加齢による記憶力低下ですが、朝ごはんを食べたこと自体を忘れるようなら認知症かもしれません。
認知症のなかでもアルツハイマー病では記憶力の低下が著しく、病気の初期から日常の出来事や思い出などのエピソード記憶の障害が出ます。
一方レビー小体型認知症では初期にはもの忘れは目立ちにくく、注意力や物事を遂行する力から失われていきます。
理解力・判断力が低下する
理解力や判断力の低下では、まず考えるスピードが遅くなり、結論を出すのに時間がかかります。また一度に処理できる情報量が減るので、2つ以上の情報を同時に処理できず複雑な話に対応できません。
いつもと違う出来事に遭遇すると混乱をきたすようになるので、例えばお葬式といった非日常的な場面で著しく混乱し、それをきっかけに認知症が発覚する場合もあります。
観念と具体が結びつかなくなり、糖尿病だから食べ過ぎはいけないとわかっていても目の前の甘いものを食べてしまいます。
また、目に見えないメカニズムが理解できません。そのため自動販売機・自動改札・銀行のATMなどに始まり全自動洗濯機などをうまく使用できなくなる場合もあります。
集中力・注意力が低下する
認知症により集中力や注意力が低下すると、テレビドラマの筋が追えなくなり、ドラマを見なくなるなどの変化が起こります。また、趣味の手芸・工作や料理などの家事を途中で放りだすケースも見られます。
性格や好みが変わる
感情を制御する頭の働きが鈍るため、不適切な場面で怒ったり泣いたりする場合があります。また意欲の低下により、熱心だった趣味への興味を失う方もいます。
性格が変わる事例も見られ、几帳面な方がだらしなくなったり思いやりのあった方が乱暴になったりするほか、短気だった方がますます気短かになるといった元々の性格が極端に現れるのも認知症の初期に見られる症状です。
不安感が強い
不安感が強くなり、睡眠障害・抑うつ気分・妄想・幻覚などの精神障害の症状も認知症の初期段階によく見られます。
睡眠障害には眠剤、不安症状には安定剤など症状に応じた薬を投与しますが、薬剤以外の介護の工夫により患者さんの不安感をやわらげることも大切です。
認知症を早期発見する重要性
認知症を早期発見できると以下のような利点が得られます。患者さん本人や支える回りの方のために、病気の早期発見は大変重要です。
今後の生活・ケアの準備ができる
認知症の早期発見により、生活やケアに関して十分な準備をする時間を持てます。今後を見据えた介護サービスの調査や検討・選択あるいは費用の見積もりなど、余裕をもって実行すれば適切なケアプランが作成できるでしょう。
ケアマネージャーの活用も視野にいれてください。認知症の専門看護師によるマネジメントやモニタリングを6ヵ月実施した結果、患者さん本人の行動や心理症状、ご家族の負担感の改善などが確認されています。こうした対応はケアの開始が早い程、大きな成果を得られます。
認知症の改善・進行軽減につながる可能性がある
認知症では症状の進行を遅くはできますが、状態をもとに戻したり進行をまったく止めたりはできません。よって、少しでも症状が軽いうちの治療開始が大切です。
認知症を早期に発見し適切な治療を行えば、健康でいる時間を増やすことができます。認知症の一歩手前である軽度認知障害の段階で気付けば早めの対応が可能になり、日常生活に支障が少ない状態を長く保てます。
家族が本人の意向を把握できる
患者さん本人が自ら意思決定できる段階で、家族が本人の今後の意向を確認しておくことも大切です。患者さん本人も含め、今後生活がどのようになっていくかを家族・関係者を交えて話し合い、これから起こりうる事態への対応方法を患者さんの意志を尊重しながらあらかじめ決めておきましょう。それにより患者さんの意向をできる限り尊重したケアが可能になります。
認知症の進行を抑える方法
認知症の進行を完全に止めることはできませんが、進行を抑える方法はあります。少しでも進行を遅らせるために、以下のような方法が有効とされます。
生活習慣を見直す
睡眠不足・睡眠障害があれば改善し、生活リズムをととのえましょう。引きこもりがちで人と接する機会がないと認知症が進行するおそれがあります。1日中テレビを見てウトウトしているといった生活であれば改める必要があるでしょう。
外に出るのを嫌がる方もいますが、デイサービスなどを利用して、少しでも社会と接する機会をもつことが重要です。
また、栄養バランスのよい食事を心がけ、葉酸といったビタミン類や魚の摂取を心がけてください。さらに、定期的な運動習慣は認知症の進行防止に大変効果があるといわれています。
生活習慣病も認知症の危険性を高める要因となります。糖尿病と脳卒中は中年期でも更年期でも認知症のリスクを高めるとされます。また、高血圧や肥満・脂質異常症は、特に中年期で認知症の危険性を高める病気です。そのため認知症の進行を遅らせるためには、生活習慣病にかからないように気をつけ、すでにかかっている場合は早めに治療をすることが大切です。
喫煙も認知症のリスクを高める習慣のひとつです。喫煙習慣のある方は認知症になりやすいと言われており、早めの禁煙が認知症の予防に効果的であるとの報告もあります。喫煙をしている方はすこしでも早く禁煙をしてください。
また、適度な飲酒には認知症の予防効果があるとされますが、多量の飲酒は脳を萎縮させ認知症のリスクを高めます。飲酒の適量には個人差がありますが、できるだけ過度の飲酒を控えることが認知症のリスクを抑えることに繋がります。
有酸素運動を取り入れる
脳のなかで記憶を司っている海馬は、認知症になると萎縮を始めます。しかしウォーキングやサイクリングなど有酸素運動をすると脳の血流促進や神経細胞の合成に関わるたんぱく質の増加によって、海馬の体積が増加するといわれています。また認知症の発症に関係の深い前頭前野の血流促進や、アルツハイマー病に関係する脳のアミロイド斑(老人斑)減少も期待できる効果です。
運動の目標は週3回程度がのぞましいとされ、ウォーキングなら1日7,000〜8,000歩程度が目安です。
有酸素運動を含む運動習慣によって実行機能や言語機能、処理速度などの認知機能が改善すると報告されています。75歳以上の患者さんでは実行機能のほかに、短期的な記憶力や推理力への有効性も確かめられました。
運動では脳の血流促進・神経細胞の増加による脳の容積増に加え、認知機能低下に影響するうつ症状を減らしたりよりよい睡眠を引き出したりする効果も見られます。それらは、いずれも認知症の進行抑制に役立つものです。
認知トレーニングに取り組む
専門機関で行われる認知トレーニングに取り組むのも認知能力の維持に効果的です。特に記憶に特化したトレーニングが全般的認知機能の改善に有効との報告が出ています。
トレーニングを途中で辞めると効果が持続しないとの研究結果もあり、認知トレーニングには継続が重要な要素です。
認知トレーニングでは多くの物事のなかから必要な物事を選択して注意を向けられる機能と同時に2つ以上のことに注意を向けられる機能への効果が報告されていますが、高齢者に関する注意機能の調査では十分な改善が見られなかったとする報告もあり、認知トレーニングの内容やそれによる改善の内容に関しては効果検証のさらなる研究が待たれます。
一方、記憶機能改善を目的としたトレーニングでは十分な機能改善効果が見られるとされており、記憶に関係する脳領域の血流増加や脳内ネットワークの活性化が期待できるでしょう。
家族が認知症の早期発見のためにできること
認知症の早期発見・早期治療および認知症の治療・ケアには家族や関係者・周りの方たちの助力が大切になります。家族の認知症を少しでも早く発見するために、家族にできる例をあげます。
高齢の家族と定期的に会話する
認知症の早期発見のために、高齢の家族とは定期的に会話をする時間をもちましょう。会話のなかで次のような兆候を見つけたら、認知症のサインである可能性があります。
- 最近聞いた話を繰り返せない
- 同じことをしばしばいう
- 同じ話を繰り返す
- 話の脈絡をすぐに失う
- 質問を理解していない返事が返ってくる
- 会話の辻褄を合わせようとする
- 会話の途中で電話などで中断した後、もとの会話が思い出せない
- 家族への依存傾向がある
本人不在でももの忘れ外来へ
認知症では早期発見早期治療が重要ですので、認知症が疑われるようでしたら早めにもの忘れ外来を受診し、患者さんの症状がもの忘れなのか認知症なのかを確認してください。その際、患者さん本人に切り出しにくい・患者さんが受診を嫌がるなどの場合はまずは本人不在でご家族だけでも医師に相談しましょう。
もの忘れには、自覚的なもの忘れ・軽度認知障害・認知症の3つの段階があります。自覚的なもの忘れでは、加齢によるもの忘れが気になるものの認知機能は正常範囲にあります。軽度認知障害では、まだ認知症ではない状態です。
さらに、記憶力の低下・判断力注意力の低下などが見られ日常生活に支障をきたすと考えられる場合に認知症が疑われます。
もの忘れをするからといって必ずしも認知症を発症しているとはいえません。もの忘れの程度を確認し診断を受けるためにも、できるだけ早期の受診をおすすめします。
受診を嫌がる場合はかかりつけ医に相談する
患者さんご本人がもの忘れ外来などの受診を嫌がる場合は、まずかかりつけ医に相談してください。持病や飲んでいる薬の影響で認知症と似た症状が現れているだけかもしれず、かかりつけ医なら症状の原因の正しい評価ができます。
知らない病院の受診を患者さんが嫌がっているのなら、いつもかかっているかかりつけ医に受診をすすめられれば、患者さんも納得して受診してくれるかもしれません。
認知症の診断方法
認知症の診断では、問診などのほかに神経心理検査と画像検査を行います。神経心理検査とは認知機能の障害程度を見るテスト形式の検査で、次のようなものがあります。
- 長谷川式簡易知能評価スケール:おおまかな知的機能の障害程度を判定する検査です。年齢・今日の日付・今いる場所・単語などの即時記憶・引き算など9項目も問題があります。30点満点で、20点以下の場合は認知症である可能性が高いと診断されます。
- MMSE:長谷川式簡易知能評価スケールと似た内容で、さらに図形を模写する能力・文章の記載をする能力などを測る項目があります。30点満点で24点以下の場合に認知症の疑いがあると見られます。
- 時計描画検査:数字と針のある時計の絵を描いてもらう検査です。円の大きさ・数字の配置・針の位置などから側頭葉・前頭葉・頭頂葉の機能を測ります。
- FAB:前頭葉の機能を中心とした検査です。理解行動・言語流量性などを調べる6項目からなり、前頭側頭型認知症の可能性を見るものです。
- ADAS:記憶を中心とする機能検査です。11の課題で構成されており、高得点である程障害の程度が高いことを意味します。重症度の判定よりむしろ、複数回テストを行うことで、認知機能の変化を見るための検査です。
- CDR:認知症の重症度を測る検査であり、重度の認知症で患者さんからの協力が得られない場合でも専門家による判断が可能です。また、ご家族や介護者の方からの詳しい情報からでも評価ができます。記憶・介護状況・社会適応などの6項目を5段階で評価し、それらを総合して重症度を判定します。
画像検査ではまずMRIを行い、MRIが不可の場合はCTで脳の形態をみます。通常のアルツハイマー病では海馬が強く萎縮していますが、若年性アルツハイマー病では海馬の萎縮は少なく、頭頂葉の強い萎縮が見られるのが特徴です。
次に脳血流SPECTか脳FSGーPETで脳の機能を確認します。脳FSGーPETの方が詳しく機能異常をとらえますが、こちらは自由診療となり、保険診療の場合は脳血流SPECTを実施します。
アルツハイマー病を発症していると、脳内の頭頂連合野・側頭連合野・後部帯状回・楔前部・進行すると前頭連合野の血流や糖代謝の低下が確認されますが、これらの検査により、アルツハイマー病の早期発見が実現可能です。
認知症の診断を受ける際の注意点
診察では、飲んでいる薬・既往症・患者さんの普段の様子などを尋ねられます。すぐに答えられるように患者さんの日常の様子や見られる症状をメモしておくとよいでしょう。お薬手帳や連携パス手帳もあればもっていってください。
また診断結果を聞くときはご家族も同行してください。医師の説明を患者さんとともに聞いて、のちに再確認できる体制をとりましょう。
検査の結果認知症だと診断された場合、患者さん本人が少なからずショックを受けることも考えられ、ご家族がそばにいて支えてあげることも大切です。
意思決定の必要がある場合、ご家族や介護者が近くにいることで意思決定能力が高まるとする報告もあります。状況によっては、よりよい治療法はないかどうか確認するために、セカンドオピニオンの検討も視野にいれてください。
まとめ
認知症は進行を緩める方法はありますが、進んだ病状をもとに戻すことはできません。そのため少しでも早い時点で治療を始める必要があり、早期発見早期治療が何よりも大切です。
また、早期の治療では薬の効き目も高くなりますし、治療法も幅広く選択できます。
認知症の初期段階では強いもの忘れや判断力の低下、不安感などの症状が現れます。
家族との会話のなかで、同じ内容を繰り返す・辻褄合わせをはかる・会話の内容を理解していないなどの症状が確認される場合もあるでしょう。いずれの場合も早期に医療機関の受診をおすすめします。
認知症と診断されても、進行を遅らせるために、生活習慣の改善・継続的な運動・認知トレーニングの実施などさまざまな方法があります。これらの方法には認知症予防の効果もあるため、詳しい内容を知ってご自身の毎日の生活に活かしてください。
参考文献
- 認知症・もの忘れ|国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
- 認知症を理解する|厚生労働省
- 認知症初期症状発見ときっかけについて
- 認知症ハンドブック
- 身近にある認知症の早期発見
- 認知症の人の日常生活・社会生活における 意思決定支援ガイドライン
- あたまとからだを元気にするMCI ハンドブック
- 認知症の早期発見と予防
- 認知症を進行させない!認知症ケア
- 運動は脳の老化を食い止める!
- もの忘れセンター外来|国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
- 認知機能検査について|和歌山県立医科大学附属病院 認知症疾患医療センター
- アルツハイマー病・認知症の診断・治療|近畿大学病院
- 認知症の診断と治療|大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学
- 施設の概要|三重大学医学部附属病院
- 認知症相談窓口|北里大学病院
- 認知症を防ぐために今日からできること認知症に強い脳を作ろう